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第弐話


「あなたに、私の伝記を書かせてあげるわ!」


「......」


「あなたに、私の伝記を書かせてあげるわ!」


「......」


「あなたに、私の伝記を書かせてあげるわ!」


 ゲームのNPCみたいだ。だが、ゲームと違って顔色に怒りが滲んできているし、そもそも選択肢がYESしかなさそうな圧がある。


「とりあえず...お茶でも出しますね。」


「いただくわ。」


 そう応えると彼女は何の躊躇いもなく僕の家の中へ入っていった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「粗茶ですが。」


「あら、ありがとう。ちなみに本当に粗茶なの?」


 そんな事を聞くものではない。


「近くのスーパーの特売で買った茶葉のパックです。」


「本当に粗茶なのね。」


 悪かったな。


「それでご用件は?」


「さっき何度も言ったでしょ。私の伝記を書かせてあげる。」


「伝記ですか?」


「ええ。」


 少女は頷き言葉を続ける。


「私って、ほら、天才でしょ?」


「ええ。」


 彼女の言っていることは決して傲慢などではない。美貌、芸術、学術、運動、異能力。どれをとっても彼女に敵う人間はいないだろう。彼女が天才でないなら、天才を定義出来ないと言えるようなそんな存在だ。


「どんな偉人も天才にも伝記って付き物でしょ?私もそろそろかと思ってね。」


「まだ早いのでは?」


 たしか彼女は18か19歳ぐらいだった気がする。


「まだ17よ。」


 どうやら彼女は読心術にも優れているようだ。そして僕は、女性の歳を上に予想するという禁忌を犯してしまったらしい。


「すみません。」


 こういう時は平謝りに限る。原稿が遅れた時にもよく使う手だ。


「まあ、いいわ。とにかく、今から伝記を書いてもらう。伝記を書くためにある程度私と行動してもらうわ。」


「は?」


「なによ?なにかおかしい事でもあった?」


 伝記ってのは、その人に付きっきりでリアルタイムで書くものではないはずだ。


「あなたの今までの功績を伝記にするのでは?」


「今までの功績も綴ってもらうわよ。でも、これまでよりこれからの人生の方が長いでしょ。だから近くにいて書いてもらうわ。」


 すごく嫌な予感がする。


「それって凄く大変なんじゃ。」


「さすがに何もない日は何も書かなくていいわよ。それに他の仕事もある程度優先していいわ。」


「それはとても助かりますけど、僕は今休暇中で...」


「リネン先生。」


 彼女は強い瞳で僕を見る。


「人の人生は短いわ。それまでに成せることは多くないの。休暇が悪い事とは言わないけど、あなたはたくさんの事を成せる力があるのだからもっと頑張ってみるのも良いのではなくて?」


 圧がすごいなあ。瞳孔なんてガン開きだよ。


「遠慮します。」


「頑張ってみるのも良いのではなくて?」


「えんr...」


「頑張ってみるのも良いのではなくて?」


「...」


「頑張ってみるのも良いのではなくて?」


 やはりNPCなのではないか。


「労働基準法の中でなら頑張りますよ。」


「はぁ、わかったわ。そのあたりは後で詰めましょう。とりあえず、私の依頼を受けてくれるのね。」


 受けないという選択肢は最初からなかったように思える。僕はなんて無力なのだろう。


「とりあえず、これからよろしく頼むわ。売れっ子小説家のリネン先生。」


 彼女は僕に会ってから一番の笑みを浮かべた。


「僕の休暇が...」


 もちろん僕は肩を落とした。



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