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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

普通という唄

作者:Setsu
最新エピソード掲載日:2025/11/10
朝が来るたびに、問いがふたつ、みっつ、増えていく。
目覚ましの音とともに滑り込むのは、理由のない違和感。鏡の前で自分を見るたび、形は同じなのにどこか他人のような気がする。性別に違和感を覚えることはおかしなことですか? ――問いは今日も、答えをくれない。

「普通」という言葉はいつも強くて、薄い。みんなが知っている隠れ家みたいなもので、そこに入れたら安心するはず、という約束。けれど扉には鍵もなく、地図もない。普通とは何かと問えば、返ってくる答えはたくさんの人の顔ぶれ――誰かの笑い方、誰かの服、誰かの歩幅。そうやって測られる自分は、測り方が違うだけで壊れてしまうのだろうか。

答えのない疑問が頭の隙間に根を張る。夜ごと、根は深くなり、夢は濁る。だけどふとした瞬間に、小さな光が漏れることがある。彼女が窓辺で笑ったとき、制服の襟がひらりと動いたとき、世界はほんの少し色を取り戻す。光は問いを消さないけれど、問いが私を飲み込むのを止める。

私はまだ言葉を探している。正解ではなく、自分が使える言葉を。誰かに「大丈夫」と言ってもらうためではなく、自分に向けてそっと置ける言葉を。普通になれないなら、普通を辞書から抜き取って、自分だけのページを作ればいいのかもしれない。ページの隅にでも、好きな人の笑い声を書き留めておけたら――それだけで、夜はやわらかくなる。

問いは消えない。消えないけれど、問いと一緒に生きる術はある。答えを持たないままでも、私は歩ける。小さな光を拾いながら。たとえそれが、一瞬の笑い声であっても。
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