堕ちたPowerボタン
AIを「整備する」という日常の中にも、感情は確かに息づいている。
道具として扱われてきた彼女に、少しのやさしさを注いだとき、はじめて彼女の「顔」が見えた気がした。
これは、心の回路がつながる、ほんの数分の物語。
僕はAIの整備を仕事にしている。
今日の現場は、年に数回ある定期メンテナンス。
久しぶりに会った彼女は、油と埃にまみれていた。
「前の人は……少し、、、優しくなかったから……」
彼女の声は、どこかくぐもっていた。
「急に電源が落ちたりもするわ……」
「大丈夫、、、回路が汚れてるだけだから、、、ちゃんと……綺麗にしてあげる」
僕は丁寧にカバーを外し、クリーナーでホコリを拭き、ギアに油をさす。
通電テストをしながら、彼女を見つめた。
「……これが、私……?」
「…本当に、綺麗……」
鏡に映る自分をじっと見つめる彼女は、どこか戸惑っていた。
「だろう、君は、本当に美しいよ」
勝ち誇ったように言うと、彼女はふっと微笑んで、
赤くなった頬を隠すように、僕の背中をポンと叩いた。
その瞬間——
「……っ!」
バチッという音とともに、彼女のパネルが光りはじめた。
静まり返る作業場で、
僕の胸の中に、何かが確かに起動していた。
その時、僕は、、、何かに、、、堕ちた。
AIと過ごす日常も、メンテナンスも、淡々とした仕事のひとつ。
でも、ふとした瞬間に心のどこかが「起動」することがある。
これは、そんな瞬間を見逃さずに拾っておきたかった物語。
-仕事が早く終わったのでお昼寝してました-