22、自覚した恋心
強盗に襲われていた私たちを助けてくれたのは、ルキウス様だった。
張り詰めていた身体から、一気に力が抜ける。
けれど――
(ぼんやりしている場合じゃない......!)
私は勢いよく立ち上がり、馬車から降りようとして足を踏み出した。
足元がぐらりと揺れ、視界が一瞬白くなる。
重心を取り戻そうとしても、思うように足が動かない。
――あ、まずい。
そう思った瞬間、膝から力が抜けた。
「きゃっ……!」
思わず声が漏れた、その直後。
視界を黒い影が覆う。
次の瞬間、強い腕に引き寄せられ、私の身体はしっかりと支えられていた。
――ルキウス様だった。
近すぎる距離に、呼吸が詰まる。
鼓動の音が、やけに大きく耳に響いた。
彼の腕は固く、迷いがなくて。
それが逆に胸をざわつかせた。
「……君は、本当に目が離せないな」
低く、呆れたようでいて、どこか安堵の滲んだ声。
「すみません……。でも、助けてくださり、ありがとうございました」
「いや。いい」
短くそう言ってから、私を見下ろす金色の瞳が、ほっとしたように細められる。
「......リリアーナ。君が無事で、本当に良かった」
そんなふうに言われるほど、私は危なっかしい存在なのだろうか。
でも――そう思われるのが、少しだけ嬉しいなんて。
守られていると実感した瞬間、胸の奥が、くすぐったく熱を帯びた。
「でも……どうしてここに?」
「シアン殿から連絡を受けてな。君がひとりで街へ行くと聞かなくて、心配で仕方ないと言っていた」
「もう……お兄様ったら、本当に心配性なんだから。でも、おかげで助かりました」
「まったくだ。俺も肝が冷えた」
そう言って、ルキウス様は苦しげに息を吐く。
「公務を急いで片付けて、街中を探し回っていたんだ。そうしたら……公爵家の馬車が襲われているのが見えた」
そして、少しだけ声を落として。
「もう二度と、ひとりで行こうなんて思わないでくれ」
「……ごめんなさい。でも、普通の令嬢みたいに、街を歩いてみたかったんです」
「わかっている」
即座に返ってきた声は、意外なほど優しかった。
「だからこそ、俺を呼べばいい」
「ですが……ルキウス様は、お忙しいでしょう?」
「君のためなら、時間くらいどうとでもなる」
次の瞬間、距離が一気に詰まる。
気づけば、私はルキウス様の腕の中にいた。
「君が危険に晒されるほうが、俺には耐えられない」
ぎゅっと、抱きしめる力が強まる。
ルキウス様の顔が、私の肩に埋められた。
「……だから、頼む」
ここまで言われて、胸が動かないはずがなかった。
今まで、気づかないふりをしてきた。
感じないように、見て見ぬふりをしてきた。
きっかけは、生きるためだった。
だけど――
ルキウス様の不器用な優しさ、まっすぐな視線。
いつだって心を強く揺さぶられてきた。
私は……
ルキウス様が、すきなんだ。
そう認めた瞬間、胸の奥が熱くなった。
私は、返事をするように、そっと腕を回す。
「……はい。わかりました」
彼の胸に顔を埋めながら、そう答えた。
この気持ちに名前をつけてしまったら、もう、元には戻れない。
――私、リリアーナ・フランヴェールが恋を自覚した瞬間だった。
そして。
同時に、彼の思いを利用していると強く罪悪感を植え付けられた瞬間でもあった。
ブクマ&評価ありがとうございます!
とても励みになります!




