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第二十四話

 多くの部隊が作戦開始を待つ大型基地が本部だとしたら、その周辺。幾つか小さな基地やテントが点在しているその中の一つ。

 そこにあるのは大型のテントであったが、それでも不釣り合いなくらいに多くの人間が集まっている状況がそこにあった。

 未だ作戦実行前。本部では無く別の場所である程度の人数が集まっているというのは、少しおかしな状況であったが、それは彼らの集めた中心人物がいるからだ。

 その中心人物が発言する。


「作戦開始前に集まって貰ってみんなごめん。けど、管理官からの許可は得ているから、そこは心配しないで欲しい」


 中心人物とは、八加瀬・桃李であった。

 桃李はテント内に置かれたホワイトボートの前に立ち、その桃李の前方を中心に扇状に椅子と、そこに座る部隊員達が並んでいた。

 整然とではなくバラバラに。しかし全員の視線は真剣なもので、それらが桃李に向けられている。


「八加瀬君。あなたが、その……管理官に何か掛け合ったって事?」


 さっそく出て来た質問。それを発言したのは、この場においては多数を占める第266美少女部隊の青原・志麻だった。

 というか、ここに居る部隊員の大半は第266美少女部隊員とその活動を補佐する面々であった。

 本来であれば、桃李なんか緊張したり興奮したりして、まともに話す事が出来ない状況だろうが、今は不思議と面と向かって話が出来る心境だった。


「はい。今回の大作戦。それこそここら担当の部隊の大半を動員されてる作戦だけど、そこに一つ、別の作戦を持ち込んでみたところ、許可が出た形です。ただし参加部隊の同意の元にって事なので、話をまず聞いてくれたなと」


 作戦中は実質、戦闘員が桃李一人である第73特殊攻撃部隊が美少女部隊に頼み込まれる形となる。規模的に考えれば、美少女部隊が嫌だと断ればそれで最初から中止が決定される。


「聞くだけは聞くけれど……」


 批判も肯定もその後だが、どうなるか分かったものじゃあないぞという青原の考えは聞かなくても分かる。

 彼女は椅子に座り直し、他の部隊員と同様に桃李の話の続きを聞く姿勢となった。


「では僕が考えた作戦案についてここで伝えます。まずこの作戦の決行予定は、大作戦の方と同時になります。やる事として、インディ達の群れとぶつかるっていう方針も、そう大きく変わるものじゃあありません」


 ホワイトボードに概略の図を書き込んでいく桃李。誰かから意外と絵が上手いなどと聞こえて来たが、些末事だろう。


「で、当たり前ですけどそこで大作戦に参加する部隊と群れはぶつかり、一時膠着状態になります。そこで僕達が……突出する。いや、この時点では僕だけかな」


 それを告げた時点で、さっそく会議がざわつき始めた。そのざわつきの感情は困惑の色を見せていた。


「ま、待って。その案ってつまり……」


 青原が疑問を向けて来るかなと予想していたが、声は違う方から聞こえて来た。

 桃李の方はそちら視線を向ける。

 そこには、赤丸・古野子が椅子から立ち上がっている姿があった。

 彼女の勢いに答える様に、桃李は話を続ける。


「ここに居る皆さんもご存じの通り、僕が所属する第73部隊は特殊攻撃作戦部隊です。戦場が膠着した中で、より敵陣に深く入り込む技能は十分にあります。つまり……今回、インディの群れに対して特攻を仕掛けるって事ですね」

「じゃあ、八加瀬君は―――

「敵は群れそのものですが、生物の群れでもある。つまり群れの中心がいます。ラキオスと呼ばれる、四足で全長は成体なら三十メートルを超えるあれです」


 砂漠で戦闘する部隊であれば誰しもが知っているインディの一つだ。長い前足と後ろ足に図太い胴体だけで移動していて、顔がその胴体に埋もれているから、酷く奇妙なオブジェにも見える。

