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第六話

 仕事の内容を桃李が把握しておく分だけ伝えられた後、仕事の初日は明後日からという事なので、それまでは暇になった桃李。

 手始めに会議室からの帰り道、街をぶらつく事にした。どうせ今から学校に向かっても終業しているだろうし、自宅までの距離だってまだまだある。頭の痛い話をさっきまでしていたのだから、多少は気分転換をしておく必要があるだろう。


「と言っても、何をしようかな……」


 ふと、街並みを見渡す。先ほどの会議室があったビルと同じく、灰と白と青色で彩られ、無機質に形作られた街並み。砂漠よりはマシと言えども、殺風景なそんな景色は、何かをしようかなという意欲を喪失させて来そうだった。


(だから街の中心には近寄りたく無いんだよね。お前は街を構成する一パーツに過ぎないんだぞ。なんて言われてるみたいになってさ)


 そんな事を独り言ちながら、適当な喫茶店でもあるだろうかと足を進ませる。

 こんな事なら、田井中と管理官の話が終わるまで待っておけば良かったかもしれない。そんな風に思っていたからか、桃李の目に他の人影が目に映った。

 桃李より年がやや上に見える男二人と同じ年に見える少女一人。

 少女の方は道の端。建築物の壁に背中を向けながらおどおどとしていて、男二人はニヤつきながら、二人で少女の逃げ道を塞ぐように、少女に対面しながら左右に分かれていた。


(……ナンパかな)


 そんな風に思う。ついでに声も聞こえて来た。


「なーなー。今って学校で勉強してる時間だろ? 抜け出して来たって事なんだから、ちょっと遊ぼうよ」

「えっと……あのぉ……」


 まあ、典型的な会話だろうと桃李には見えた。当人的には優しく話しかけている風でいて、圧を掛けてる男二人と、それにどう対応したら良いか戸惑う少女。

 無視するという手もあるのだろうが、桃李の場合はそれに見かねた形になった。


「ちょっと良いですかー?」


 と、男二人に背中側から話しかける。なんだと振り向く男達の前には、桃李みたいな背が低めの中学生一人。


「おい、なんだガキ。どっか行けよ」


 まあ、そんな風に返してくるだろう。けれど、わざわざそれで引くなら話しかけたりはしない。


「その娘。困ってる風だけど、あんまりそうやって詰めるの良く無い事だと思いますよ」

「はぁ? なんだなんだ? 正義感でも出したってのか? 悪いがそういう―――

「正義感っていうか親切心っていうか……これから喧嘩とかしたら結構大事になるかもしれませんし、穏便に済ましません? ほら、僕こっち側なんで」


 と、男達の方に手を伸ばした桃李は、その手から黒い杭を発生させ、トンと男の内の一人の肩に軽く置いた。


「こいつ……戦争世代!」

「ひっ……お、俺達は何もするつもりはねぇぞ! 無いからな!」


 そりゃあ、こういう反応になるだろう。こっちの返答も反応も待たずに、男二人は逃げる様に走り出していた。

 別にそれを追うつもりも無いし、思った通りに穏便に事が済んで良かったと思う事にした。

 そうして、まだおどおどした様子の少女に目を向ける。


「うぇっ……た、助けられたんですか? わたし?」


 ちらちらこちらを見て行く少女の目と、揺れる前髪。肩くらいまで伸ばした麻色の髪も少女らしい外見だと言える。外見的な特徴はと言えば、随分と可愛らしいなと言える顔立ちをしており、そんな彼女を見て、桃李は口を開いた。


「どっちかと言えば、逃げた二人を助けた形にもなると思うんだけど……違う?」

「えっとぉ……わたし、一般の方を襲う趣味とかありませんっ」

「じゃあ、それをまず伝えないと、拗れる結果になるよ。僕達みたいなのはさ」


 そんな助言を、桃李は目の前の少女。自分と同じ戦争世代の少女に向けた。

 そう。彼女もまた、桃李と同じく、学生か何かの身分でありながら、砂漠に出て戦ったり探索する様な仕事をしている一人なのだ。


「そもそも、どうして分かったんですか?」

「君、さっきの二人に対して、面倒だからちょっと痛い目に遭わせてやろうかなって半身を引いただろう? 徒手空拳から組手か、もしくは別の事かは知らないけど、ああいうの、知ってる人間から見たら、同族だって分かるもんだ」


 何が一般の方を襲う趣味はありませんだ。そういう穏便な考え方があったとしても、いざ困った相手に出会った時は、その一般人を迷惑な相手として区分けして、ならちょっと手出ししてもオーケーなどと考えるタイプと見た。


「同族ですかぁ……言い得て妙ですねぇ」


 さっきまでおどおどとした様子から、少女は大分砕けて来ていた。話をしている内に、桃李が悪人では無い事に気が付いたのか、それとも、桃李の言葉通り、こっちを同族であると認識したのだ。


「彼らと僕らは違うって、そういう考え方は禄でもないって思うんだけどね……そっちはどう?」

「わたしですか? ええ。まったく。禄でもないなって思います」


 こんな言葉を返してくる時点で、少なくとも敵意は持たれなくなったらしいというのは分かる。

 一応、あらゆる事が穏便に済んだと考えて良いだろうか。そんな風に結論を出した桃李は、この場を去ろうと手を振って別れの合図にしようとするも……。


「あの、迷惑じゃなければ、近くの喫茶店でも寄りません? 実は昼食がまだでして、あとここ周辺の土地勘も無くって、目的地までの行き方とか教えていただけたらなーっと。あとあと」


 矢継ぎ早の少女の言葉を聞いて、桃李は一旦手で止める。彼女が言わんとしている事が、桃李にも分かったからだ。

 彼女、もしや桃李と感性が似ているのか?


「ここらへんの景色って、妙に一人だと不安になってくるよね。昼食の時くらい、誰かと喋りながらしたい。そういう事かな?」

「ああ……はい。その通りです!」


 理解者が都合良くそこに居た。そんな風に彼女は笑った。

 彼女の思考を類推出来たのは、勿論、心を読んだからで無く、桃李もまた、同じ事を考えていたからだった。

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