3、今見たことを誰かに話せば――命はないと思え
思わず、ルキウス殿下に真っ直ぐ告白してしまった。
本当は、もう少し慎重に言葉を選ぶつもりだったのに。
彼の立場を気遣う言葉とか、寄り添う姿勢とか――そういうものを。
なのに、口から飛び出したのは、あまりにも無防備で、無計画な告白だった。
ぐるぐると後悔が渦巻く中、鋭い視線が突き刺さる。
「――何が、目的だ」
低く、冷えた声。
「も、目的などございません……! 心からの、本心です!」
「おかしいな。君とは、それほど関わりがなかったはずだが」
図星だった。
胸がきゅっと縮む。
――でも、もう引き返せない。
「......顔、です」
「――は?」
「殿下の……お顔が、とても好みなのでございます。ずっと見ていたいくらいに……!」
言い切った瞬間、頭の中が真っ白になった。
(……私、今なにを言った……?)
勢いに任せすぎた自覚と同時に、視界がふらりと揺れる。
足元から力が抜け、身体が前に傾いた。
――あ、だめ。
そう思った次の瞬間、誰かの腕に支えられる。
(……殿下?)
ぼんやりと考えながら、意識が遠のいた。
***
倒れ込んできた身体を、ルキウスは反射的に受け止めていた。
「――チッ」
小さく舌打ちが漏れる。
(......なんなのだ、この女は)
告白の言葉が嘘であることくらい、すぐにわかった。
けれど――悪意がない。
それどころか、切羽詰まった必死さが、痛いほど伝わってくる。
誰にも必要とされず、信じられずに生きてきた彼にとって、
それはあまりにも異質だった。
だからだろうか。
思わず、彼女を支えていたのは。
その時、バルコニーの向こうから声が響く。
「リリー! どこにいるんだ? ……あれ、ここか?」
足音が近づいてくる。
(......まずいな)
腕の中の少女は、意識が朦朧としている。
起き上がれそうにない。
公爵令嬢と、忌み嫌われる“無能王子”。
この状況を見られれば、面倒な噂が立つ。
――時間がない。
誰にも知られてはならない力。
生き延びるために、封じ続けてきた異能。
ルキウスは意識を集中させ、手のひらに力を込めた。
祈りにも似た、だがどこか異質な暖かな光が溢れ、リリアーナの身体を包み込む。
やがて、彼女の瞼がゆっくりと持ち上がった。
「……え……? 殿下……今のは……」
「今、見たことを誰かに話したら――その覚悟はあるな」
低く、冷たい声。
リリアーナはびくりと肩を震わせ、それでも小さく頷いた。
(……でも)
胸の奥が、確かに楽になっている。
(癒してくれた……)
その事実に気づいた瞬間、足音がすぐ背後まで迫った。
「リリー! ここにいたんだな!」
兄――シアンが駆け寄ってくる。
彼は、ルキウスの姿を認めると、一瞬だけ表情を引き締めた。
「……殿下と、ご一緒でしたか」
穏やかな口調の裏に、明確な警戒。
ルキウスは無表情に戻り、淡々と告げる。
「……話は終わった」
そう言い残し、踵を返す。
シアンはリリアーナに歩み寄り、そっと耳打ちした。
「大丈夫だったか? 何か、されていないか?」
心からの心配が滲む声。
リリアーナは、はっきりと顔を上げた。
「心配しないで、お兄さま。殿下は――優しくて、素敵な方よ」
その言葉に。
背を向けたままのルキウスが、ほんの一瞬だけ、足を止めたことを――
リリアーナは、まだ知らない。
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