第十四話
「あたしは反対。それって、あたし達が一人前じゃないって事でしょう?」
言葉がテントの中に響く。
大型のテントかつ、布地も厚いので、基地中に響かなかったのは幸いだろうとなどと、桃李は考えていた。
時間は夜。静まり切った砂漠の夜であろうとも、テントとその中を照らす明かりさえあれば、そこは人間のための空間だ。
故にそのテントの中には幾つかの椅子が並び、椅子の数だけ人間も存在した。
その人間のうちの一人、金髪の少女が声を発している。
名前は黄志岡・亜由美。美少女部隊の一人であり、そのファンである桃李が外見と名前を間違えるはずも無かった。
問題は、そんな彼女の声にはある種の敵意が含まれている事であろう。
「今、伝えている作戦案についての不満かしら? 亜由美」
現在、テントの中では部隊員が集まってのミーティングの最中だった。進行役と取り纏め役は美少女部隊内の中心役である青原・志麻であり、一応、黄志岡の目線は青原に向かっていた。
「その通り。まったくそう。今回のワイアーム討伐に関しては、あたし達の仕事だってずっと聞いてたし、だからこそ我慢出来た。けど、この作戦案は何なの?」
「参加する部隊員達全員の能力と適正を考えての役割分担をしているのだけれど、あなたの不満ってそこ?」
「すぐに当てられたって事は、志麻だって分かってるじゃん」
と、二名の会話が白熱し始める段階で、黄志岡の目線がこちら向いてきた。桃李の方だ。
なんてこったと頭を抱えたくなって来たが、黄志岡の目線はちらりと睨むだけで、再び青原の方へと向かった。
「この、真っ先にワイアームとぶつかる突撃役は、何時もあたしだったはず。そうでしょう? どうして今、そこから外されているの?」
「だから能力と適正。攻撃班から外れたわけでは無いじゃない。南と一緒に、中距離からの攻勢役だって、今回が初めてじゃない」
と、さらに人物名が青原の口から出て来た。黒加羅・南。テント内の隅の方に配置された椅子に座る、女性にしては長身の、ぞっとするくらい美形の部隊員だ。
長い黒髪をポニーテールみたいに纏めて武装する姿は、ファンの中において女性人気が多いというのも頷ける。
そんな彼女も話に混じるのかと冷や冷やする桃李であるが、黒加羅の声は聞こえなかった。桃李から斜め後ろに居るため、どんな表情をしているか分かったものでは無いものの。
「南、あなたはどうなの? 今回、あたしと共同になったわけだけど、あなただって言いたい事があるんじゃない?」
「……確かに、どうしてと思うところは、ある」
それだけの言葉が斜め後ろから聞こえて来た。やっぱり顔を見るのが怖い。
(というか、胃が痛い)
何が胃に来るって、今の話題の真っ只中に居るのが桃李なのに、ひたすら立場を無視されている事だろう。
「あのね。部隊員達の中で空気がギスギスなんてして欲しく無いからあえて言ってない事を言わせないでちょうだい」
「あたしが能力不足で、こいつの方が適任だって、そんなに言い難い!?」
もう避けられない。等々桃李に指が差されてしまった。
このまま無視して沈黙を続けるとさらに厄介な事態になるだろうから、桃李は口を開かざるを得なかった。
「一応、僕個人の考えとしては、技能的に不足は無いつもりなんだけど……」
「あーそうね。あたしよりも上手く仕事が出来るくらいに不足の無い技能なのよねぇ?」
「あ、あはは」
黄志岡の嫌味が九割くらい混ざった言葉を向けられて、桃李は曖昧な笑いを漏らすしか無かった。何を言ったところで、反感になりそうな気がするから。
「彼に怒ったところで仕方ないでしょう? そもそも、それこそ彼の方が反感を覚えたって仕方ないはず……よね?」
と、青原が尋ねてくるも、一方の桃李は首を傾げた。何に反感を持つのか? このギスギスした空気に対してか?
「ええっと……今の状況においては、少なくとも、あなたが一番最初にワイアームとぶつかる事になるんだけれど……」
「後方からの援護はして貰えるんですよね?」
「勿論、ワイアーム討伐はあなたと私達の部隊の総意だから、そのために全力を尽くすつもりだけれど」
「じゃあ問題は無いって思うかな……いやその、やっぱり、空気が悪いのは問題なんで、こう、応援して送り出して貰えると有難い部分があったりなかったり」
「……そう」
何故か青原からも悩ましいものを見る様な目を向けられてしまう。
どうしてだろうか。彼女にとっては、桃李くらいが大人しく彼女の判断に従っているはずなのだが……。
「じゃあ、ここでの話は一旦終わり。とりあえず決まった方針で作戦準備を続行します。本番は明後日になるから、急遽な変更も極力無しよ。分かった?」
青原のその言葉に、桃李は了解の返事をしようと思ったが、第266部隊の面々は声を発しなかったので、空気を読んで小声で了承するだけにした。
一方で意外だったのは、赤丸についてだった。
彼女もまた、今日の会議に出席している。だというのに、彼女もまた返事をせず、複雑そうな目で桃李を見つめてくるのみだったからだ。




