表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/28

第二十二話

 作戦の決行日は決まった。

 会議から一週間後。その間、作戦中の行動についての幾つかの訓練が行われたが、それ以外の部分はこれまでの日常と変わらない。

 学校に通い、ただ日々を過ごす。むしろ砂漠での作戦が一週間後まで無いのだから、日常の部分が何時もより濃い気がする。

 桃李にとってそれは、これまでまったく無かった事では無い。


(時々あったよ。作戦と作戦の合間の、休養期間みたいなものはさ。けど、意識した事は今回が初めてかもしれない)


 東南中学校の教室。その昼休み。昼食も終わり、気だるげな空気の中で、桃李は自分の座席でふと、そんな事を考えていた。

 何時もとは違う。それは間違いない。何せ机を挟んだ目の前に、何時もとは違う顔があったからだ。


「よーよー。だからよ、言ってやったんだ。そりゃあ強い。すごく強いかもしれないけど、俺よりは弱いってさ。分かる?」

「うーん。いまいち、その手の話は分かんないかな」


 目の前にはクラスメイトの(かん)()(たかし)が居た。

 第266美少女部隊のライブの帰り道、偶然会った彼とは、何故か時たま会話をする仲になっていたのだ。


「かー、やっぱり八加瀬君にこの手の話は分かんないか。この話を聞けば、そりゃあみんな盛り上がるんだぜ?」

「……そうなの?」

「そうでもないかなー」


 居るのは寛我だけでは無かった。他のクラスメイトも回りに居る。

 別に桃李が人気者というわけでは無く、教室ではその時々に応じて、人の集まりが出来るというだけ。

 今回はそれが桃李の席の周囲だっただけ……なのだが、それ自体がこれまでには無かった。

 この教室内においては、八加瀬・桃李の席の周辺は雑談をする場所では無い。という考え方から、何時の間にか雑談出来る場所に変わっていたのだ。

 その切欠が何だったかと言われれば、やはり寛我の影響があるのだろう。


「けど、やっぱりさ。思うんだよ。恰好良く生きようとすれば、恰好良くなる。これは俺の座右の銘だね」


 彼が特別というわけでは無い。今の話だって、意味なんて欠片たりとも無い、数秒後には何の話をしていたっけとなる程度の話だ。

 けど、そんな話を、彼がまず桃李とする様になった。その内に、他のクラスメイトの距離も何時の間にか縮まっていた。

 ある種の異分子であった戦争世代の桃李が、今、普通に他の生徒と話が出来る環境になったのである。

 ならばやはり、寛我が特別なのか? 彼が別に特殊な人間で無い以上、それは無いだろう。特別な何かがあるとすれば……。


(僕が勝手に、壁を作っていただけ……なのかな?)


 桃李側にも、最近になって心境の変化があった。それを言葉にするにはまだまだ、桃李の人生経験は足りないものの、何かが変わったのだ。

 だから今、こんな状況になっている。こんな状況を心地良いと考える自分が居る。


「でさー……どった? 八加瀬君よー」


 話の途中、桃李が教室の窓を見つめていたせいか、寛我が訝しむ様に尋ねて来た。


「ああ、ごめん。ちょっと今日は用事が出来たみたいだ」


 桃李の視線の先。教室の窓の外には、大きなトラックが止まっていた。砂漠を走るための、大きく分厚く、頑丈で武骨。

 桃李達戦争世代を戦場へ運ぶためのその車両。


「今日も仕事? 大丈夫か?」

「ああうん。多分、大丈夫だと思う。何時も通りの仕事だから」


 心配してくる寛我に対して、桃李は笑ってそう返した。

 会議から一週間後、化け物の群れから街を守る作戦の実施日は今日だ。

 事前の取り決め通り、現場の準備が整い次第、桃李の様な前線で戦闘を行う部隊員が向かう事になる。

 日常から、戦場へ。


(そうだ。この日常は、僕が違う世界だと思っていたはずのものだ)


 それが今、この瞬間、自分はここに居たのだ。ここも居場所だと実感できるようになった。

 そういう実感を忘れない様に、桃李は一度だけ振り返ってから、教室を出て行った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