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病弱令嬢は、死にたくないので闇堕ち王子を甘やかします!  作者: ゆにみ
本編

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40/61

40、ずっと忘れなかった人

 気づけば、一年が経っていた。


 この一年、私は必死にルキウス殿下の事件を追ってきた。

 彼は、きっと冤罪だ。

 王妃が仕組んだことに違いない――そう信じて。


 確信は、確かにあった。


 けれど。


 「……何も、進展がない」


 王妃へと繋がる証拠は、ひとつも見つからなかった。

 積み重なったのは時間ばかりで、掴めたものはない。


 静かな焦燥が、胸の奥に溜まっていく。


 (本当に……ルキウス様が?)


 一瞬、よぎった疑念を、私はすぐに振り払った。


 「……いいえ。私が信じなくて、どうするの」


 それでも、正直に言えば。

 ルキウス様が戦地へ向かったあの日から、胸の奥に残るわだかまりを、完全には消せずにいる。


 ――あの日、見た夢。


 「……待っていてくれ」


 あれが、ただの夢ではなかったとしたら。

 ルキウス様は異能によって、瞬間移動ができる。


 もしかしたら。

 ほんの一瞬でも、会いに来てくれるのではないか。

 

 そんな淡い期待を、心のどこかで抱いていた。


 (……本当に、自分勝手ね)


 苦笑とともに、ため息がこぼれる。


 この一年で、セラフィナとは穏やかな関係を築けていた。

 時折、二人でティータイムを過ごすこともある。


 彼女も、兄も、事件について調べ続けてくれている。

 それでも、状況は変わらないままだ。


 そして――レオナード殿下。


 王妃は、事あるごとに私と彼を結びつけようとする。

 最近では、王家御用達のブティックからドレスが贈られ、第一王子のパートナーとしてパーティーに参加するよう、手紙まで届いた。


 王族からの命令を、無下に断ることは難しい。

 婚約だけは何とか避けているものの、世間ではすでに噂が立っている。


 ……彼自身も、厄介だった。


 一連の事件に疑問を抱いているらしく、調査には協力的だ。

 情報交換のため、顔を合わせることもある。


 ただ――。


 甘い言葉を囁かれ、別れ際には、手の甲に口づけを落とされる。


 (……これは、彼の性格?)


 それとも、王妃の意向に従っているだけなのか。


 原作では、彼の正義感について語られていた。

 だからこそ、疑いたくはない。


 それでも、胸の奥に小さな違和感が残る。


 静かに、息を吐いた。


 そして今。

 私は、パーティー会場に立っている。


 レオナード殿下の、パートナーとして。


 「……気が重いわ……」


 ルキウス様の事件は、何ひとつ解決していない。

 それなのに、私は何をしているのだろう。


 隣に立つレオナード殿下が、低く声をかけてくる。


 「……大丈夫? いつも母がすまないね」


 「そう思うなら、なんとかしてください」


 「そう簡単にはいかないんだ。ごめんね」


 苦笑混じりにそう言ってから、彼は続けた。


 「今日は君の席も、ちゃんと用意してある。無理はしなくていい。具合が悪くなったら、すぐに言って」


 「……ありがとうございます」


 「ふふ。今日は一段と綺麗だね」


 そう言って、彼は私の髪を一房すくい上げ、自然な仕草で唇を落とす。

 拒む間もなかった。


 思わず顔に熱が集まる。


  「……っ、殿下……! そのようなことはおやめくださいと、いつも申し上げているでしょう」


 「相変わらず釣れないなあ。そろそろ、名前で呼んでくれてもいいと思うけど?」


 「……本当に、勘弁してください……」


 冗談めかした笑顔の裏に、何を隠しているのか。

 その答えは、まだ分からない。


 私はただ、胸の奥に残る違和感を抱えたまま、華やかな会場へと足を踏み出した。




 ***



 「今日もダンスは控えておくかい?」


 「……申し訳ございません」


 「いや、構わないよ。ただ――思っていたよりも、ずいぶん身体が弱いんだね」


 穏やかな声色とは裏腹に、その視線はどこか鋭い。


 レオナード殿下はわずかに身を屈め、私の顔を覗き込んだ。


 「ルキウスと婚約していた頃は、もう少し元気そうに見えたけれど……どうしてだろうね?」


 胸がひやりと冷える。


 ――癒しの異能。


 あの秘密を、誰にも知られるわけにはいかない。


 「年々、弱くなっているのかもしれません」


 努めて淡々と答えると、殿下は小さく笑った。


 「……ふぅん。そういうことにしておこうか」


 試すような瞳。

 見透かされているようで、居心地が悪い。


 そのときだった。


 「――殿下! 至急、お耳に入れたいことが……!」


 血相を変えた従者が駆け寄る。


 殿下は軽く眉を寄せ、耳元へ身を寄せた。


 囁きは短い。


 だが、その瞬間。


 レオナード殿下の表情が、はっきりと変わった。


 「……なんだと?」


 低く、押し殺した声。


 「殿下……?」


 問いかけると、彼はすぐに笑みを作る。


 「いや、実は――」


 その言葉を遮るように、会場の奥から歓声が上がった。


 「きゃあっ……!」

 「戦地からお戻りになったのよ!」

 「圧倒的なお力だったと聞いたわ……!」

 「一年で戦争を終わらせるなんて……!」


 ざわめきが波のように広がる。


 空気が、変わった。


 心臓が、強く脈打つ。


 (……まさか)


 人々が左右へ割れていく。


 その先に立っていたのは――


 漆黒の髪。

 黄金の瞳。


 忘れたことなど、一度もない。


 誰よりも、会いたかった人。


 視界が揺らぐ。


 「……ルキウス様……」


 名を呼んだ声は、震えていた。


 彼はゆっくりとこちらへ歩み寄る。

 一歩、一歩。


 鼓動が耳に大きく響いていく。


 (どうしよう……何て言えば……)


 目が合う。


 けれど。


 黄金の瞳は、私を素通りした。


 (あ、れ……?)


 そこにあったのは、懐かしさでも、戸惑いでもない。


 ただの、静かな観察。

 何かがおかしい。


 彼は私とレオナード殿下の前で立ち止まる。


 「……お久しぶりです、兄上」


 「ルキウス。此度はよくやった」


 「お言葉、痛み入ります」


 形式的なやり取り。

 よそよそしい、王族としての距離。


 私は、息を吸うことすら忘れていた。


 何か言わなければ。


 そう思った瞬間。


 先に口を開いたのは、彼だった。


 淡々と。

 何の感情もなく。


 「……ところで、兄上」


 一拍。


 黄金の瞳が、ようやく私へ向く。


 「――そちらの女性は?」


 その瞬間、足元が崩れ落ちるような感覚だった。


 息が、上手く吸えない。


 「……え?」


 やっと会えた彼との再会は、残酷なものだった。

やっと会えたのに〜!!

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