 鈍重な動きで食性も少なくとも肉食ではなく、普段であれインディではあっても敵対する対象では無いそんな……この世界に当たり前に存在する生物の一種。


「今回、そのラキオスの群れが大移動を始めた結果、それを中心として他生物が生態系ごと群れとなって移動し始めたのがそもそもの原因で、実はこいつらの群れさえ方向を返されれば、街への直撃コースは避けられる」

「良いかしら? そこは既に前の会議で検討されていた部分だと思うけれど」


 赤丸の方を見ながら話していた桃李に対して、青原がまた質問してくる。この質問に関しては想定済だった。


「確かに。ラキオスだけを狙って、こちらも複数の部隊を突撃させた場合、その部隊は、結局は群れの中央まで突っ切る事になりますし、その際の被害は正面からぶつかって方向を変えさせるより酷い事になるっていう予測が出てましたね。けど、それはあくまで複数の部隊で突っ込んだ場合はです」


 だからこその特攻だった。部隊の被害が甚大になると予想されるなら、部隊を送らなければ良い。

 個人で、さらに相応の火力でラキオスを攻撃出来れば、それが失敗したとしても、個人の被害だけで済む。さらに言えば正面からぶつかるという当初の作戦だって継続出来る。


「現在の観測結果に寄ると、中央に群れとなっている成体のラキオスの数は十四匹程。うち六匹の動きさえなんとか変えさせたなら、ラキオスの群れはより安全な進路を取ろうとする可能性は高い……っていうのは、管理官とも相談の上で出した結論です」

「確かに、そこまで言われると異論は……無いけれど」

「ありますっ」


 青原は納得してくれたが、あやはり赤丸の方は話を続けるつもりらしかった。


「……不満点はそりゃあ、いろいろあるよね。それはこれから詰めて行って-――

「そうじゃなくて、八加瀬くんはそれで良いのって、そう聞いてる! だってこんな作戦。あなただけに頼る様な物でしょう?」


 赤丸は泣きそうな顔をしていた。会議の場なのだから、他の目だって向けられているのに、彼女はただ、桃李の方を見て、悲しそうにしているのだ。


「僕の能力が足りるかどうかの話なら、火力と機動力については試してみるだけの可能性はあるはずだよ。確かに他のインディの群れを抜けて、ラキオス六匹っていうのはキツいけど……」

「作戦が可能とか、不可能とか、そうじゃなくって!」

「他の部隊との折衝については、ここにいる部隊以外は、管理官側でしてくれるらしい」

「そういう事でも無いっ。八加瀬くん自身は―――

「僕も死にたくなんか無い」


 言葉を先延ばしにしていたけれど、桃李は赤丸を真っすぐ見てそう言った。

 本当は、一番始めに言っておくべきだったのかもしれない。気恥ずかしくたって、彼女に悲しい思いをさせるくらいなら。


「僕だって生きていたい。今回がいくら無茶な作戦だって、この先があるって信じてるからしようって思ってる。少なくとも僕は。だからみんなをここに集めたんだ」


 赤丸だけで無く、今、この場に集まってくれている部隊員達にも視線を向けて、桃李は続きを話し始める。


「僕は生き残りたい。ただ生きるだけじゃなく、街だって破壊されたくない。こう……まだいまいち実感が無いけど、あの街で、無事なままで、色んな事を体験したいんだ、僕は。だから僕は生き残りたいし、街だって無事のままで……ここに居る部隊員達。他の部隊だってそうだ。みんながまた、明日も生きて居られる様な、そういう結果を僕は望んでる」


 夢みたいな話だろう。実際、桃李は夢みたいな事を語っている。いや、漸く語れる様になったのだ。

 何時か、戦場で死ぬからという諦めの中で生きていた自分が、漸く生きたいと思える様になった。そんな夢を叶えるために今、ここで夢を語るのである。


「僕一人だけじゃあ駄目なんです。僕一人じゃあ、特攻する事しか出来ない。作戦を成功させたって、群れの中央から無事に脱出するための目算が立たない。だから……ごめん。みんなにも危険な目にも遭って欲しい。僕が撤退する際の進路を戦線として支えて欲しい。今、その許可が得られないなら、この作戦は無しだ」


