19、もう離れない?
今日は、ルキウス様と客間でティータイムを過ごしていた。
柔らかなソファーに並んで腰を下ろし、二人の距離はほとんどない。
(ち、近い......)
肩が触れ合い、息遣いまで伝わってきそうで。こちらの心臓の音も、ばれてしまいそうだった。
ルキウス様は昨日も公爵家を訪れてくれた。
それなのに、今日もまた、こうしてここにいる。
「昨日も来てくださったのに……お疲れではありませんか?」
「......そんなことは、ない」
素っ気ない返事。
けれど、その声はどこか柔らかかった。
「昨日、癒していただきましたし……今日は調子もいいです。無理をなさらなくても――」
言いかけた私の言葉を遮るように。
「……迷惑だったか?」
不意に、縋るような金色の瞳が向けられる。
胸が、きゅっと縮んだ。
「そ、そんなことありません……!」
慌てて否定すると、ルキウス様はほっとしたように、小さく息を吐いた。
「……よかった」
そのまま彼は身を預けるように身体を横にし、
気づけば、私の膝の上にその頭が載せられていた。
「ル、ルキウス様......」
「……王城は、相変わらず息が詰まるんだ」
ぽつりと落とされた言葉。
胸が締めつけられるのと同時に、ひどく、矛盾した感情が湧き上がる。
――喜んでしまったのだ。
以前より、確実に寄りかかられている。
その事実が、どうしようもなく嬉しかった。
そのように、今まで行動し言葉を選んできた自覚もあった。
(……これで、もう……離れない?)
私はそっと、彼の髪に指を通す。
撫でられる感触に、ルキウス様は静かに目を閉じた。
……けれど。
指先が、一瞬だけ止まる。
(このままで......いいのかな......)
胸の奥に、ちくりとした痛み。
――私は、彼を利用している。
それでも。
それでも、私は死にたくない。
生きたい。長く、生きていたい。
それに、彼の支えになっているのなら……
それで、いいのではないだろうか。
――まるで、自分に言い聞かせるみたいに。
そのとき、ルキウス様が不安そうに見上げてくる。
「......リリアーナ?」
「......少し、疲れてしまったのかもしれません」
咄嗟に、そんな嘘をついた。
次の瞬間。
「それは、大変だ」
彼は勢いよく起き上がり、私の手を取る。
そして、額にそっと唇が触れた。
温かい感触とともに、
――いつもの力が、流れ込んでくる。
触れ合う距離が近いせいか、
ただ手を繋ぐときよりも、強い。
(……本当は、疲れてなんていないのに)
それでも、心がふっと軽くなる。
ルキウス様は躊躇うことなく、力を使ってくれる。
それが、当たり前みたいに。
彼はゆっくりと身体を離し、私の顔を覗き込む。
「体調は、戻ったか?」
「はい……ルキウス様のおかげです」
「......そうか」
安堵した表情を浮かべた彼は、再び私の膝へと身を預けた。
今日は、どうやらここが定位置らしい。
(......やっぱり、かわいいな)
素直に、そう思ってしまう。
もっと、いろんな表情を見てみたい。
私は再び彼の頭を撫でる。
ルキウス様は安心したように、目を閉じた。
「......ここは、落ち着く」
「私も……ルキウス様といると、落ち着きます」
「帰らなきゃ……だめか?」
「......まだ、婚前です」
視線が絡み、思わず笑い合う。
穏やかで、優しい空気。
――きっと、これは、しあわせの時間。
歪みが……




