43、俺と君は、何だった?
パーティーが終わり、レオナード殿下と別れた。
送ると言って聞かず、結局、公爵家の門前まで付き添われてしまった。
(……やっと、一人だわ)
自室へ戻った途端、張り詰めていた糸が切れる。
そうでなくても病弱な身体だ。今日は、もう限界だった。
侍女を呼ぼうと、呼び鈴へ手を伸ばした、その時。
――コツン。
窓の方から、小さな音がした。
(……え?)
思わず身構える。
次の瞬間。
――コンコン。
はっきりと、ノックの音。
恐る恐る窓辺へ近づき、そっとカーテンを引く。
そこにいたのは――
漆黒の髪に、黄金の瞳。
「……ルキウス様……?」
「突然、すまない」
低く落ち着いた声。
夢ではないと理解した途端、胸が強く脈打った。
私は急いで窓を開け、彼を室内へ迎え入れる。
二人きりの空間。
沈黙が落ち、空気が張りつめた。
先に口を開いたのは、ルキウス様だった。
「……君は、リリアーナ・フランヴェールと言ったな」
その距離感に、胸がちくりと痛む。
もしかしたら――少しは思い出してくれたのでは。
そんな淡い期待は、すぐに打ち砕かれた。
「……はい。ですが、殿下はどうしてこちらへ?」
「確かめたいことがある」
「……確かめたい、こと?」
短い沈黙。
彼は一歩、こちらへ近づいた。
「……名前を呼んでみてくれないか」
「名前……?」
「……ああ」
戸惑いながらも、私は息を吸う。
「……ルキウス様……」
その瞬間。
彼の瞳が、はっきりと揺れた。
「……そうか」
小さく息を吐き、彼は言う。
「ありがとう」
礼を言われる理由が、分からない。
けれど、少し反応してもらえたような気がする。
たったそれだけで、何故だか嬉しくなった。
(本当に、重症ね……)
自分で思っていたよりも、ルキウス様が大好きみたい。
だからこそ今の状況が心苦しい。
二人の間に再び沈黙が落ちた。
「………」
その直後だった。
急に、視界が白く滲む。
(……だめ……)
足元が崩れ、身体が傾いた。
次の瞬間、強い腕が私を抱き留める。
「――危ない」
同時に、身体の奥へ流れ込む、温かな感覚。
懐かしい。
忘れるはずがない。
(……癒しの異能……)
ゆっくりと目を開けると、すぐ傍に黄金の瞳があった。
「……ありがとうございます」
「……君は、この力を知っているのか?」
「え……?」
彼は、わずかに眉を寄せる。
「無意識に使ってしまった。だが……君は驚かなかった」
「それに――」
視線が、私を射抜く。
「この感覚を、俺は知っているような気がするんだ」
胸が、ぎゅっと締めつけられる。
ルキウス様は、私を覚えていない。
それでも――身体は、覚えているとでも言うの……?
「これは……偶然か? 俺は……君を知らないはずなのに」
低く、戸惑いを滲ませた声。
「君を見ていると、胸がざわつく」
「理由も、名前も分からない感情が、離れない」
一拍開けて、低く呟く。
「……なぜだ」
黄金の瞳が、逃げ場なく私を捉える。
「教えろ、リリアーナ嬢」
そして、静かに告げた。
「――俺と、君は……何だった?」
心臓が、大きく跳ねた。
――なんて、答えればいいの……?
次回、多分地獄です。
すみません。