 桃李一人のために、負担を強いる作戦。もしかしたら犠牲だって出るかもしれない。そんな作戦だからこそ、桃李には頼む事しか出来なかった。

 数字だけを見れば、犠牲は桃李一人だけの方が少ないのだから。

 断られるだろう。きっとそうだ。けれど、そんな事を思いながらも、桃李は作戦案を立てずに居られなかった。

 明日もまた、戦場だけで無く、いろんな場所で生きていくためには、この作戦を成功させるしか無いと思ったから。


「……わたしは、賛成だよ。桃李くんが生き残りたいって思ったのなら、それに賛成する」


 言葉を返して来たのは、赤丸だった。

 そんな彼女の目には、もう、悲しさは無い様に見えた。

 まっすぐこちらを見て、一緒に戦ってくれると彼女は桃李に告げたのだ。

 もしかしたら、彼女のそんな姿を見られただけでも、桃李は救われたのかもしれない。ただし、彼女の言葉だけで状況は決まらないのであるが。


「ちょっと待って赤丸さん。あなたの独断で決めたら、元も子も無いでしょう? 一応、部隊としての判断の取り決め役は、私って事になってたはずだけれど?」


 青原が当たり前に当たり前な事を言う。そりゃそうだ。赤丸だって美少女部隊においてはまだ新人である。中心人物であり、前回も作戦会議の代表者だった青原が最終的に判断を下すのである。


「あっ、えっと、青原先輩、すみません! べ、別に先輩の判断を蔑ろにするつもりは無かったと言いますか、他のメンバーもですね、ちゃんと話し合いをしてからとは考えていたんですけど、ついそのぉ……」


 慌てて言い訳を始める赤丸に対して、やれやれと言った様子で溜息を吐いた青原は、今度は桃李の方を向いてきた。


「作戦案としては悪く無いと私も思うけれど、八加瀬君はこの手の作戦立案の経験はどれくらいあるかしら?」

「あー……すみません。積極的に自分から立案となると、今回が初めてですね」


 なかなか痛いところを突いてくるなと青原の方を見る。頼りになりそうな人物だという雰囲気がこれまであった青原であるが、厳しい面も多々ある女性なのかもしれない。


「そう、やっぱりね。話し方からして、戦線を支える際の戦力配置や、あなたを助けるとなった場合のタイミングなんかも詰め切れてないんじゃないかしら? 概略だけ決めて後は出たとこ任せだと、それこそ被害が出ちゃう。作戦決行までにもうそれほど時間が無い事を考えれば、これから急いで細かい部分を話し合わなくちゃいけないわね。急がないと」

「はい、はい。それはこちらとしても申し訳ない話と言いますか、いや、本当に、今日になって急に出した話で、そこを言われると申し開きも何もありませんと……急ぐ?」


 ちくちくとした青原の言葉の最後に付け足されたそれに、桃李は首を傾げた。

 そんな桃李の反応は予想していたと言わんばかりに、青原の方は笑みを浮かべて来る。


「だってそうでしょう? やるとなったら私達の部隊も生き残るために全力を出さないと。ここからの時間は宝石よりも貴重よ。とりあえず八加瀬君は概略の説明を早く終わらせて、次に他のメンバー全員で詰め作業を始めましょう。少しでも不安点があるなら迷わず言ってね。そこをとりあえず修正していくだけでも、大分結果が違ってくると思うから」


 いきなり会議の場で、主役を奪われた気がする。だが、桃李は悪い気がしなかった。


(僕だけが必死になるわけじゃない。そうだ。戦場でだって、僕は一人なわけじゃあない)


 それに……自分の意見はどうやら受け入れられたらしい。この場に居る誰しもが、桃李の出した作戦案に希望を見出してくれたのだ。

 だから桃李も全力を尽くそう。自分自身が、そうしてこの場に居るみんなが生き残るために。



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