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病弱令嬢は、死にたくないので闇堕ち王子を甘やかします!  作者: ゆにみ
本編

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37/61

37、リリアーナは動き出す

 私は今、ベルナール伯爵家を訪れていた。

 事件の被害者――ルキウス様の側近、オスカー・ベルナールが生前暮らしていた屋敷だ。


 「リリアーナ様、ようこそお越しくださいました」


 出迎えてくれたベルナール伯爵夫妻は、ひと目で分かるほど憔悴していた。

 深く刻まれた疲労が、息子を失った時間の重さを物語っている。


 「この度は……ご冥福をお祈り申し上げます」


 「リリアーナ様まで、わざわざ――」


 夫人は言葉を詰まらせ、視線を伏せた。


 「大変な中、お時間をいただきありがとうございます。ルキウス様とは婚約破棄しましたが、側近であったオスカー様とは何度かお会いしました。どうしても、弔わせていただきたくて」


 その言葉に、夫人の目に涙が滲む。

 伯爵が何も言わず、そっと背中に手を添えた。


 本当に、仲の良いご夫婦だ。


 遺影の前で静かに手を合わせ、短く祈りを捧げる。


 ――それから、私は切り出した。


 「……差し支えなければ、お聞きしてもよろしいでしょうか。

 お二人から見て、オスカー様とルキウス様は、どのようなご関係でしたか?」


 伯爵は少し考えるように目を伏せ、ゆっくりと口を開いた。


 「……オスカーは、よく言っていました。

 『殿下は、噂のような冷たいお方ではない。表に出さないだけで、とてもお優しい方だ』と」


 言葉が、胸に静かに落ちる。


 「だからこそ……あの事件が、信じられなくてな……」


 ――重要な証言だ。

 二人の関係が、決して険悪ではなかった証になる。


 「私も、そう感じていました。

 お二人が一緒にいらっしゃる姿を何度か拝見しましたが、事件が起きるような関係には見えませんでした」


 私は意を決し、夫妻を正面から見つめる。


 「お願いがあります。

 オスカー様の私室を、拝見させていただけませんか?」


 夫妻は一瞬だけ視線を交わし、やがて静かに頷いた。


 「……構いません」



 ***



 案内された私室は、几帳面に整えられていた。

 主を失ってなお、時間が止まったような空気が漂っている。


 机に近づき、引き出しを開ける。


 「……日記?」


 古びた帳面を手に取ると、夫人が小さく息を呑んだ。


 「そんなところに……」


 「拝見しても?」


 「……お願いします」


 ⚪︎月△日

 殿下に仕事ぶりを褒められた。

 ……追加の賃金まで。

 良いお方なのに、なぜ悪い噂ばかり立つのだろう。

 本当の姿を、皆が見ればいいのに。


 ⚪︎月◻︎日

 殿下が婚約なさった。

 表情には出していないが、少し明るく見える。

 ……俺まで、嬉しくなった。


 ページをめくるほど、ルキウス様の名が繰り返し現れる。


 「……信頼していたのですね」


 「ええ……殿下の話をする時、オスカーは誇らしそうでした」


 さらに読み進め、私は手を止めた。


 ⚪︎月⚪︎日

 最近、誰かに見られている気がする。

 王城の回廊で、王妃付きの侍女を見かけた……

 気のせいだろうか。


 ――背筋に、冷たいものが走る。


 「……どういうこと……?」


 沈黙が部屋を満たした。


 「……やはり、殿下が犯人だとは思えない」


 伯爵が、絞り出すように言う。


 「私情かもしれませんが……それでも」


 「……私も、同じ考えです」


 私は静かに告げた。


 「この事件には、何かあります。

 個人的に調べています。彼に関わった者として、真相を知りたいのです」


 夫妻が、はっと息を呑む。


 「……息子のためにも、お願いします」


 「必ず。何か分かり次第、ご連絡します」


 深く一礼した、その時。


 夫人が一歩前に出て、私を見つめた。


 「リリアーナ様は……殿下が、大切なのですね」


 静かな声だった。


 「……え?」


 「今日のお姿を見て、そう感じました。そして――息子も、殿下を信頼していましたから」


 「……夫人。必ず、オスカー様の無念を晴らしましょう」

次回、「第一王子からの贈り物」

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