12、いつもよりも、近くない?
セラフィナは、本来ならまだ辺境伯領にいるはずだった。
――それなのに、どうして、もう王都にいるの……?
胸の奥が、きゅっと掴まれたように痛む。
予想外すぎる光景に、足が止まっていた。
頭では理解しようとしているのに、身体が言うことをきかない。
そのとき、頭上から切迫した声が降ってきた。
「リリアーナ……! リリアーナ……!」
見上げると、ルキウス様が焦りを隠せない表情でこちらを覗き込んでいた。
「ルキウス様……」
「どうした? 急に動かなくなったと思ったら、呼びかけにもまったく反応しない。……どこか具合でも悪いのか?」
そう言って、そっと手を取られる。
逃げ場のない距離で、まっすぐに見つめられて――胸が詰まった。
「……疲れたか?」
「……そう、みたいです」
小さく、嘘をつく。
本当は、ヒロインの突然の登場に、心が大きく揺さぶられてしまっただけなのに。
――そんなこと、言えるはずがない。
「……そうか」
その一言の直後、身体がふわりと浮いた。
(え……まさか……!?)
一気に顔に熱が集まる。
同時に、周囲からざわめきが広がった。
「ねえ、見て……あの二人……!」
「……随分、仲がいいのね」
「無能王子って聞いてたけど……ああして見ると、案外……」
そう。
私は今、大勢の人の前で、ルキウス様に横抱きにされている。
視界の端で、兄が目を丸くし、小さく震えているのも見えた。
恥ずかしさでいっぱいなのに、それと同時に、胸にモヤモヤとしたものが燻る。
――かっこいいのは、当然でしょう。
それなのに、今まで散々蔑んでいたくせに……本当に、都合がいい。
「……リリアーナ。君が何を考えているのかくらい、わかる」
低い声が、すぐそばで囁かれる。
「俺は、平気だ」
「……でも。みんな、あまりにも調子がいいなって……思ってしまって」
「君は、本当に……」
その言葉の続きを飲み込むように、ルキウス様は私を見下ろした。
縋るようで、ひどく優しい眼差しだった。
「今は、君の身体が最優先だ。……少しだけ、我慢してくれ」
ざわめきの中、彼の腕に抱かれたまま、私は休憩室へと運ばれていった。
***
休憩室には、大きなベッドが一つ置かれていた。
そこへ、そっと降ろされる。
休ませるため――それだけのはずなのに、なぜだか部屋の空気が甘く感じられた。
それに……ルキウス様の雰囲気も、いつもと少し違う。
彼は私の隣に腰掛け、自然な仕草で手を握る。
(……近い)
身体がぴったりと寄り添っていて、心臓の音がやけに大きく響いた。
それなのに、ルキウス様は表情を崩さない。
真剣な顔で、私に癒しの力を送り始める。
いつもの流れ。だけど、なんだか――
(......強い?)
いつもより、はっきりとわかるほど、大きな力が流れ込んでくる。
なんでだろう。
(……距離が近いから?)
そう思った瞬間、顔を覗き込まれた。
「……どうした?」
「い、いえ……なんだか、いつもより力が強い気がして……」
言うべきか迷ったけれど、意を決して見上げる。
「その……もしかして、いつもより――」
言い終える前に、ルキウス様が静かに口を開いた。
「……ああ、くっついているからか?」
言葉にされて、余計に恥ずかしくなる。
「ル、ルキウス様……っ」
自分でもわかるほど、顔が熱い。
その様子を見て、彼は小さく笑った。
そして、さらに距離を詰める。
「……もっと、試してみるか?」
その瞳は、冗談めかしているのに、どこか逃がさないような色をしていた。
――これ以上は、勘弁してほしい。
そう思うのに、身体は動かなかった。
ブクマ、評価よろしくおねがいします!




