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第十一話

 桃李達を救出しに来たかの様に現れたのは、本来桃李達が合流する予定だった部隊であった。

 先んじて合流した田井中が、帰還が遅れている桃李達に異変がある事を察して、急遽増援を集めて動いてくれたらしい。

 もっとも、それにしたって事前に偵察予定だった場所の奥まで進軍するなんて事は出来なかったろうから、幾らか桃李と赤丸が基地への帰還を進めていたのは幸いであったとの事。

 おかげというか、首の皮一枚というか、結果的に桃李達は命を拾える状況に持って行けたと表現出来るだろう。


「相変わらず悪運が強いんだよ、お前はな。無茶するなってのも変な話だが、無茶する方向性が何とか助かろうとするってものだったのは、とりあえず文句は無い。って、聞いてるか?」

「聞いてるよ。とりあえずあれだろ? こー……あー、駄目。まとまらない。全然無理だ」

「やっぱりそうなるか……」


 漸く辿り着いた砂漠の途上にある後方基地のテント内。夜の帳のせいで、今は薄明かりの電灯だけが頼りとなっているその空間で、何故か頭を抱えている田井中を桃李は見つめる。

 見つめてはいるが、あまりその目には彼が映っていなかった。というか、周囲の景色にしたって落ち着かない状態だ。


「だってさ、仕方ないじゃないか! こんな事、どうして隠してたんだーって思いに溢れて、溢れるから、そりゃ僕には隠すかって納得して、そんな事を繰り返してるんだよ、今! もうね、もう今日は無理だね。今日だけじゃなく明日以降も無理かも」

「せめて明日からしゃんとしてくれ。むしろこれからが本番なんだ」


 分かってはいる。分かってはいるのだが、心の方の問題というのは簡単に解決しないから厄介なのだろうに。

 原因は分かっているものの、解決する手段が見当たらない。それくらいの混乱の中に桃李はいた。

 では、その混乱の原因はどういうものかと言えば……。


「少し良いかしら?」


 と、桃李と田井中だけが居るテントに、女性が一人入って来た。

 肩に掛かるくらいの艶やかな黒髪を伸ばし、顔立ちも相当に美人。それが軽装とは言え戦地での武装した装備で身体を包んでいるのだから、一見すれば硬いとか緊張するとかの印象を受けるも、話し掛けて来た口調は軽い、良い表現をするならば人懐っこいというものであるかもしれない。


「えっと……」


 暫く反応が無かったため、戸惑っているその女性に対して、慌てて桃李は声を発した。


「は、はい! 全然大丈夫! 大丈夫ですはい!」

「同じく、丁度、会議中ではあったんですが」


 田井中の方はまだ冷静であったが、桃李の方はそうも行かなかった。それもやはり仕方ないではないか。

 この女性は桃李達を良く知らないだろうが、この声を桃李の方は良く知っているのだ。

 彼女の名前は青原・志麻。第266美少女部隊の一員であり、その第266部隊こそ、桃李達第73部隊が合流する予定の部隊だったのだから。


「うーん。なんだか大丈夫そうには見えないけれど……」

「こいつの事なら気にしないでください。暫くずっとこんな感じだと思うんで」

「おい、田井中。ずっとこんな感じって、何がずっとなんだよ」


 目でそういうところがだよなどと伝えて来てもさっぱり分からないぞ、田井中め。

 まさか美少女部隊と共同作戦が出来るなどという事態に、冷静になれなどと言うつもりではあるまいな。


「そうね。あなたに話した方が、話が早そうだけれど……一応、そっちの子が八加瀬・桃李君なのよね?」


 田井中から桃李へと視線を向けながら、青原が話し掛けて来た。無論、緊張しているのでただ激しく頷く事しか出来ない。

 こうやって双方向性のある会話をするというだけでも、光栄の極みだと言うのに、なんと自分と会話したいとまで言ってくれるなんて―――


「うちの部隊の、赤丸・古野子ちゃんの事なんだけれどね」


 青原からその言葉が飛び出した時点で、桃李の頭の中に何か冷たいものが通る感覚があった。

 さっきまでの興奮が一気に静まり、混線していた思考が纏まりを始める。


「彼女、無事なんですか? 怪我の状態は? 今後の活動に支障が出る怪我であれば、こちらにも責任があります」

「大丈夫。無事よ。後遺症も無いし、足の怪我だから傷跡もそこまで目立たないし……ここに来たのは、あの娘を助けてくれたお礼も兼ねてなんだけれど、急に雰囲気が変わるのね?」

「え……あ、いや。彼女とは縁があるので、様子はどうなのか気にはなっていましたので、はい」


 自分でも、近日中に収まるはずが無いと思えた興奮が容易く消え去っているのは、ちょっと嫌な習性だなと自覚するものの、まだ興奮は復活してくれない。

 完全に仕事モードという奴だろうか。


「そういう反応されるのも困っちゃうかな。握手の一つでもすれば、お礼の形になってお得だなんて思ってた側として、恥ずかしくなっちゃう」


 あっけらかんと言ってのける青原を見て、確かにアイドルだなこの人はと思ってしまう。可愛らしさというか、親しみというのが、どこか湧いて来るからだ。

 これで桃李達と同様に砂漠のインディ連中と戦ったり杭を立てたりする仕事をしているのだから凄いものであろう。


「ま、さっそく仕事の話をするべき状況だって俺の方は思いますね。俺だってあなた達のファンなんで、気を抜いたらそっちの顔が出ちまいますし、そういうのっていざ一緒にするなら不健全でしょう?」


