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病弱令嬢は、死にたくないので闇堕ち王子を甘やかします!  作者: ゆにみ
本編

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39、八つ当たりだった

後半、ちらっとルキウス視点!

 レオナード殿下との謁見を終え、私はそのまま馬車へと乗り込んだ。


 「……やっぱり、疲れるわね」


 小さく息を吐く。

 以前なら、長時間の用事であっても、ルキウス様が癒しの力を使ってくれていた。

 体の奥に溜まる重さも、倦怠感も、いつの間にか消えていたのに。


 ――でも、今は違う。


 あの頃のように、無条件で頼ることはできない。

 これからは、自分の体調も、行動も、もっと慎重に管理しなければ。


 (……もっと、計画的に動かないと)


 そう心に刻んだ直後、ふと、別の感情が胸を掠めた。


 「それにしても……さっきのは、何だったの?」


 レオナード殿下が去り際に見せた、あの一瞬の視線。

 意味深な言葉や行動。


 ――どういうつもりなの。


 「悩みの種を、これ以上増やさないでほしいわ……」


 ぼやきにも似た独り言を零した、そのとき。


 馬車が静かに止まり、屋敷に到着した。


 私はそのまま私室へ向かおうとしたが、廊下を進む途中、ふと足を止める。

 応接室の方から、微かに声が聞こえたのだ。


 ――この声は……。


 「……お兄様?」


 そして、もうひとり。

 聞き慣れない、けれど澄んだ女性の声。


 (まさか……!)


 無意識のうちに、ある女性の顔が脳裏に浮かぶ。

 嫌な予感を振り払うように、私は応接室の扉へと歩み寄った。


 そして、そっと扉を開く。


 「お兄様……? 誰か、来ているの?」


 静かな声でそう問いかけた瞬間――

 応接室の空気が、わずかに揺れた。


 「ああ、リリー。帰ってきていたんだね」


 兄はそう言って、穏やかに微笑んだ。

 そして、向かいに座っていたのは、輝くような銀髪。


 ――セラフィナ・ヴァレンシュタイン辺境伯令嬢。

 原作で“ヒロイン”と呼ばれていた存在。


 (……お兄様の婚約者だもの。会うに決まっているわよね)

 

 セラフィナは、ゆっくりと立ち上がり、丁寧に一礼した。


 「リリアーナ様、この前のパーティー以来ですね」


 「......ごきげんよう」


 短く返した私の声を聞き、彼女は一瞬だけ眉を下げ、困ったように微笑んだ。


 「……そんな顔をしないでください。先日は、失礼なことを言いました。ずっと謝りたいと思っていたのです」


 彼女に対して、良い感情を抱けと言われたら――正直、難しい。

 それでも、貴族令嬢として感情を表に出すべきではないと、頭では理解している。


 ……なのに。


 「でも、お兄様には......本音を話していますよね」


 抑えていた言葉が、思わず口をついて出た。


 「……聞いて、いらしたのですね」


 「あなたの望む通りになって、満足ですか」


 少し、語気が強くなった。


 空気が、ぴんと張り詰めた。

 その瞬間、兄が勢いよく立ち上がる。


 「リリー!」


 その声に、はっと我に返る。


 彼女が言及した婚約破棄。

 でも、それは彼女のせいではない。


 (……八つ当たりだわ)


 胸の奥が、ちくりと痛む。


 セラフィナは、兄を制するように手を挙げる。


 「シアン様、大丈夫です」


 「セラフィナ......」


 彼女は柔らかな微笑みを浮かべたまま、私へと向き直る。


 「リリアーナ様のお気持ちを無視するような発言をしたのは、事実ですもの」


 「……い、いえ。私の方こそ、感情的になってしまって……申し訳ありませんでした」


 「いいえ」


 彼女は小さく首を振る。


 「殿下を想うお気持ちが、とてもまっすぐで……少し、羨ましいとさえ思いました」


 その声は、ほんのわずかに揺れていた。


 セラフィナは一呼吸置いてから、続ける。


 「だからこそ、私も……偏った見方だけで判断してはいけないと、思ったのです。ですので、個人的に......殿下の事件について調べています」


 「......え?」


 「正直に言えば、ルキウス殿下に抱く感情は、今も簡単には変わりません。でも……」


 彼女は視線を伏せ、そして再びまっすぐにこちらを見た。


 「リリアーナ様を助けたこと。知らなかった一面があること。それも、確かな事実です。だから、真実を見極めたいのです」


 その言葉に、嘘は感じられなかった。


 ......でも。


 「どうして、そこまで......必死なのですか」


 「......シアン様が大切にしている方は、私にとっても、大切な存在ですから」


 少しだけ、照れたように笑って。


 「皆が……幸せになれる道を、選びたいのです」


 そのまっすぐな瞳に、胸の奥がじんわりと温かくなる。


 「......ありがとうございます」


 「ふふ。少しは、許していただけたのでしょうか」


 「私の方こそ......ごめんなさい」


 「いずれ、家族になるのですもの。よろしくお願いします」


 そっと差し出された手。


 一瞬の迷いのあと、私はその手を取った。


 正直に言えば、わだかまりが完全に消えたわけではない。

 それでも、この瞬間の空気は、確かに穏やかだった。




 ***



 一方、その頃。



 ルキウスは、ただ無心だった。


 敵兵の首が落ちる音がした。

 それが何人目なのか、もう分からない。


 何のために、ここにいるのか。

 もう、よく分からなくなっていた。


 ただ、時折聞こえる声がある。


 「ルキウス様……」


 白い何かが、脳裏を掠める。

 その瞬間、視界がわずかに歪む。


 柔らかくて、脆くて――

 懐かしさを感じる声。


 ここに来てから、ずっとこんな調子だった。


 思考がはっきりとしない。

 ただ、殺生を繰り返す毎日。


 「......くそ」


 ただ、確かなのは――失ってはいけなかったという感覚だけが、残ったということ。


 小さく息を吐き、ルキウスは剣を握り直す。


 (......早く、この戦いを終わらせよう)


 ただ、それだけだった。

ルキウス様……?

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