27、現れたのは、第一王子
金髪に金眼。
凛とした佇まいに、背筋の伸びた立ち姿。
――レオナード・アウレリウス第一王子。
正義感に溢れ、原作でも正統派として描かれていた人物だ。
誰に対しても公平で、誠実で、王子という立場に甘えない。
……そんな彼が、今この場にいる。
王妃の突然のお茶会に呼ばれ、何の疑問も抱かずに現れるだなんて。
いくら母の命令とはいえ、私は今も――ルキウス様の婚約者なのに。
(少しは、疑問に思わなかったのかしら……)
胸の奥に、ちくりとした棘のような感情が刺さる。
けれど、レオナード殿下は、私をじっと見つめたあと、困ったように眉を下げて微笑んだ。
「……すまない」
「え……?」
唐突な謝罪に、思わず目を瞬かせる。
「言い訳に聞こえるかもしれないけれど、知らなかったんだ。母上からは、会ってほしい令嬢がいるとしか聞かされていなくて」
そう前置きしてから、殿下は静かに言葉を続けた。
「来てみれば……君が。相手がルキウスの婚約者だったとはね」
「そんな顔をさせてしまうのも当然だ。本当に、すまなかった」
――この人は、最初から何も知らされていなかったのだ。
その事実に気づいた瞬間、胸に溜まっていたわだかまりが、すっと形を変えた。
王妃に振り回されているのは、私とルキウス様だけではない。
この人もまた、その一人なのだ。
私は慌てて姿勢を正し、深く一礼する。
「いえ……こちらこそ、事情も知らずに失礼なことを考えてしまいました」
「気にしないでくれ。僕の方こそ、配慮が足りなかった」
そう言ってから、殿下は少し間を置き、柔らかく笑う。
「でも、せっかくだ。少し話さないか?」
本当はすぐにでもこの場を離れたかった。
こんな場面、他の人に見られたら誤解されかねない。
だけど、王族にそう言われてしまえば、断るという選択肢はない。
「……はい」
短く答えた私に、殿下は穏やかな声で問いかけてきた。
「でも、母上からね、もうすぐ君たちは婚約破棄するかもしれない、とも聞いていたんだ」
視線が、真っ直ぐに向けられる。
「実際のところは……どうなんだい?」
胸の奥が、きゅっと締めつけられた。
正直、返答に困る。
王妃に言われなくても、私は――ルキウス様とこれ以上一緒にいるべきではないと思っている。
けれど、ここで頷いてしまえば。
まるで王妃の思惑通りに動いているようで、どうしても納得がいかなかった。
これは、誰かに決められたことじゃない。
あくまで、私自身の意志の問題なのだ。
「……ええと、その……」
言葉に詰まった私を見て、レオナード殿下は一瞬だけ目を見開き、すぐに表情を和らげた。
「すまない。答えにくいことを聞いたね」
「いえ……」
「でも、そうか……」
殿下は小さく息を吐き、どこか納得したように呟く。
「なんとなく、母上の思惑が見えてきたよ」
「殿下……?」
「いや、こちらの話だ。気にしないでくれ」
そう前置きしてから、殿下は穏やかな声で続けた。
「ただ……また僕たちは、会うことになるかもしれない」
「え……?」
その言葉の意味を問い返すより先に。
背後から、低く、冷えた声が落ちてきた。
「――ここで、何をしているんだ?」
空気が、一瞬で凍りつく。
振り返った先に立っていたのは――ルキウス様だった。
険しい表情。
感情を押し殺したような眼差し。
その周囲には、黒い靄のような気配さえ漂っているように見えた。
よりによって、レオナード殿下と一緒にいるところを見られたのは。
一番、誤解されたくない相手だった。
(最悪の展開だわ......)
血の気が引くとは、このことなのだろう。
喉がひくりと鳴って、声が出なかった。
地雷踏みましたね、リリアーナ。




