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病弱令嬢は、死にたくないので闇堕ち王子を甘やかします!  作者: ゆにみ


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12/14

12、いつもよりも、近くない?

 セラフィナは、本来ならまだ辺境伯領にいるはずだった。

 ――それなのに、どうして、もう王都にいるの……?


 胸の奥が、きゅっと掴まれたように痛む。


 予想外すぎる光景に、足が止まっていた。

 頭では理解しようとしているのに、身体が言うことをきかない。


 そのとき、頭上から切迫した声が降ってきた。


 「リリアーナ……! リリアーナ……!」


 見上げると、ルキウス様が焦りを隠せない表情でこちらを覗き込んでいた。


 「ルキウス様……」


 「どうした? 急に動かなくなったと思ったら、呼びかけにもまったく反応しない。……どこか具合でも悪いのか?」


 そう言って、そっと手を取られる。

 逃げ場のない距離で、まっすぐに見つめられて――胸が詰まった。


 「……疲れたか?」


 「……そう、みたいです」


 小さく、嘘をつく。

 本当は、ヒロインの突然の登場に、心が大きく揺さぶられてしまっただけなのに。


 ――そんなこと、言えるはずがない。


 「……そうか」


 その一言の直後、身体がふわりと浮いた。


 (え……まさか……!?)


 一気に顔に熱が集まる。

 同時に、周囲からざわめきが広がった。


 「ねえ、見て……あの二人……!」

 「……随分、仲がいいのね」

 「無能王子って聞いてたけど……ああして見ると、案外……」


 そう。

 私は今、大勢の人の前で、ルキウス様に横抱きにされている。


 視界の端で、兄が目を丸くし、小さく震えているのも見えた。


 恥ずかしさでいっぱいなのに、それと同時に、胸にモヤモヤとしたものが燻る。


 ――かっこいいのは、当然でしょう。

 それなのに、今まで散々蔑んでいたくせに……本当に、都合がいい。


 「……リリアーナ。君が何を考えているのかくらい、わかる」


 低い声が、すぐそばで囁かれる。


 「俺は、平気だ」


 「……でも。みんな、あまりにも調子がいいなって……思ってしまって」


 「君は、本当に……」


 その言葉の続きを飲み込むように、ルキウス様は私を見下ろした。

 縋るようで、ひどく優しい眼差しだった。


 「今は、君の身体が最優先だ。……少しだけ、我慢してくれ」


 ざわめきの中、彼の腕に抱かれたまま、私は休憩室へと運ばれていった。



 ***




 休憩室には、大きなベッドが一つ置かれていた。

 そこへ、そっと降ろされる。


 休ませるため――それだけのはずなのに、なぜだか部屋の空気が甘く感じられた。


 それに……ルキウス様の雰囲気も、いつもと少し違う。


 彼は私の隣に腰掛け、自然な仕草で手を握る。


 (……近い)


 身体がぴったりと寄り添っていて、心臓の音がやけに大きく響いた。


 それなのに、ルキウス様は表情を崩さない。

 真剣な顔で、私に癒しの力を送り始める。


 いつもの流れ。だけど、なんだか――


 (......強い?)


 いつもより、はっきりとわかるほど、大きな力が流れ込んでくる。

 なんでだろう。


 (……距離が近いから?)


 そう思った瞬間、顔を覗き込まれた。


 「……どうした?」


 「い、いえ……なんだか、いつもより力が強い気がして……」


 言うべきか迷ったけれど、意を決して見上げる。


 「その……もしかして、いつもより――」


 言い終える前に、ルキウス様が静かに口を開いた。


 「……ああ、くっついているからか?」


 言葉にされて、余計に恥ずかしくなる。


 「ル、ルキウス様……っ」


 自分でもわかるほど、顔が熱い。

 その様子を見て、彼は小さく笑った。


 そして、さらに距離を詰める。


 「……もっと、試してみるか?」


 その瞳は、冗談めかしているのに、どこか逃がさないような色をしていた。


 ――これ以上は、勘弁してほしい。


 そう思うのに、身体は動かなかった。

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