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第十七話

「チケット? 良かったじゃんか。俺には何も無しだぜ何も無し? 俺だってさ、結構頑張ったんだけどな。頑張ったよな?」


 日がまた昇り、中継基地から街へと戻った桃李と田井中。そのトラックを普段止めている車庫において、桃李達は任務最後と雑談をしていた。

 それにしたところで2、3分で終わりそうな、そんな雑談である。


「僕だけで成功した仕事じゃなかった事は確かだよね。役目は果たしてくれていたし」


 本当に、何でも無い会話である。任務の終わりに、こういう話をしておくことで日常に戻って来た事を実感できる。そういうスイッチみたいな会話であろう。


「だよなー。いや、俺はお前程、美少女部隊のライブに興味があるってわけじゃあ無いんだけどさ、それはそれじゃん。感謝の気持ち。俺も貰いたかったー」

「あながち、感謝だけの気持ちじゃ無さそうだったんだけど……ん?」


 何時もの会話が進む中で、いつもとは違う事があった。

 トラックの通信機からコール音が鳴ったのだ。管理官からの通信である。


「……嫌な予感がするな」


 と、田井中が桃李へ視線を向ける。

 その視線に桃李も頷いた。何時もであれば、コールなんぞせずにいきなり声を発してくるのが管理官というものだ。何時も通りで無い事態というのは、大半が嫌な事が待ち受けている。そういうものだろう。


「出ないわけには……行かないよね……」


 諦めの言葉では無く、事実がそうなので、桃李の方から通信に応答するためのボタンを押した。

 こちらから通信確認を言おうとするも、それより先に、その通信機より声が聞こえて来た。


『任務ご苦労様です。八加瀬・桃李。田井中・孝則。八加瀬・桃李にはこれから話がありますので、田井中・孝則の任務終了を許可します』

「お、マジですか。じゃあ俺はこれで」

「おい! 田井中!」


 止める桃李に対して、薄情な田井中はさっさとトラックを降りて行く。自分もそういう立場だったらそうしていただろうけど、見捨てやがったなこの野郎感は拭えない。


「……」

『よろしいですか?』


 管理官の言葉は別に何時もと語感が違ってはいないが、何時もどこか苛ついているのか? みたいな口調なので、黙っているだけでもこちらが不味い事をしてしまったのかという気分させられてしまう。


「えっと、話がある……という事でしたけど、どんな話が? 任務は成功したと思っていたんですけど」

『はい。その報告は既に受けています。後に経過の詳細を報告書で提出していただく事になりますが、第266部隊の管理官より作戦状況について既に話をされており、その件について少々直接尋ねたい事があります』

「第266部隊の管理官ってあの……」


 男性の声であったが、今、聞いている女性の管理官よりはまだマシ程度の声を思い出す。

 あちらにしたところで、仕事仕事仕事な人間らしい。顔も知らないものの。


『ワイアームの討伐作戦において、あなたは最前線の囮役をしたそうですが、それは部隊間の力関係に寄るものですか?』

「力関係って……別に、無理矢理させられたわけじゃありませんよ。むしろ向こうからは遠慮とか何で人数の少ない第73部隊がするのかとか、その手の嫌味だって作戦前にはあったというか……」


 もしかして第73部隊が舐められているかもしれないというのが気掛かりなのか。だとするなら、この管理官もなかなかに良い性格を―――


『自らその役目を買って出たという事ですか?』

「べ、別にこっちも、好き好んでその役をしているわけじゃないですよ……ただ、そういう流れだったというか……」

『第266部隊の管理官からは、作戦前の段階における話し合いが不足していたという報告を受けています』

「不足だったというか……お互いの状況を考えて、僕がするのが自然だったから、そうなっただけですよ。間違いだったわけじゃあない」

『自らに適正があった。だから受けたと?』

「その通りですけど……」


 問題のある話に思えなかった。むしろ自分で話をしていて、適切な判断だったとすら思う。が、管理官はそれを否定する様な言葉を続けて来る。


『何故、一度、考えてみなかったのですか?』

「考えるって、良く考えてみなくても分かりますよ。ワイアームを叩くには相応の火力が必要で、それにはワイアームを一所に留めておく必要がある。そのためには、ワイアームが狙い続け、周囲の状況に気が付いて逃げ出さない程度にその行為に熱中させるための囮役が必要なわけでしょう? なら、あの場で最適だったのは僕だ」


