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病弱令嬢は、死にたくないので闇堕ち王子を甘やかします!  作者: ゆにみ
本編

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36/61

36、私は、私で頑張るから

 最初に調べるべきは、――被害者本人だ。


 リリアーナはそう判断し、王城内の人脈を静かに辿ることにした。


 その時、自室の扉が控えめにノックされる。


 「リリー。今、いいか?」


 「ええ、大丈夫よ」


 入ってきた兄は、どこか様子を窺うような表情をしていた。

 気遣いと戸惑いが入り混じった、曖昧な顔。


 「......その、大変だったな」


 兄が何を指しているのかは、すぐに分かった。


 ――あの日。

 ルキウス様と婚約破棄の書類に署名しながら、堪えきれずに泣いてしまったこと。

 その場に、兄がいたこと。


 それに続く、事件の発覚と戦地送り。


 気にかけないはずがない。


 「......私は、大丈夫よ」


 そう答えると、兄は短く息を吐いた。


 「......そうか」


 少しの沈黙のあと、私は前から気になっていたことを口にする。


 「その、お兄様は......ルキウス様のこと、どう思っているの?」


 兄は一瞬だけ目を見開き、それから柔らかく微笑んだ。


 「そうだな......世間の噂ほど、悪い人ではないと思っている。襲撃事件の時も、真っ先にリリーを助けに来てくれたしな」


 けれど、すぐに困ったように眉を下げる。


 「ただ……セラフィナが、殿下のことをあまり良く思っていないみたいなんだ」


 「……お兄様の婚約者よね」


 気づけば距離を縮めていた二人は、いつの間にか婚約していた。


 以前、セラフィナから

 「ルキウス殿下との婚約は破棄してください」

 そう言われたことを思い出す。


 兄の婚約者である以上、悪く思いたくはない。

 それでも、胸の奥に小さな澱が溜まっていく。


 ――でも、それを口に出す資格は、今の私にはない。


 「ああ。リリーに悪影響だから、二人は離れたほうがいいと言っていて......それに今回の事件だろう? 正直、俺もよくわからなくなってしまってな......」


 私は兄を真っ直ぐに見つめた。


 「私は、ルキウス様が事件を起こすような人じゃないと信じているわ」


 そして、はっきりと告げる。


 「今回の事件について調べるつもり」


 「冤罪の可能性もあると考えているの。だから、お兄様には伝えておきたかったの」


 兄はしばらく黙り込み、それから静かに頷いた。


 「……分かった。俺も協力するよ。真実が分かれば、自ずと答えも見えてくるだろう」


 「お兄様……!」


 心強い言葉だった。

 必ず、真実を掴んでみせる――そう、改めて思う。


 「それにしても……」


 兄はふっと笑って言った。


 「リリーは、本当に殿下が大好きなんだな」


 「……なっ!?」


 一気に顔が熱くなる。


 「心配してたけど、もう大丈夫そうだな。どうして婚約破棄に至ったのかは聞かないよ。でも……お互いに想っているのは、見ていれば分かる」


 「……お兄様……」


 視界がじんわりと滲んだ。


 「こうしちゃいられないな。一緒に真実を掴もう」


 「……うん!」


 その瞬間、僅かだけれど、進むべき道が見えた気がした。


 「そういえば……一つだけ、気になる話がある」


 兄は思い出すように言った。


 「件の側近だが、事件の数日前から、何かに怯えている様子があったとか」


 「……その話、誰から聞いたの?」


 「セラフィナだ。彼女、王妃に気に入られていて、王宮を出入りすることがあるんだ」

 

 「……そうなの……」


 嫌な引っかかりが胸に残る。


 「俺の方でも調べてみる。何か分かったら、また知らせるよ」


 そう言い残し、兄は部屋を後にした。


 ――セラフィナが、王妃に気に入られている?


 原作で、そんな描写はあっただろうか。


 (……ますます、分からない)


 それでも、立ち止まるわけにはいかない。


 その時、ふと夢の中で聞いた声が蘇った。


 「......待っていてくれ」


 胸が締め付けられるのに、不思議と安心する声。


 私は顔を上げ、そっと息を吸う。


 ――ルキウス様。

 私は、私で頑張るから。


 どうか、無事でいて。

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