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病弱令嬢は、死にたくないので闇堕ち王子を甘やかします!  作者: ゆにみ
本編

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23/61

23、病弱令嬢を……殺す?

 公爵家の馬車が強盗に襲われた事件は、翌日には新聞の一面を飾っていた。


 しかも、その内容は――

 私たちを案じるものというより、明らかにルキウス様を称賛する記事だった。


 紙面に並ぶ大きな見出し。


 ”実は強かった第二王子”

 ”婚約者の危機に公務を異常な速さで終わらせた”

 ”愛のために覚醒した王子”

 

 ……どれも、事実ではある。

 けれど、胸を張って喜べる内容ではなかった。


 「…………」


 新聞を持つ手が、わずかに震える。


 今まで“無能王子”として蔑まれてきたルキウス様。

 その評価が、たった一件の出来事で――音を立てて覆されていく。


 (これ、喜んでいい話じゃない……)


 そう気づいた瞬間、胸の奥がひやりと冷えた。


 ルキウス様は、生き延びるために無能を装ってきた。

 目立たず、警戒されず、ただ静かに。


 それなのに。


 この新聞は、まるで逆だ。

 彼を――光の下へ、引きずり出している。


 (もし、この件がきっかけで……)


 脳裏に、ひとりの女性の姿が浮かぶ。


 王妃ヴァレリア・アウレリウス。

 狡猾で、冷酷で、そして――決して甘くない人。


 もし彼女が、この変化に気づいたら?


 ――気づかないはずがない。


 そう思った瞬間、血の気が引いた。


 「どうしよう……」


 小さく呟き、新聞を胸に抱きしめる。


 喜んでいる場合じゃない。

 これは、ルキウス様が積み重ねてきた努力を、すべて無駄にしかねない。


 (……でも、ルキウス様も、わかっているはずよね)


 あの彼が、考えなしに動くはずがない。


 今回はきっと――

 “愛の力で普段以上の力を出してしまった”

 そういう形で、なんとか誤魔化せる……かしら......?


 ……無理がある?


 そう思った瞬間、胸の奥の不安が、はっきりと形を持った。


 リリアーナ・フランヴェールは、深く頭を悩ませていた。




 ***



 一方、その頃。


 王宮――王妃宮。


 「……ふぅん」


 低く、含みのある声が響く。


 王妃ヴァレリア・アウレリウスは、話題の新聞を手に、優雅に微笑んでいた。


 「実は強かった第二王子、ね……」


 紙面をなぞる指先は、どこまでも滑らかで。


 「今までは“無能だから”と見逃してあげていたけれど……」


 そっと新聞を机に置く。


 「やっぱり、能力を隠していたのね」


 金色の瞳が、冷たく細められた。


 「それに……」


 次に視線を落としたのは、記事の中のひとつの名前。


 「リリアーナ・フランヴェール」


 静かに、しかし確かに――不快そうに。


 「ただの病弱で、夢見がちな公爵令嬢だと思っていたけれど……思いのほか、ルキウスに影響を与えているようね」


 唇が、かすかに歪む。


 「最近のルキウス、ずいぶん楽しそうで……以前は決して見せなかった、あの穏やかな表情」


 ふっと鼻で笑った。


 「……腹立たしいわ」


 一瞬、思案するように視線を宙に彷徨わせてから。


 「リリアーナ・フランヴェールを……殺す?」


 だが、その考えはすぐに捨てられる。


 「いいえ。相手は公爵令嬢。しかも病弱で、屋敷からほとんど出ない……簡単じゃないわ」


 そして。


 何かを思いついたように、王妃の口元がゆっくりと吊り上がった。


 「ああ……」


 「そうね。婚約破棄させましょう」


 楽しげに、甘く。


 「ちょうどいいわ。レオナードの婚約者も、探していたところだもの。久々に、面白くなりそうね」


 くすり、と笑う。


 その笑みは、どこまでも優雅で――

 どこまでも残酷だった。

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