 もっともな意見で、田井中がまとめてくる。こういう時に酷く便利なのが彼であった。


「じゃあ率直に……これから、あなた達の役割についてだけれど、それはもう分かってくれている?」


 青原の言葉に、桃李は田井中と共に頷いた。


「あなた達の護衛。今回みたいな予想出来ないインディの襲撃なんかを警戒し、実際に遭遇した時は積極的な対処をする。でしたっけ? 人手不足的な不安以外は、文句は無いです。今回だって、やるべき事は出来ましたしね」


 桃李は赤丸との事を暗に伝える。聞く限り、彼女は無事らしい。その事に胸を撫で下ろしつつ、今度もまた同じ事をし続ける必要があるのだろう。

 今後は赤丸だけで無く、第266美少女部隊全体に対して。


「そう。認識としてはこっちと同じで、とりあえずは安心……とも言えないわね」


 普段、ポスターやライブで見せない表情を青原は見せてくる。

 それは桃李達にとっては馴染みのある表情。どこか諦めに似た苦笑だ。桃李達だって浮かべる事がある表情である。


「俺達が人手不足っていうのは、あなた方にとってはそこまでの懸念事項ですか?」

「ざっくり言うね、田井中」

「言わなきゃ話が始まらないだろ。俺だって出来ればこんな世知辛い話したくは無いっての。けど、やっぱりこういう話題で進めた方が良い」


 確かに、真面目に仕事をしていなければ、目の前の少女が自分達にとって間違いなくアイドルである事を思い出しそうになる。

 今の桃李の、冷え切っている心境としては、その心配も無さそうであるが。


「悪く思わないでね。私達の直近の仕事は、八加瀬君。あなたが遭遇したワイアームの討伐なの。あれは今回の件で確信出来たけれど、縄張りを広げている最中。それが街の方まで広がれば……分かるでしょ?」


 早急に対処しなければならない事であるのは分かる。今日の事前偵察にしても、ワイアームが出現する周辺の安全確認を兼ねての事だったのだろう。

 結果的に、ワイアームの活動は活発になっており、周辺生物の生息域すら変化している。


「部隊の規模的に、第266部隊が動いて相当っていうのは僕でも分かりますけど、それを思うと、やっぱり牽制役としてうちの部隊は人手不足ですよね」


 双方の部隊にとっての課題になるかもしれない。だからこそ早々に、桃李達に接触してきたのであろう。


「そこなのよねぇ。あなた達に言っても仕方ないけど、うちの部隊から、あなた達で大丈夫かなんて話も出ているから。そこだけは覚悟して欲しくって、こうやって先に話を持ってきたの。ああ、私の方は悪印象では無いからね? うちの新人ちゃんを助けてくれた事、本当に感謝してるんだから」


 新人。そう言われて、漸く桃李の胸に熱い何かが復活してきた気がする。仕事モードが終わり始めている。


「えっと……やっぱり、赤丸さんって、そういう?」

「どういうのかって聞き返すのはいじわるよね? だいたい言いたい事は分かっちゃうし。八加瀬君が私達のファンって言うのなら、察しも出来ているんでしょう?」

「うわっ。じゃあやっぱり、今まで隠されてた、新しく加入する娘って赤丸さんだったんだ……どうしよう。すごい。こう、結構慣れ慣れしく話しちゃったよ田井中」

「おーおー、喜んどけ喜んどけ。明日からくっそ忙しくなるし、良い目で見られないだろう事を覚悟した上でな」


 そこのところは、少しずつ気が重くなってきていた。第266美少女部隊は規模が相応に大きく、これで実力だってそれなりの部隊なのだ。そんな部隊を、実働部隊二名な第73部隊が護衛する? そりゃあ文句が出るし、その文句が向かうのは桃李や田井中に対してだろう。


「ごめんなさいね。あなた達の実力っていう話なら……それなりに伝わってはいるんだけれど」

「俺達の話が、あなた方に?」


 田井中が首を傾げ、桃李もまた似た様な面持ちになる。話が逆では無いか。


「ちょっと、謙遜する場面じゃないでしょ? だって第73部隊と言えば―――

「ああ、その手の話なら、俺はあんまりしたく無いです。なあ、八加瀬?」

「まあ……あんまり言いたくは無いかも……?」


 慌てた様に話を遮る田井中に対して、桃李の方は別に拒否感は無いのであるが、田井中のこの様子を見れば、従って置いた方が良いというのが桃李なりの経験則だ。


「分かった。今のところはそれで納得しておく。けど、今後、一緒に仕事するなら、嫌でも話題に上がって来るわよ?」

「分かってます。分かってます。けど、そこはちょっと、慎重にしたい事ってあるでしょう?」


 と、田井中が桃李の方を見て来た。

 妙な配慮がされているな。そんな風に桃李は思うものの、今日の話は大人しくこれで終わらせて置く事にした。

 明日から忙しくなるだろう。そういう実感が、桃李にも湧き始めて居たからだ。




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