35、これは夢?それとも――
その夜、リリアーナは、不思議な夢を見ていた。
誰かが、そばにいる。
温かな気配が、静かに包み込むように寄り添っていた。
――安心する。
理由はわからないのに、胸の奥がひどく落ち着く。
誰かに、手を握られている気がした。
大きくて、少し硬い手。
その掌から、じんわりとした温もりが伝わってくる。
(……だれ……?)
喉に力を込めたけれど、声にならない。
でも、その温もりが――
懐かしくて、切なくて。
わからないのに、なぜか知っている温もりだと思った。
胸が、きゅっと締めつけられる。
そして次は、髪にかすかな感触。
触れられた……そう思った瞬間、なぜか涙が溢れそうになった。
「……待っていてくれ」
低く、静かな声。
確かに、そう言われた気がした。
なぜか無性に、心が締め付けられるようだった。
(……どうして……こんなに、苦しいの……)
そう思った瞬間、瞼の裏に光が差し込む。
リリアーナは、静かに目を覚ましていた。
だけど、胸の奥が妙にざわついていた。
(あれ......? 夢?)
夢だったはずなのに、指先がまだ温かい。
髪を無意識に押さえていた。
「……ルキウス、様……?」
名前を呼んだ瞬間、自分でも驚くほど、声が震えた。
なぜ、その名前が浮かんだのかはわからない。
ただ。
涙が、一筋、頬を伝った。
「あ、れ......? どうして、こんな......」
理由がわからないのに、なぜだか苦しくて。
だけど、ふと気がついた。
「身体が......軽い?」
しばらくルキウス様の癒しの異能を受けていなかったから、最近は体の調子が悪かった。
なのに今は、癒しの力が送り込まれた後かのように身体が軽い。
(......どうして?)
ふと、ある考えが思い浮かぶ。
もしかして、ルキウス様が来てくれた?
ありえなくはない。
彼は、物体移動の異能も扱えるのだから。
じゃあ――
(あれは、夢じゃない......?)
そう思った瞬間、再び涙が溢れた。
何も言えなかった自分が、苦しい。
だけど、あんな別れ方をしたのに、もしかしたら私の事を気にかけてくれていたのかもしれないと考えてしまう。
そのことに喜んでいる自分に気がつく。
自分から離れるって言ったくせに……本当に都合が良いわ。
自身を嘲笑うかのような笑いが溢れた。
とりあえず今は、ルキウス様の無事を祈ろう。
そして、私は私で――彼の冤罪の証拠を掴むから。
***
それから数時間後、私はルキウス様が戦地に向かったことを知った。
(もう、王都にルキウス様はいない......)
その事実だけで、胸が苦しくなる。
でも、落ち込んでばかりもいられない。
彼に着せられた汚名を、そのままにするわけにはいかない。
正直、王妃が怪しいと踏んでいる。でも証拠もないし、確証もない。他の第三者による可能性だってある。
ルキウス様が、殺人なんてするはずがない。それだけは確信している。
ひとまず今回の事件について調べることにした。
だけど、調べれば調べるほど、やはり事件には違和感しかなかった。
事件発覚から調査も裁きも、あまりに早すぎる。
ルキウス様が戦地に送られるまでに、一週間も経っていない。
それに彼は、この国の第二王子。こんなに早く話が進むものなの?
それはまるで、最初から結論が決まっていたかのようだった。
......やっぱり。この事件には何か裏がある。
まずは、被害者である側近について探りを入れよう。
そして――レオナード殿下。
彼も何か知っているのかもしれない。
リリアーナは、一人固く決意していた。
彼が戻るその日まで。
私の命が続く限り。
必ず真実を掴むのよ。
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