表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/5

星に願いを

翌日、天文部の週一回の定例会が開かれた。僕は当然、椿が現れるものだと思っていた。昨日のやり取りの続きを、心のどこかで期待していたのだ。

けれど、彼女は姿を見せなかった。

椿が部活を休むなんて、一体いつ以来だろう。彼女自身が情熱を注いでいた観望会、その準備の日に限って欠席するなど、予想すらしていなかった。

僕は無意識に、手元のペンを強く握りしめていた。

「先輩、今日の定例会で観望会の話をする予定でしたが……椿先輩がいないので、どうしましょうか?」

後輩が遠慮がちに声をかけてくる。彼女がいないという現実を改めて告げられ、胸の奥がぎゅっと痛んだ。

──僕は、何かを壊してしまったのだろうか。

椿が築いてきたものまで、失ってしまうような気がしてならなかった。

「予定通り進めよう。椿が立てた企画だから。」

自分に言い聞かせるように資料に目を落とす。彼女がいない今だからこそ、誰よりも率先して動かなければならない。

準備にはふたつの課題があった。

ひとつは僕が提案した「恋愛にまつわる星座の話」と、それに連動するプラネタリウム機材の投影準備。

もうひとつはビラに使用するキャッチフレーズの決定だった。

プラネタリウム機材については後輩の一人が、「椿先輩が手配済みです」と教えてくれた。その言葉を聞いた瞬間、彼女がちゃんと動いていたことを知り、胸がじんとした。

台本は天文に詳しい後輩が手早く草案を仕上げてくれた。アナウンス文で悩んだが、放送部の友人に無理を言って協力を得ることができた。

問題はチラシのキャッチコピーだった。

「……これで、どうでしょうか?」

後輩たちと議論を重ね、迷った末に決まったフレーズは──

『星に願いを。星空からの贈り物、お届けします。』

どこか照れくさい言葉で、椿なら「甘すぎるな」と軽く笑いそうだったが、今の僕たちにできる精一杯だった。

デザインを担当した後輩が美術部の友人にすぐ連絡を取り、印刷前に椿にも確認してもらうことにした。

たった二時間の作業なのに、僕たちはぐったりと疲れてしまった。

椿はいつも、こんな手間を独りで背負ってきたのか。そう思うと、自然と窓の外に目が向いてしまった。

冬の空はすでに夕暮れの色に染まりかけていて、葉を落とした木々が静かに影を伸ばしていた。

その翌日も、僕は椿に会えることを期待して部室に向かった。

しかし、彼女は現れなかった。

さらにその次の日も、僕を迎えたのは静かで空っぽの部室だけだった。

カーテン越しに差し込む冬の光が、ただ静かに床を照らしていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