最終話
そうして一つの戦いは終った。街一つが犠牲になるかどうかであった事態は、街を守る部隊とその隊員である戦争世代の青少年達の活躍により、被害を最小限に押し留める事が出来たのだ。
と、街の出版社が発行している記事には大々的に書かれている。
事実、作戦は成功し、当初の予想よりも隊員の死者数は少数で済んだ。だが、その戦いの中で死んでいった者、命を賭けた者、必死で戦った者が、どんな気持ちで、どんな生き様を示したのかは、記事の中には描かれていない。
そういう事があった。それだけが伝えられ、街はその時を刻んでいく。
それがこの世界での戦いだ。過酷な世界へとやってきた人々が、それでもこの世界で生きていくという意地を示す、そんな一ページとなっていく。
ただし一つだけ、何時もと違う事があるとすれば、記事の端には、ある少年の活躍が、ひっそりと追加されていた事があるだろうか。
化け物の群れから撤退する部隊に対して、殿となってくれた少年が一人居たらしい。一つだけで無く、複数の部隊が、彼の存在を報告している。
次々と戦線を移動して行ったらしい彼が誰だったのかまでは記事は把握出来ていないが、もし実在していれば、彼は今回の戦いの、ヒーローの一人なのだろうと、大層な書き方がされているのだった。
どこか、無機質な空間で、同じくらい無機質な男と女の声が響く。
『という事はつまり、今回の賭けは君の勝ちと言う事で良いのだろうか』
『変化はありました。我々がより注力すべきだと思える変化が。ですがまだまだです』
『おや。あの大作戦の中で、一部部隊の独自行動を許すべく、各所に掛け合った君の台詞だとは思えないが』
『妥当だと思えたからしました。彼、八加瀬・桃李からその様な提案が来た事自体が画期的だと言うのなら、確かに面白い変化と言えます』
『我々は感情を動かす事も無くなって来たが、君のそれはある種の喜びだろう。私にとっても、相応に良い傾向だと称賛出来るとも。我々の後継者達は、確かに自分の意思を持って、明日を生きようとしている』
『そう思うのでしたら、今後も……』
『ああ、そもそも私の方からの提案だ。部隊間の交流について、継続する事を検討する。違った特色の者達を混じり合わせて行く。考えてみれば、我々とて、かつてはそれを続ける事で、世界に華を咲かせていた。そういう記録がある』
『リスクはあります。ですがそのリスクがあってこそ、生きると言う事なのでしょう』
『かもしれん。そうして祈らずには居られないな。この戦争が、どうか勝利で終わってくれる事を』
言葉はそれで終わって、沈黙が続く。彼らの戦いとてまだ暫く、続く事になるだろう。
ある少年が居る。彼は朝起きて、軽い朝食を取りながら制服に着替えて学校に向かう。
道中、教室の友人と顔を合わせ、話をしながら教室へと辿り着いた。
クラスメイト達との暫しの談笑の後、授業が始まる。街と、これまでの戦いの歴史、基本的な世界の法則、世界をさらに学んでいくための技能訓練。その多くは教師からで無く、手元のタブレットから音声と映像により伝えられてくるものの、それをどう受け止るかは人それぞれ。
真剣な顔で画面を見ている者、眠気を噛み殺しているもの、睡眠欲に敗北したもの。本当に様々な光景だ。
その光景の中に、少年は居た。真面目にという程では無いが、授業をサボる事は無かった。
このまま半日が過ぎていくか。そんな風に少年が思っていると、呼び出しが掛かる。
授業を中断し、クラスメイト達から軽い応援を受けながら教室を飛び出していく。
校門近くに待っているのは、大きなトラックに乗った戦友だった。
少年もまたトラックの助手席に乗って、街の外、砂漠広がる戦いの世界へと向かっていく。
トラックはそうして目的地へと辿り着く。砂漠の只中、危険な生物が溢れる世界。
そんな世界で装備を整え、黒いコートを羽織り、目の前を見据えたなら準備完了。
「分かってるか、八加瀬。今回は援軍無しだ。敵さんは例の大群から取り残された小物だが、いかんせん数が多い。上からは牽制で良いから、街に近づけさせない様にしろとさ」
「了解。要するに、きっちり痛い目に遭わせて、街に近づくのは危険って思わせたら良いんだろ?」
「間違っても、こっちが痛い目に遭うんじゃあないぞ?」
「分かってるって。それじゃあ八加瀬・桃李、行って来ますっと!」
コートの機能により軽くなった、生まれながらの強靭に作られた身体で砂漠を駆ける。
手には自ら発生させた黒い杭を持ち、時には射出し、凶悪な原住生物達との戦いを繰り広げる。
戦争世代と呼ばれる少年の戦争は、どうやらまだ終わっていない。だが、その表情は暗いものでは無かった。
大きな戦争があった。とてもとても大きな戦争が、かつてあった。
実はその戦争はまだ続いている。彼らが生きている限り、戦争は続くのだ。
その戦争の中で、何時か戦争世代とそれ以外などと呼ばれる垣根すら越えて、この世界で生きられる様になった時こそ、彼らは勝利するのだろう。
そのために、八加瀬・桃李は今日も戦っている。




