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病弱令嬢は、死にたくないので闇堕ち王子を甘やかします!  作者: ゆにみ
本編

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28、本当に嘘つきだな

 庭園には、私とレオナード殿下、そしてルキウス様の三人だけが立っていた。


 風は穏やかなはずなのに、空気だけが重く張りつめている。

 まるで、一歩動けば何かが壊れてしまいそうな――そんな沈黙。


 「……兄上」


 沈黙を切り裂くように、ルキウス様が低く声を落とす。


 「これは、一体どういう状況ですか」


 鋭い視線が、真っ直ぐにレオナード殿下へ向けられる。


 「リリアーナは、俺の婚約者ですが」


 その言葉に、レオナード殿下が小さく息を吐いた。


 「誤解しないでくれ。僕だって、不本意なんだ」


 「ですが」


 ルキウス様の声は、わずかに硬さを増す。


 「この場面を見て、誤解するなという方が無理でしょう」


 ぴり、と空気が軋む。

 二人の王子の間に生まれた緊張が、庭園全体を支配していく。


 ――まずい。


 このままでは、本当に取り返しがつかなくなる。


 「あの……」


 私は意を決して、声を絞り出した。


 「レオナード殿下の仰る通り、これは誤解です。この後、きちんとお話を――」


 最後まで言い切る前に。


 「――君は」


 ルキウス様の声が、私の言葉を遮った。


 「一体、誰の味方なんだ」


 その問いに、胸が強く締めつけられる。


 答えなんて、決まっている。

 ルキウス様に、決まっているのに。


 けれど、焦りと苛立ちを孕んだその眼差しに射抜かれて、喉が強張り、声が出なかった。


 沈黙が落ちる。


 やがて、ルキウス様は短く息を吐き、私の手首を掴んだ。


 「……もういい」


 そう言って、強引とは言い切れない力で引き寄せる。


 「とりあえず、来てくれ。――いいですよね、兄上?」


 「......ああ」


 私は立ち上がらされ、そのままルキウス様に連れられる。


 振り返り、ほんの一瞬だけレオナード殿下に視線を向け、小さく一礼した。


 殿下は困ったように微笑み、何も言わずに私たちを見送っていた。


 ――今まで避け続けてきたツケが、ついに回ってきたのだ。


 これから始まるのは、きっと話し合いなんて生易しいものじゃない。

 そのことだけは、はっきりと分かっていた。




 ***



 ルキウス様に手を引かれたまま、無言で歩き続ける。


 足は止まらない。

 緊張が抜けないせいか、次第に息が荒くなっていく。


 その変化に気づいたのだろう。

 ルキウス様が足を止め、繋がれたままの手から、あの暖かな光が流れ込んできた。


 (この感覚......久しぶり)


 怒らせてしまったはずなのに。

 それでも、こうして力を使ってくれる。


 やっぱり、この人は優しい。


 光が消え、そっと手が離される。


 「……ありがとうございます」


 「それは、なんの礼だ?」


 鋭い視線に、思わず言葉を失う。


 「……まあいい」


 ルキウス様は低く息を吐いた。


 「だが、なぜ今まで避けていた?」


 「俺が公爵家にいた時も……本当は、外出なんてしていなかっただろう」


 ......バレていた。

 怒るのも当然だ。謝ることしかできない。


 「......ごめんなさい」


 「謝ってばかりだな」


 冷えた声が、胸に刺さる。


 「俺が聞きたいのは、そんなことじゃない」


 ルキウス様が一歩、距離を詰める。


 「今日の件も含めて……本当は、兄上に近づくために、俺に近づいたのか?」


 「――違います!」


 思わず顔を上げ、叫ぶように言った。


 「私は、ルキウス様のことが好きで……!」


 「それも、嘘だろう?」


 「......え?」


 「気づかないとでも思ったのか」


 低く、突き放すような声。


 「君は、本当に嘘つきだ」


 言葉が、喉に詰まった。

 

 確かに最初は、打算だった。

 生き延びたい、その一心で彼に近づいた。


 でも、今は――。


 (……本当に、今さらよね)


 私の浅はかな行動が、彼を縛り、今もこうして彼を傷つけている。

 

 「......ごめんなさい」


 「ずいぶん、あっさり認めるんだな」


 乾いた笑いが、空気に落ちる。


 「……もう、嘘をつきたくないんです」


 息を整え、ルキウス様の瞳を真っ直ぐに見つめた。


 「私は……ルキウス様を傷つけてばかりで。縛っているんじゃないかって、ずっと悩んでいました」


 そして、絞り出すように告げる。


 「だから……離れた方が、お互いのためだと思うんです」



 言い終えた瞬間、空気が凍りついたような気がした。



 「――はっ」



 ルキウス様が片手で顔を覆い、乾いた笑いを零す。


 次の瞬間、強く手を掴まれた。



 「まるで、俺のためだとも言いたげだな」


 ぐい、と身体ごと引き寄せられる。


 「――そんなの、許さない」


 

 空気が軋み、世界が引き裂かれるような感覚。


 「……っ!?」


 抗う間もなく、身体がどこかへ引きずり込まれる。


 次の瞬間。


 ルキウス様と私は――

 庭園から、跡形もなく消えていた。

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