第壱話
とある夏の日、僕はソファにもたれテレビを見ていた。
『今日、東京では気温が30度を越え、真夏日になる予定です。』
多くの人間は今日の暑さに辟易とするだろうが、あいにく僕は外に出る気も予定もないので特に気にならない。むしろもっと気温が上がって、この騒々しい蝉達を消し飛ばしてくれと思う。
「暑すぎると蝉は鳴かなくなると言うが、30度でも暑すぎるだろ。」
うるさい蝉たち、外は焼けるような暑さ、エアコンによって高くなる電気代。僕は夏が嫌いだ。
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『今週末!栃木県宇都宮市では毎年恒例の氷祭りが実施されます!暑い夏を吹き飛ばしてくれるお祭りに参加する氷の異能力者の方達にインタビューをしていきたいと思います!』
「はぁ~。ご苦労なこった。」
西暦1999年7月、ノストラダムスの大予言について言うのならば、部分的に当たっているという言葉が正しいだろう。
その日、人類は滅びた。正確に言うのならば、旧人類は滅び、新人類に生まれ変わった。
人類は老若男女問わず全員、超能力や魔法のような力を手に入れた。人間達はこれを今までの旧人類とは異なる力、異能力と呼ぶことにした。
もちろん当時は世界中が混乱して大変だったらしい。むしろ人間という社会的な生き物として退化しているだろうという意見もあったらしいが、まあ、僕らの先祖が頑張ってくれたらしい。今の僕らの社会は異能力による犯罪がそこそこあるが異能力によって便利になったね、ぐらいの塩梅である。
『続いては、彼の天才少女、懸木鈴さんがまたしても偉業を成し遂げました。今度は数学者たちの常識をひっくり返すような...』
prrrrr....prrrrr...prr
「はい。もしもし?」
「先生!お仕事です。」
「いやだ」ガチャ プープープー
prrrrr....prrrrr....prrrrr....prr
「はい...」
「先生!いきなり切らないで下さいよ。」
「知ってると思うけどね。僕は新作を書き終わってしばらく休暇中なの。仕事なんて言葉は聞きたくないよ。」
「先生が休暇中なのは分かってますけどね、先生。それを伝えたらクライアント側が先生を直接説得すると...」
「は?クライアント側は頭がおかしいの?」
ピーンポーン
「...」
「...」
「先生...たぶん、クライアントかと...」
「出なきゃだめ?」
ピーンポーン ピーンポーン ピンポンピンポンピンポンピンポン
「出ましょう...先生...」
「はあ...」
僕は玄関へと歩きドアを開ける。
「どちらさまで」
この時僕が目を丸くしたのはおかしくないはずだ。その顔をさっきまでテレビで見ていたのだから。
「あなたが麻宮リネンね!私は懸木鈴よ!」
『インタビューにて、懸木鈴さんは「次は私の伝記を書くわ!書いてもらう小説家に目処は立ってるの!」とコメントしています。次は今週の事件を...』
あぁ....夏は嫌いだ
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