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病弱令嬢は、死にたくないので闇堕ち王子を甘やかします!  作者: ゆにみ
本編

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48/61

48、思い出したのは(sideルキウス)

 感情のままに、リリアーナ・フランヴェールを転送してしまった。


 その瞬間、最後に彼女が見せた――耐えるような、悲しそうな表情が脳裏に焼きつく。


 なぜか、胸が締めつけられた。


 それに……。


 (……見覚えがある)


 理由もわからぬまま、言葉が零れ落ちた。


 「……リリアーナ……?」


 名を呼んだ、その刹那。


 頭を鈍器で殴られたような衝撃が走る。


 「……っ」


 視界が白く弾け、次の瞬間――

 雪崩のように記憶が流れ込んできた。


 彼女との出会い。

 想い。

 共に過ごした、穏やかな時間。

 そして......別れ。



 「……はっ」


 荒く息を吐く。


 今まで黒塗りにされていた記憶が、容赦なく蘇っていく。


 俺は……また同じことをした。


 話し合いから逃げ、感情をぶつけ、彼女を遠ざけた。

 あの時と同じように。


 ――また、あんな顔をさせてしまった。


 拳を強く握りしめる。


 「……くそ」


 もう一度、彼女に会えたなら、今度こそ想いを伝えると決めていたはずなのに。

 こうしてはいられない。

 すぐにでも、リリアーナの元へ向かわねば。


 もう二度と、後悔しないように。


 意識を集中させ、彼女のいる公爵家を思い描いた、その時。


 ――コンコン。


 ノックの音が、静まり返った部屋に響く。


 「ルキウス……今、いいか?」


 レオナード・アウレリウス、兄の声だった。


 嫌な予感が、背筋を走る。


 (……まずいな、先ほどの瞬間移動を......見られている)


 短く息を整え、平静を装う。


 「......はい、兄上」


 扉が開き、兄が入室する。

 ゆっくりと室内を見渡し、静かに言った。


 「……リリアーナ嬢は、もういないんだね」


 やはり、気がついて……。

 俺は答えず、ただ視線を伏せた。


 兄は、ためらいなく核心を突く。


 「ルキウス。お前は――王家の異能を持っているね?」


 見られた以上、ごまかしようがなかった。


 「......ええ」


 「随分と、苦しい生き方をしてきたようだ」


 その言葉に、胸の奥が僅かに揺れた。


 「……ただ、生きたかっただけです」


 兄は一瞬だけ目を見開き、やがて静かに息を吐いた。


 「そうだろうね」


 そして、低く告げる。


 「……僕と手を組まないか」


 顔を上げる。


 「黙っていてあげよう。お前の異能のことも、これまでのことも」


 「代わりに、僕は王妃の動きを止める。――あの人は、黒だ」


 言い切る声音だった。


 今まで兄上は王妃側だと思っていたが、違うのか?

 信用しても良いのだろうか。


 動揺しながらも、問い返す。


 「……兄上は、王妃に与しているものだと」


 「まさか。僕は“王位に都合のいい方”につくだけだ」


 冷たいほど合理的な答え。

 

 俺はもちろん王妃のことは恨んでいる。

 だが、兄にとっては実の母。ここまで残酷になれるとは。


 そして、続く言葉は意外だった。


 「話は変わるけど......僕も本当は、リリアーナ嬢を好ましく思っていたんだよ」


 その言葉に無意識に身体が強張る。

 兄上はそれを見逃さなかった。


 「でも、安心して。僕は彼女に振られている」


 「悔しいけどね。あの子の心に入り込む隙は、最初からお前しかなかった」


 兄は、どこか穏やかに微笑んだ。


 「記憶が戻ったんだろう?」


 「……先ほど」


 「なら、無駄な遠慮はするな」


 そして、静かに告げる。


 「ルキウス。お前は――後悔するな」


 その言葉が、胸に深く突き刺さった。


 俺は、ゆっくりと頷く。


 「……兄上の右腕になります」


 「いい返事だ」


 ――もう、逃げない。


 今度こそ、自分の言葉で、彼女に想いを伝える。

 そう、固く誓う。


 兄は思い出したように、口を開いた。


 「早速、お前にやってもらうことがある」


 その表情は、どこか楽しそうで。だが、底が見えなかった。

 王の資質を持つものとは、兄のような人物を指すのだろう。


 彼女と話ができるのは、もう少し先になりそうだ。

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