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病弱令嬢は、死にたくないので闇堕ち王子を甘やかします!  作者: ゆにみ
本編

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29/61

29、君の好きにすればいいさ

 目を開けた瞬間、空気が変わっていることに気づいた。


 先ほどまでの庭園の匂いは消え、代わりに静まり返った室内の気配が肌にまとわりつく。

 視界に映ったのは、上質な家具と、柔らかな絨毯。

 まるで、誰かの私室――。


 「……ここは……?」


 掠れた声で呟いた私に、低い声が返ってくる。


 「――俺の部屋だ」


 短く、淡々としたその言葉。


 ......やっぱり。

 これは原作にも描かれていた、ルキウス様のもう一つの異能。


 ――物体移動。

 人も、物も、空間さえも、彼の意思ひとつで引き寄せ、切り離す力。


 その気になれば、心臓ですら、あるべき場所から奪える。

 彼が破滅へと向かった理由に、この力が深く関わっていたことを、私は知っている。



 「本当は誰にもこの力を明かすつもりはなかったのだが......」


 低く抑えた声が、耳元で落ちる。


 「また......秘密が増えたな、リリアーナ?」


 屈み込むようにして、ルキウス様が顔を近づける。


 (ち、近い......)


 反射的に身を引くと、空気が張り詰めた。


 沈黙を破ったのは、彼のほうだった。


 「俺が……何かしたのか?」


 金色の瞳が、縋るように揺れている。

 その視線に、胸の奥がぎゅっと締めつけられた。


 「そ、そういうわけでは……」


 「君は、俺を必要としていたはずだ」


 「え......?」


 「リリアーナ。君は身体が弱い。俺がいなければ……生きていけないほどに」


 「それは……確かに、そうですが……」


 言い淀む私を、彼は逃がさない。


 「どうやってこの“力”を知ったのか、本来なら問い詰めるべきなんだろう」


 「だが……もう、どうでもいい」


 次の瞬間、強く身体を引き寄せられた。


 「君の考えなんて、わかりきっている。俺を誘惑し、力を使わせる。そのために近づいた」


 「そして俺は……君を愛してしまった」


 「君のためなら、迷いなく力を使えるほどにな」


 (……愛、して……?)


 その言葉の意味を、頭が拒絶した。


 そんなはずはない。

 

 でも胸の奥が、かすかに跳ねた。

 けれど、それはすぐに打ち消される。


 (……期待してはいけない)


 腕に込められる力が、微かに強まる。


 「満足だろう? それなのに、なぜ今さら離れようとする」


 「……責任を、取れ」


 吐き捨てるような言葉。


 「君が俺を好きじゃないことくらい、わかっている」


 「それでも――君が始めたんだ」


 「最後まで、責任を取れ」


 「……離れるなんて、許さない」


 顔が近づき、唇が重なる。


 同時に、身体の奥へ流れ込んでくる、あの感覚。

 暖かく、優しく、抗えない力。


 ――癒しの異能。


 「......んんっ」


 思わず、息が漏れた。


 唇が離れた瞬間、視界に映ったのは、微かに歪んだルキウス様の笑み。

 その表情に、背筋がぞくりと震える。


 「......どうした?」


 穏やかな声。


 「治療しているだけだが」


 そう言って、再び唇が触れる。


 今度は躊躇いがなかった。

 頬へ、首筋へ、鎖骨へ――触れる場所が、ゆっくりと下がっていく。


 暖かな力が、より濃く流れ込む。


 (えっ、まって......)


 これ以上は、だめ......!

 身体に力が入る。



 「……いや……っ!」


 反射的に、両手で彼を突き飛ばしていた。


 数歩分、距離が開く。

 ルキウス様は目を見開いたまま、その場に立ち尽くしていた。


 ――しまった。


 そう思った時には、もう遅かった。


 室内に落ちた沈黙が、ひどく重い。


 「......はは」


 乾いた笑いが落ちた。


 「わかったよ」


 「この力が必要でも......それでも、俺には触れられない――そういうことなんだな」


 そして、力なく落とされた一言。


 「......俺が嫌なのだな」


 「ち、違――」


 言葉は、最後まで言わせてもらえなかった。

 

 「もういい。婚約破棄しよう。リリアーナ」


 諦めきったその表情に、胸が締めつけられる。


 違う。違うのに。

 嫌なんじゃない。ただ、怖かっただけなのに。


 「......君の好きにすればいいさ」


 その瞬間、足元が揺らぎ、引きずられる感覚。


 (……また、この力……!)


 待って。

 まだ、話していない。

 こんな終わり方、嫌だ……!


 願いとは裏腹に、視界が歪み、景色が消える。


 最後に見えたのは――

 傷ついたまま、立ち尽くす彼の顔だった。


 ――もし、あのとき

 ちゃんと言葉を選べていたら。


 この結末は、違っていたのだろうか。

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