48、思い出したのは(sideルキウス)
感情のままに、リリアーナ・フランヴェールを転送してしまった。
その瞬間、最後に彼女が見せた――耐えるような、悲しそうな表情が脳裏に焼きつく。
なぜか、胸が締めつけられた。
それに……。
(……見覚えがある)
理由もわからぬまま、言葉が零れ落ちた。
「……リリアーナ……?」
名を呼んだ、その刹那。
頭を鈍器で殴られたような衝撃が走る。
「……っ」
視界が白く弾け、次の瞬間――
雪崩のように記憶が流れ込んできた。
彼女との出会い。
想い。
共に過ごした、穏やかな時間。
そして......別れ。
「……はっ」
荒く息を吐く。
今まで黒塗りにされていた記憶が、容赦なく蘇っていく。
俺は……また同じことをした。
話し合いから逃げ、感情をぶつけ、彼女を遠ざけた。
あの時と同じように。
――また、あんな顔をさせてしまった。
拳を強く握りしめる。
「……くそ」
もう一度、彼女に会えたなら、今度こそ想いを伝えると決めていたはずなのに。
こうしてはいられない。
すぐにでも、リリアーナの元へ向かわねば。
もう二度と、後悔しないように。
意識を集中させ、彼女のいる公爵家を思い描いた、その時。
――コンコン。
ノックの音が、静まり返った部屋に響く。
「ルキウス……今、いいか?」
レオナード・アウレリウス、兄の声だった。
嫌な予感が、背筋を走る。
(……まずいな、先ほどの瞬間移動を......見られている)
短く息を整え、平静を装う。
「......はい、兄上」
扉が開き、兄が入室する。
ゆっくりと室内を見渡し、静かに言った。
「……リリアーナ嬢は、もういないんだね」
やはり、気がついて……。
俺は答えず、ただ視線を伏せた。
兄は、ためらいなく核心を突く。
「ルキウス。お前は――王家の異能を持っているね?」
見られた以上、ごまかしようがなかった。
「......ええ」
「随分と、苦しい生き方をしてきたようだ」
その言葉に、胸の奥が僅かに揺れた。
「……ただ、生きたかっただけです」
兄は一瞬だけ目を見開き、やがて静かに息を吐いた。
「そうだろうね」
そして、低く告げる。
「……僕と手を組まないか」
顔を上げる。
「黙っていてあげよう。お前の異能のことも、これまでのことも」
「代わりに、僕は王妃の動きを止める。――あの人は、黒だ」
言い切る声音だった。
今まで兄上は王妃側だと思っていたが、違うのか?
信用しても良いのだろうか。
動揺しながらも、問い返す。
「……兄上は、王妃に与しているものだと」
「まさか。僕は“王位に都合のいい方”につくだけだ」
冷たいほど合理的な答え。
俺はもちろん王妃のことは恨んでいる。
だが、兄にとっては実の母。ここまで残酷になれるとは。
そして、続く言葉は意外だった。
「話は変わるけど......僕も本当は、リリアーナ嬢を好ましく思っていたんだよ」
その言葉に無意識に身体が強張る。
兄上はそれを見逃さなかった。
「でも、安心して。僕は彼女に振られている」
「悔しいけどね。あの子の心に入り込む隙は、最初からお前しかなかった」
兄は、どこか穏やかに微笑んだ。
「記憶が戻ったんだろう?」
「……先ほど」
「なら、無駄な遠慮はするな」
そして、静かに告げる。
「ルキウス。お前は――後悔するな」
その言葉が、胸に深く突き刺さった。
俺は、ゆっくりと頷く。
「……兄上の右腕になります」
「いい返事だ」
――もう、逃げない。
今度こそ、自分の言葉で、彼女に想いを伝える。
そう、固く誓う。
兄は思い出したように、口を開いた。
「早速、お前にやってもらうことがある」
その表情は、どこか楽しそうで。だが、底が見えなかった。
王の資質を持つものとは、兄のような人物を指すのだろう。
彼女と話ができるのは、もう少し先になりそうだ。
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