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第二十五話

 砂漠に風が吹く。砂煙は日の光が弱くなって来た時間帯だったせいか、さらに世界を暗くしてしまう様。

 もう少しすれば夕暮れとなり、徐々に世界は夜の帳の中へと至るだろう。

 それまでの時間が、今回の作戦の決行時間。ただひたすらに化け物達の、この世界の原生生物達の群れと部隊員達がぶつかり続ける時間。


(そうして、僕らの作戦が行われる時間でもある)


 桃李は砂漠の中の待機位置で、黒い戦闘用コートを羽織りながら、インディ達がやってくる地平線を見つめていた。


「八加瀬くんでも、やっぱり不安?」

「僕でもっていうのは変かな。みんなと同じだよ。上手く出来るか心配だ。赤丸さんの方は?」

「みんなと同じ。うん。わたしも不安」


 桃李と赤丸は、それぞれ武装した格好で、二人並んで立っていた。

 他人が見ればまさにこれから戦争を始める恰好であったが、当人たちの気分は、実はそこから少しズレていた。


「あのさ、赤丸さん」

「なぁに?」

「前に、怒られた事があるだろう? ほら、僕が特攻役としての自分をそのまま受け入れてる様な、そんな事を言ったから」

「そっか、作戦会議より前はそんな感じで別れちゃってたね」


 二人して話し合う内容は、むしろ桃李達にとっての日常会話に近かった。

 この前にあった事。これから起きる事。責任感も特になく、何気ない話をここでしている。


「あれさ。とりあえず、ごめんって言いたかった。多分僕は……納得しちゃいけない事に納得しようとしてたんだって、今なら思えるから。けど、それを上手く言葉にはまだ出来ないんだ」

「ううん……良いの。今回のわたし達の作戦。桃李くんが考えた作戦を聞いて、わたしの方は分かったよ? 桃李くんは……今日だって、明日だってずっと、生きたいって思ってるって事」

「そっか。それが伝わったのなら……それで良いのかな」


 気恥ずかしさが勝って、頬を掻く。難しい事を考え過ぎて居たかもしれない。こうやって、並んで会話するだけで、解決する事だってあるのだろう。

 だから、こんななんでも無い会話が出来る日々を、今は生きて行きたい。


「行こうか。これで生き残ったら、パーティでもしよう」

「パーティはちょっと、どうかな。お祝いは賛成」


 語り合い、そうして前を向く。砂煙の中に隠れていたインディの群れが目に映る。そうして、作戦が始まった。

 桃李と赤丸。二人並んで走り出した。最終的に決まった作戦はこうだ。

 まずは桃李と赤丸二人を群れの中へと突貫させるための火力支援が始まる。


(ここについては、援護してくれる美少女部隊は大きな部隊だ。不安は感じてない!)


 桃李達の後方より、黒い杭や黒い砲弾が跳んでいく。

 こちらの世界へとやってきた人間が、この世界の物質を使ってなんとか作り出せた質量兵器。それが杭や砲弾に使われている黒い金属だ。

 桃李自身が空気中より精製できる事から、この世界にはありふれた物質であり、だからこそインディにも通用する。


「よし、群れが分かれた。あそこから群れの中へ突入する。準備は?」

「う、うん。いけるよっ!」


 赤丸の返答を聞き、桃李は前には進む。一方、まっすぐでは無く、その方向を支援攻撃により群れが割れた部分へと修正する。

 これもまた予定通り。桃李は群れの中へと特攻し、群れの中央を目指す。では赤丸は? 彼女の役割は途中まで桃李を直接援護する事である。

 並走し、桃李に足りない火力があれば、彼女が所持する機関銃により援護する。通常の武装より火力を重視したもので弾数は多く無い。

 あくまで主な攻撃も進出も桃李の役目。けれど彼女が隣に居るだけでもありがたい。


「この後のタイミングは僕が図る。確認はオーケー?」

「了解っ。その……頑張ってね。八加瀬くん!」


 お互い確認して、混沌と混乱渦巻く群れの中へと飛び込んでいく。ここからは本当に桃李自身の力だけが頼りだった。

 一秒ごとに巡り替わっていく景色、場所、インディ達の動きに対して、特攻役としての能力を与えられた桃李だけがそれに対応して行動出来る。

 現状の桃李は、赤丸を先導する役目も担っていた……が。


「上手いね。赤丸さん」

「無駄にここに居るわけじゃないよっ」


 進む先。小型のウサギみたいなインディが複数居る場所に、赤丸が機関銃の弾を放ったのだ。

 赤丸がそれをしていなければ、桃李が自らの体力を消耗しながら、進路を変えるか攻撃を行っていたところだ。

 赤丸の役目とは、つまりこういう事である。無事に群れの中央まで桃李を送り届ける事。


(僕だけの考えなら、ここに居るのは僕一人だけだった)


 自分以外に被害が出るのは、やはり遠慮したいという思いがあったから。

 だが、桃李の作戦案をまとめた青原は、各所に桃李の負担を軽減させるための部隊配置を行ってくれた。


「命は誰だって大事だし、作戦の成功だって大事。だからどっちも重要視して、みんなで負担を分け合うのがチームワークの基本よ。これは理想の話じゃなく、現実的な話」


 というのが青原の言である。

 そんな彼女のリアリストな部分に感謝しつつ、桃李は進む。羽織った黒いコートが重力を中和し、身体が軽くなり、走る速度を増していく。

 同じ装備をしている赤丸も同様に付いて来ており、適宜桃李が進む予定の場所にいるインディを排除してくれているが、徐々に距離が開き始めていた。

 桃李の判断により進みながら、なお桃李を援護しているのだから、必然、赤丸の方の動きは遅くなる。時間を掛ければ掛ける程に、お互いの距離は離れていく事だろう。

 ならば桃李は進行速度を緩めるべきか? それはきっと、赤丸自身が拒否するだろう。

 だから桃李は言うべき時に言うべき事を言う。


「赤丸さん……君はそろそろ撤退だ」

「それは……」

「分かってるだろう? ここまではすごく助かったし、ここから先だと逆に足手まといになる。そうなったら、多分きっと、二人にとっても駄目な事だ」


 作戦を成功させる。生き残る。その二つのために、桃李と赤丸はここで分かれるべきだ。赤丸はまだこの群れの中から撤退する余力を残しているし、桃李はまだ群れの中央に向かって進める。

 だからこそ、この次にも最適な行動をして、お互い、生きて再会しよう。桃李は目で、赤丸にそれを訴えかけた。

 赤丸もまたそれを頷きで返して来た。


「八加瀬くん、どうか―――


 彼女は何と言ったのだろうか。インディ達の鳴き声や足音でかき消され、赤丸の言葉が桃李へ届かない。分かれる事を決めた以上、二人の距離は一気に開き、再度尋ねる事も出来なくなった。


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