15、ヒロインとの対峙!?
セラフィナと共にその場を離れようとした、その瞬間だった。
ルキウス様が、私の耳元にそっと顔を寄せる。
「……何かあったら、すぐに呼べ。体調が悪くなった時もだ」
一拍、間を置いて。
「――わかったな?」
有無を言わせぬ低い声。
けれど、その言葉には確かな気遣いが滲んでいた。
胸の奥が、じんと温かくなる。
私は思わず、ルキウス様の手をそっと握っていた。
ほんの一瞬、彼の瞳が見開かれる。
――動揺したようにも見えた。
「わかりました。ルキウス様」
「……わかったなら、いい」
短くそう告げると、彼は視線を逸らす。
私は名残惜しさを振り切るように手を離し、セラフィナへ向き直った。
「では、行きましょうか。セラフィナ様」
***
会場を離れ、王宮の外へ。
噴水の水音が静かに響く庭園で、私たちは並んでベンチに腰掛けた。
しばらく、沈黙。
その静寂を破ったのは、セラフィナだった。
「……私、リリアーナ様と……ずっとお話してみたかったのです」
思いがけない言葉に、瞬きをする。
「......私、ですか?」
「はい。憧れ、と言いますか……とても個人的な感情です」
彼女は少し困ったように微笑みながら、視線を伏せた。
「私、身体が弱くて……社交界にもあまり出られませんでした。だから、目立つ存在ではないといいますか……」
原作のヒロイン。
けれど今、目の前にいる彼女は、どこか不安定で、繊細だ。
原作では、リリアーナとセラフィナは出会わない。
だから、彼女が私をどう思っていたのか――知る由もなかった。
「……それでも、私にとっては……ずっとお会いしたい方だったのです」
まるで告白のような言葉に、胸がくすぐったくなる。
「それで……今回、ルキウス殿下との婚約のお話を耳にして……気づいたら、こちらへ向かっていました」
これが嘘か本当かは知る由もない。
でも、彼女が言うには、原作と違う行動を取ったのは、私とルキウス様の婚約がきっかけってこと......?
ますますセラフィナの真意がわからない。
「……初対面で、こんな話をするなんて……変ですよね。でも……」
セラフィナは、ぎゅっと拳を握る。
「……どうしても、伝えなければならないと思ったのです」
真っ直ぐに向けられた視線。
「今日……お二人の様子を見て、本当に仲が良いのだと……そう思いました」
「……はい?」
唐突な言葉に、戸惑う。
そして――
「でも……ダメです」
「……え?」
セラフィナは、意を決したような真剣な表情で、私の両手を掴んだ。
「ルキウス殿下だけは......ダメなんです......!」
「ど、どういう意味ですか……?」
意味がわからなかった。
突然の発言に、思考が一瞬止まる。
「詳しいことは……まだ言えません。でも……」
彼女の声が、震えた。
「……こんなお願い、非常識だと分かっています。それでも……!」
そして――
「ルキウス様と……婚約破棄を、してください」
言葉が、重く落ちる。
いきなり、婚約破棄してくださいだなんて、なんだろうか。
でも、この婚約は私とルキウス様を繋ぐ大事なものなのだ。
他人にどうこう言われる筋合いはない。
私は、セラフィナの手を振り払い、立ち上がる。
「……セラフィナ様の真意は分かりかねますが」
立ち上がり、真っ直ぐに告げる。
「自分のことは……自分で決めます」
「……リリアーナ様、でも――」
「これ以上は、大丈夫です」
言葉を重ねる。
「でも……私に会いたかったと言ってくださったことは、嬉しかったですよ」
セラフィナは、はっとしたように目を伏せた。
「……いきなりすぎましたよね。申し訳ありません。反省します」
「私こそ……強く言ってしまって、ごめんなさい」
そう告げ、私は一礼する。
「では……また、機会があれば」
背を向け、会場へ戻ろうとした、その時だった。
――木の影で、衣擦れの音。
反射的に身構える。
けれど、姿を現したのは――
ルキウス様だった。
……もしかして。
聞かれて、いた?
心臓が、嫌な音を立てて大きく脈打っていた。
セラフィナは何を考えているのでしょうね




