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病弱令嬢は、死にたくないので闇堕ち王子を甘やかします!  作者: ゆにみ
本編

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21/61

21、私も普通の令嬢みたいに

 「リリー……! 本当に行くのか!?」


 廊下を駆けてきた兄が、珍しく切羽詰まった声を上げた。


 「ええ。昨日も話したじゃない」


 そう答えながら、私は手袋を整える。

 今日の外出のために、朝から念入りに身支度をしていた。


 私はリリアーナ・フランヴェール。

 生まれつき身体が弱く、これまで屋敷の外に出ることはほとんどなかった。


 欲しいものがあれば、商人を屋敷に呼べばいい。

 それが当たり前だった。


 ……でも。


 (私も、普通の令嬢みたいに街を歩いてみたい)


 ショーウィンドウを眺めて、立ち止まって、悩んで。

 そんな当たり前の日常を過ごしたかった。


 「でも、今日は俺も交渉があって……ついて行けないんだ。……何かあったらと思うと、落ち着かなくてな」


 兄は落ち着かない様子で視線を彷徨わせる。


 「護衛もきちんと連れて行くわ。心配しすぎよ」


 ルキウス様の癒しの異能の効果は、およそ一日。

 完全に切れてしまっても、以前の私とは比べものにならないほど体調は安定している。


 (それに、昨日ちょうど癒してもらったばかりだもの)


 今日は大丈夫。

 そう、自分に言い聞かせる。


 「ほら、準備ももう済んだし……行ってくるわね?」


 「リリー……」


 引き留める言葉を探す兄を残し、私は屋敷の扉へ向かった。


 名残惜しそうな視線を背中に感じながらも、足取りは軽い。

 胸の奥が、少しだけ高鳴っていた。


 (楽しみ......!)


 こうして私は――

 初めて「自分の意思」で、街へと出かけたのだった。



 ***



 街は活気に溢れていた。

 賑わう人々の声や食欲を誘う飲食店の匂い。


 まずは、仕立て屋に向かった。


 (きっとお兄様は拗ねているから......)


 そう思い、兄への贈り物を選ぶことにした。

 カフスボタンがちょうどいいかしら。いつもの感謝も込めて。


 仕立て屋に一歩足を踏み入れた瞬間、ふわりと布の香りが鼻をくすぐった。


 色とりどりの布地。

 磨き上げられた鏡。

 壁際に整然と並ぶ小物類。


 すべてが、初めて見る世界だった。


 「いらっしゃいませ、お嬢様」


 年配の仕立て職人が、穏やかな笑みで頭を下げる。

 

 「本日は、どのようなご用件でしょうか?」


 「……あの、兄への贈り物を探していて」


 そう告げると、職人の目がふっと和らいだ。


 「それでしたら、こちらはいかがでしょう」


 案内されたのは、ショーケースの一角。

 そこには、上品な装飾が施されたカフスボタンが並んでいた。


 どれも控えめで、それでいて品がある。


 その時、ある一点に目が止まる。


 暗い台座の中央に、ひと粒の金色の石。

 光を受けて、鋭くきらめいた。


 (ルキウス様の瞳みたい......)


 そう思った瞬間、胸の奥が、わずかに熱を帯びた。

 なぜか、強く心惹かれる輝き。


 気づけばその金色のカフスを手に取っていた。


 (あ、つい......)


 完全に無意識だった。

 兄への贈り物を選んでいたはずなのに。


 ......うん。いつもお世話になっているし、ルキウス様の分も用意しよう。


 そうして私は、お兄様とルキウス様への贈り物を選んだ。


 これは、初めて外で私が選んだ物......。

 それだけですごく特別なものに思えた。


 (喜んでくれるといいな)


 真っ先に思い浮かぶのは、兄ではなくルキウス様。

 そんな自身への変化もなんだか心地がよかった。


 そのあとは街を目的もなく歩き、ショーウィンドウを眺めていた。

 いつも屋敷に商人を招いていた私は、こうして歩くだけでも満たされていた。


 少し疲れて、カフェで一息。

 そんなひと時さえも新鮮だった。


 満足した私は、帰るために馬車へ乗り込む。


 (......ふふ、今日は充実していたわ)


 頻繁には難しいけれど、こうしてたまには出掛けたいな。

 今度、ルキウス様も誘ってみよう。


 そうして余韻に浸っていた、その時。


 ――ガタッ。


 急に馬車が止まり、大きな物音がした。


 (何事......!?)


 思わず身を固くする。付き添いの侍女が焦った顔をしていた。


 「......強盗かもしれません」


 「ええ!?」


 馬車の窓からそっと外を覗くと、護衛と黒い衣装に身を包み、顔を隠したような集団とが争っていた。


 「そんな......!」


 外では、金属がぶつかり合う甲高い音が、絶え間なく響いていた。


 私にできることは......迷惑をかけないように身を潜めることだけ。

 でも、相手は強盗。

 金目のものを差し出したら、見逃してくれるかしら。

 ちらりと先ほど、購入した贈り物の外箱に目をやる。


 (でも、あれだけは、譲れない......)


 私が初めて選んだ贈り物。

 胸がぎゅっと締め付けられる。


 でも、護衛や侍女を守る義務が私にはある。


 外では激しく剣と剣がぶつかり合う音が響いていた。

 私は意を決して、震える手で外箱に手をかけた。


 (仕方ないわ......)


 そう、心に聞けた時、急に外の音が静かになった。


 (あ、れ......?)


 窓から外を覗くと、そこには――。


 倒れる強盗たち。剣が地面に無惨に散乱していた。

 その中心にいたのは。


 漆黒の髪に、金色の瞳。


 「ルキウス様......!」


 いつも私を癒しの力で助けてくれる彼だった。

 その姿を見た瞬間、胸の奥に溜まっていた恐怖が、嘘のように溶けていった。

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