44、なんて女だ……
後半、ルキウス視点!
ルキウス様が王都へ戻られてからの、いくつかの言動で――私は理解してしまった。
少なくとも、
私に関する記憶は、失われている。
どこまで覚えていて、どこからが抜け落ちているのか。
それは分からない。
ただひとつ確かなのは――
私を見る彼の瞳が、「過去」を探しているということだった。
切実で、焦りを孕んだその視線が、胸に突き刺さる。
(……全部、話していいの?)
思い出してほしい。
本当は、それだけを願っている。
けれど――
もし、信じてもらえなかったら?
もし、拒絶されたら?
その先を想像するだけで、心が折れそうになる。
それに。
ルキウス様を守るためなら――
レオナード殿下と婚約するという選択肢も、あるのかもしれない。
……それなら。
今のまま、忘れられていた方が――
お互いにとって、幸せなのかもしれない。
それでも。
私の心は――。
「……なぜ、泣いている」
低い声に、はっとする。
気づけば、頬を伝うものがあった。
「あ……れ……? す、すみません……」
自分でも、理由が分からない。
身体は、正直だった。
心の奥ではずっと――
一緒にいたいと、叫んでいる。
その瞬間。
ルキウス様の表情が、ふいに歪んだ。
片手でこめかみを押さえ、苦しそうに息を詰める。
「……っ」
「だ、大丈夫ですか……!?」
反射的に、駆け寄っていた。
ルキウス様はうっすらと目を開き、
私を見て――一瞬、はっきりと瞳を見開いた。
「……君は……」
息が、止まる。
「……俺は……この声を、知っている……?」
それだけで、胸が壊れた。
言葉より先に、身体が動いていた。
気づけば、彼に抱きついていた。
彼の身体が、わずかに強張る。
「……ルキウス様……」
自然に、そう呼んでいた。
一瞬の迷いのあと、
彼の腕が、そっと私の背に回る。
久しぶりの温もり。
それだけで、張り詰めていたものが切れた。
視界が、白く滲む。
(……ごめんなさい)
守りたいのに。
離れられない。
私は、そのまま意識を手放した。
***
ルキウスは、眠っているリリアーナをそっと寝台へ降ろした。
「......結局、聞けなかったな」
だが、間違いない。
彼女と俺はきっと何か関わりがあった。
俺は、物心がついた時から、王妃に命を狙われてきた。
今回の戦争への派遣もどういう流れなのか覚えてはいない。
だが恐らく、王妃の差金だろう。
そして――
リリアーナ・フランヴェール。
あのパーティーで感じた、説明のつかない感情。
倒れた彼女を、当然のように支える兄上を見た瞬間、
胸の奥が、強く締め付けられた。
――そこは、俺の場所だ。
理由など分からない。
分からないのに、確信だけが残った。
ひとまず、眠っている彼女に癒しの異能を使った。
穏やかな呼吸に心が落ち着いた。
すぐにでも彼女を調べなくては。
そう思い、俺は王宮へ異能を使って戻った。
彼女について調べると、衝撃的な内容が目に入る。
「……は?」
思わず、声が漏れていた。
なんと俺と彼女は、かつて婚約していた。
おかしい。
彼女は王妃側の人間では……?
疑問が頭を掠めるが、すぐに納得した。
婚約はすでに破棄されていたのだ。
そして、今では――
彼女と兄上の婚約が、噂されている。
……なるほど。
乾いた笑いが、喉から漏れた。
名前を呼ばれた時の、あの奇妙な高揚。
彼女に惹かれた感覚。
――弄ばれたのか?
王妃が、俺の心を折るために仕組んだ。
そして最後は、王位を継ぐ兄上の元へ。
先ほども彼女は、過去の俺との関係を言わなかった。
なのに、俺に抱きついてきた。
思わず心が揺さぶられてしまった。
あれは、わざとか?
今回も俺を再び誘惑して捨てようと?
とんでもない悪女じゃないか。
そう思わなければ、俺の中に残ったこの感情に、説明がつかなかった。
「なんて女だ……」
怒りより先に、自分が愚かだったという感情が湧いた。
期待してしまった。
心を通わせていた相手が、いたかもしれないと。
記憶が欠けている中、戦地で頭に響いてくる声が頼りだったのに。
とんだ期待外れだった。
そんなもの――
俺の人生に、あるはずがなかったのに。
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