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病弱令嬢は、死にたくないので闇堕ち王子を甘やかします!  作者: ゆにみ
本編

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32/61

32、ルキウス様が拘束された?

 ルキウス様との婚約破棄が、新聞に大きく取り上げられた。


 朝食の席で、何気なく目を通したその紙面を――

 私は、最後まで読み切ることができなかった。


 そこに書かれていた内容が、あまりにも現実離れしていたからだ。


 ”ルキウス第二王子、側近である伯爵家次男殺害の罪で拘束”

 ”フランヴェール公爵令嬢との婚約、正式に破棄”


 ......え?


 一瞬、文字の意味が頭に入ってこない。


 指先が、かすかに震えた。


 「……殺、人……?」


  思わず声に出してしまってから、慌てて口を押さえる。


 ルキウス様が、殺人罪?


 ありえない。


 胸の奥が、ひどくざわつく。


 彼は確かに冷酷で、危うくて、感情の扱いが不器用な人だ。

 でも――人を、殺すような人じゃない。


 原作で彼が国を崩壊に追い込んだのは、

 すべてに絶望し、投げやりになった“その後”の話だった。


 (……今は、そこまで追い詰められていないはず……)


 なのに。


 視線が、もう一度、見出しへ戻る。


 側近である伯爵家の次男。


 ――彼は、ルキウス様の傍にいつも控えていた人物だ。

 静かで、忠実で、必要以上に前へ出ない。


 そんな彼を、殺す理由なんて。


 「……そんなはず、ない……」


 喉が、ひくりと鳴る。


 その瞬間、嫌な考えが胸をよぎった。


 (……もしかして……私の、せい?)


 婚約破棄で、追い詰めてしまった?

 私が拒んだから、やけになって――?


 でも。


 「……違う……」


 小さく、首を振る。


 婚約破棄を言い出したのは、ルキウス様だった。

 あの人自身の言葉で、私を突き放したのだ。


 それに。


 側近の彼とは、そこそこ信頼関係を築いていたはずだ。

 衝動で殺す?

 そんな雑な真似を、あの人がするわけがない。


 ――嵌められた。


 その結論に行き着いたとき、背筋が冷たくなった。


 (……王妃)


 浮かんだのは、ただ一人。


 新聞を握る手に、思わず力が入る。

 紙が、くしゃりと音を立てた。


 「……許さない……」


 誰に向けた言葉なのか、自分でもわからない。


 ただ一つだけ、はっきりしている。


 これは、偶然なんかじゃない。


 ――私は、知らないうちに

 取り返しのつかない渦の中心に、足を踏み入れてしまっていたのだ。



 新聞を読み終え、まだ胸のざわつきが収まらないうちに――

 王妃からの手紙が届いた。



 ***



 私は今、王妃と対峙している。

 

 案内されたのは、庭園ではなく応接室だった。

 柔らかな調度品と、静かな空気。

 まるで、何も起きていないかのように。


 「ふふ、いい判断だったわね。リリアーナ嬢」


 「......どういう意味ですか?」


 私は、王妃を真っ直ぐに見つめた。


 「......あら。もう取り繕うのはやめたのね」


 「意味がないと思いましたので」


 「賢い子は好きよ。――でも、まさかルキウスが罪を犯すなんてね」


 王妃は、残念そうに首を傾げる。


 「婚約破棄して、正解だったわ」


 「......ルキウス様は、そんな人じゃありません」


 直感が告げている。

 これは王妃の仕業だと。


 でも、証拠がない。

 ここで踏み込めば、今度は私が王家侮辱罪で拘束されてしまう。


 今は――探るしかない。


 「でもね。これが現実なの」


 王妃は、静かに微笑んだ。


 「だから、あの子にはそれ相応の罰を受けてもらうわ」


 心臓が嫌な音を立てて脈打つ。


 「僻地での戦争に参加してもらうの」


 「強ければ生き残る。弱ければ死ぬ。成果を挙げれば英雄にすらなれる」


 「刑としては……甘いくらいよね?」


 柔らかな声で、なんてことのないように告げられる残酷な宣告。


 (戦争って......!)


 そこは、派遣された兵が半数も戻らないと噂される戦地だ。

 そんな場所に――ルキウス様を。


 思わず、拳に力がこもる。


 けれど今の私は、彼を庇うことすらできない。

 濡れ衣だと証明する手段が、何ひとつない。


 「......そうですね」


 一瞬、王妃が目を見開き、すぐに満足そうに微笑んだ。


 「一度は愛した相手だものね。悲しいわよね。でも、あっさりと婚約破棄に応じてくれたのは意外だったわ」


 「......王妃様に言われたからではありません。自分の意思で、決断したことです」


 「ふふ。私にとっては、どちらでもいいのよ。事実が大事なのだから」


 そして、何気ない調子で続けられる。


 「そうそう。レオナードとの婚約は、考えてくれたかしら?」


 「私には相応しくありません。殿下は王位を継がれるお方ですし……」


 「身体も弱い、と?」


 王妃は微笑んだまま、言葉を重ねる。


 「でも、最近は調子がいいと聞いているわ。この間のパーティーでも、最後まで参加していたでしょう?」


 逃げ道を、一つずつ塞がれていく感覚。


 「……他に、素敵なご令嬢がいらっしゃると思います」


 「今は、そういうことにしてあげるわ」


 王妃は、優雅に立ち上がった。


 「また……お話ししましょうね、リリアーナ嬢」


 ――こんなのは、二度とごめんだ。


 そう思いながら、胸の奥で

 ただ一人の無事を、必死に祈っている自分に気づいてしまった。

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