 あの場で言ってしまえば喧嘩にしかならないため、そこまで言及しなかったが、経験やその能力含めて、一番上手くやれるのは桃李であったはずだ。

 そういう目的のために生み出されたのだから、驕りでも虚勢でもない。そうするしか生きていけないのだから、そうしただけだろう。

 そうして……。


「どうせ、しないなんて選択も無かった。そうでしょう?」

『もし、真実その通りだとしたら、我々の戦争は敗北で終わったのでしょうね』

「えっ……?」


 口調は変わらず、何時も通りに無機質なそれ。


『こちらの愚痴です。作戦時のあなたの心境については分かりました。八加瀬・桃李。あなたの作戦終了も許可しましょう。次の作戦まで良く休息を取っておいてください』

「ちょっと、聞くだけ聞いてそれで終わりなんて―――

『確か、今度の第266部隊が行うライブ……あなたにも案内が来ていたはずですね。八加瀬・桃李』

「うぇ!? あ、いや、そりゃチケットを貰ってますけど……」

『でしたら、そのイベントには是非、顔を出す事をお勧めします。以上、通信を終わります』

「終わりって……ああ、もう。本当に切れてるし……なんなんだよいったい……」


 桃李は音が聞こえなくなったトラックに備え付けの通信機器を見ながら、頭を掻いた。

 今回の作戦は酷く面倒だった。意味の分からない事も多すぎる。命がけの仕事だってそれなりに行って来たが、今回のはまた違うタイプの疲労を感じてしまう。


(じゃあそれがどういうタイプなのかっていうのは……まだぜんぜん分かんないんだけどさ……)


 もしかして、その事で失望でもさせたのか? 聞きたくなるものの、通信機器から再び声が聞こえて来る事は無かった。







 そのトラックに備え付けられた通信機器。そこから聞こえる事は無いが、街のあらゆる場所に存在している声を伝える装置のそのさらに奥にある何か。

 そこではまだ、声があった。


『時期尚早だった。そういう評価がこちらにも来ている』

『その意見については、同感であると伝えているところですが』


 男と女の声。それぞれの共通点として、互いに無機質であり、ややノイズ混じりであるという物があるそんな声が、感情も無くただ会話を続けていた。


『だが、期待はしていた。君の方はそうだろう』

『期待は今のところ外れています。彼はまだ、こちらの想定を超えていません』

『その様な設計なのだから仕方あるまい』

『ならばそちらの彼女らと交流させた意味とは?』

『想定された通りの設計で、想定された通りの事をしても変化は無い。だからこそ、早々に事を行う必要があった。私の方はそう考えている。実際、許可は出て、君も賛同した』

『結果は……有意だったとは思えません』

『そうだろうか。まだ結論を出すのは早いと考える。それこそ時期尚早だな』

『しかし……』

『第73部隊の人員喪失は早い。現在、戦闘用部隊員は残り一名となっている。だからこそ、君は過保護になっていると考えるがどうか』

『こちらの思考に、その様な部分がある事は認めます』

『なら、今は見守る事だ。変化の兆しは、最初は酷く緩やかなものだろう。その後は劇的となる。こちらに関しても、そういう期待だがね』


 お互い、そこまでが必要な会話だったからと突然に黙る。沈黙が続き、それが永劫続くかもと思える中で、やはりまた、女の声が聞こえて来る。


『変化の先に、本当に戦争の勝利が待っているのでしょうか?』


 その問い掛けは誰に向けたものでも無かったのだろう。答えはどこからも返って来ず、やはりまた、沈黙が続く事となった。

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