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病弱令嬢は、死にたくないので闇堕ち王子を甘やかします!  作者: ゆにみ
本編

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26/61

26、王妃との対峙

 「ルキウス様に……嘘をついてしまったわ……」


 自分の声が、ひどく情けなく聞こえた。


 つい先ほど、ルキウス様は公爵家を訪れていた。

 けれど私は――外出中だと告げさせ、門前払いをさせてしまったのだ。


 (まさか、直接訪ねて来られるなんて......)

 

 彼と顔を合わせなくなって、二週間。

 それらしい理由を並べては、会うのを避け続けてきた。


 ……あまりにも、急すぎるだろうか。


 そう思わないわけじゃない。

 婚約破棄を考えているのなら、きちんと向き合って話すべきだということも、頭ではわかっている。


 けれど。


 ルキウス様に恋をしてしまった私は、彼の前で冷静でいられる自信がなかった。

 縋るように見つめられたら。

 弱さをさらけ出されて、甘えられたら――きっと、受け入れてしまう。


 ……本当に、ずるい人間だ。


 それでも、このまま逃げ続けるわけにはいかない。

 そろそろ、ちゃんと会って話さなければ。


 そんなことを考えていた、その時だった。


 私のもとに、一通の手紙が届けられたのは。


 (……ルキウス様?)


 差出人の名を確認して、すぐにそれが違うとわかる。


 ――ヴァレリア・アウレリウス。


 王妃の名を目にした瞬間、心臓が嫌な音を立てて跳ね上がった。


 ルキウス様が襲撃事件で称賛され始めた、このタイミング。

 何もないはずがない。


 (……何か、あるわね)


 無意識のうちに指先に力が入り、手紙はぐしゃりと歪んでいた。


 ルキウス様と向き合わなきゃと思っていた矢先だったけれど――

 まずは、王妃からね。



 ***



 翌日、私は王妃に招かれ王宮へ向かう。


 (......ルキウス様に、会わないかしら)


 彼を避け続けているにもかかわらず、何の断りも入れず王宮へ来ている。

 もし鉢合わせでもしたら、不審に思われるに決まっている。


 胸の奥がざわついたまま、案内役の侍女について歩く。


 だが、前回と同じく通されたのは庭園だった。

 人影はなく、静かな空気が広がっている。

 

 (よかった......ルキウス様に会わなかったわ......)


 私は小さく息を吐き、胸を撫で下ろした。


 ……とはいえ、油断はできない。

 これから対峙する相手は、狡猾な王妃なのだから。


 庭園の中央には、白いテーブルがひとつ。

 そこに王妃は、すでに腰掛けていた。


 優雅に紅茶を口に運ぶ仕草は、思わず見惚れてしまうほど美しい。

 赤い髪が、風に揺れて柔らかく光る。


 (……相変わらず、完璧だわ)


 私は一歩前に進み、丁寧に一礼する。


 「この度はご招待いただき、ありがとうございます」


 「こちらこそ。急だったのに、来てくれてありがとう」


 「......いえ、光栄ですわ」


 「ふふ。可愛い子ね。――それに、この前は災難だったわね。ルキウスが助けてくれたのでしょう?」


 ......やっぱり、この話題だった。


 王妃の微笑みは柔らかいのに、視線だけが鋭く私を射抜いてくる。

 試されている――そんな感覚が背筋を走った。


 「......はい。おかげ様で、大事に至らずに済みました」


 「世間での彼の評価も、ずいぶん変わってきているわね」


 「そうなのですか? 私、世間に疎くて......」


 「まあ。以前も、一目惚れと言っていたものね」


 「......お恥ずかしいです」


 王妃は、終始表情を崩さない。

 何を考えているのか、まったく読めず――それがひどく不気味だった。


 そして、カップを置いた王妃が、穏やかな声で告げる。


 「それで本題なのだけれど......」


 その一言で、空気が変わった。


 「ルキウスと婚約破棄してちょうだい」


 「……え?」


 一瞬、何を言われたのか理解できなかった。


 「ふふ、いい顔ね。代わりに、新しい婚約者も用意してあげるわ。――そうね、レオナードとか」


 「い、いきなり何を仰って……」


 「あらあら。仮面が崩れてきたわね」


 王妃の視線が、愉しげに細められる。


 「あなた、無垢な振る舞いをしているけれど……本当は、ずいぶん賢いでしょう?」


 喉が、ひくりと鳴った。


 「だけど、ルキウスが大事なのは――本物みたいね」


 その一言で、胸の奥を掴まれた気がした。


 「そうね……あなたが了承しなければ、大事な彼の命が……どうなるか、わからないわね?」


 にこやかな声で、残酷な言葉を紡ぐ。


 「けれど、私も鬼じゃないわ。ゆっくり考えてちょうだい。――いい返事を、待っているわ」


 そして、思い出したように付け足す。


 「あ、そうそう。ちょうどね、レオナードも呼んでいたのよ」


 「……え?」


 「入ってらっしゃい、レオナード」


 「はい、母上」


 返事が聞こえてくると同時に、金髪に、金眼の青年が入ってきた。

 その姿を見て、私は言葉を失った。

 王妃は満足そうに微笑み、立ち上がる。


 「ふふ。二人とも、仲良くね」


 本当に、急すぎる。

レオナード殿下との対面〜

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