45、音もなく突き放す
目が覚めると、いつの間にか朝だった。
ああ、そうか……。
私、あのまま眠ってしまったんだ。
体が、いつもより軽い。
(ルキウス様……異能を使ってくれたんだわ)
その事実に、胸の奥がじんわりと温まる。
私のことを覚えていなくても――優しさだけは、何も変わっていない。
やっぱり……私は、ルキウス様と一緒にいたい。
一瞬、彼を守るためにレオナード殿下との婚約を選ぶ道も浮かんだ。
けれど、それはきっと「逃げ」だ。
彼は弱くなんてない。
今はまだ証拠がなくても、冤罪を証明できたら。
王妃を断罪できたら。
彼を取り巻く世界は、必ず変わる。
二人で、笑って過ごせる日が――来るかもしれない。
何を、弱気になっていたのだろう。
私だって、戦える。
今は、ルキウス様は私を覚えていない。
それでも昨日、思わず抱きついてしまった私を、彼は拒まなかった。
抱きしめ返してくれた。
頬が、少し熱くなる。
癒しの異能も使ってくれた。
――少しだけ、期待してもいいのかもしれない。
よし。
まずは、レオナード殿下に婚約の断りを入れよう。
もう一度、ルキウス様との距離を縮めるために。
私は、がんばると決めたのだから。
***
王宮でレオナード殿下に会い、婚約は受けられないと告げた。
「……そうか。少しは期待していたんだけどね」
「ごめんなさい。でも……私、諦めたくなくて」
「大丈夫かい? この前のルキウスの様子を見ると――」
「私のことを、覚えていませんよね」
殿下は一瞬、言葉に詰まった。
「……すまない。辛いことを言わせて」
「いえ。それでも、もう一度がんばるって決めたので」
「……なるほど。これは、入り込む隙間はなさそうだ」
少しだけ、寂しそうに笑ってから、殿下は続ける。
「婚約で彼を助ける、なんて言ったけれど……僕は正しくありたい。
真実を突き止める。そのためなら、協力するよ」
「……殿下……」
「これは個人的な感情だ。気にしなくていい。
さあ、馬車まで送ろう」
王宮の廊下を歩いていると――
前方に、見覚えのある漆黒の髪が見えた。
(……ルキウス様)
思わず足を止める私の横で、殿下が小さく囁く。
「……話してくるかい?」
「え……」
「僕のことは気にしないで」
「……ありがとうございます」
深く頭を下げ、私は彼の背中を追った。
「ルキウス様……!」
名前を呼ぶと、彼の肩がわずかに揺れる。
振り返った黄金の瞳が、私を捉えた。
けれど――
(……冷たい)
そこに、昨日の温度はなかった。
嫌な予感を押し殺し、私は口を開く。
「あの……王宮に来ていて。ご挨拶をと……」
「それと、この前はありがとうござ――」
「話しかけないでもらえるか」
淡々とした声だった。
感情すら、感じさせない。
「……え」
鋭い視線が、静かに私を貫く。
――それは、
もう一度近づこうとした私の心を、
音もなく突き放す、明確な拒絶だった。
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