「第二話」幻想郷の危機
秋は好きだ。暑くもなく寒くもなく、過ごしやすい環境を提供してくれる。
だが、掃除は嫌いだ。やってもやってもキリがないし、一度掃いても次の日にはあっという間に散乱しているから。しかもこいつら落ち葉は、よりにもよって秋にうじゃうじゃ出てくる……だから私は結果的に、秋が部分的に嫌いだということになる。
「博麗の巫女ともあろうものが、随分とくだらないことを考えているのね」
まぁそれ以上に、こいつは大嫌いなのだが。
ため息をつき、背後の『スキマ』を睨みつける。──正確には、その奥に潜む妖怪を。
八雲紫。最古参の大妖怪でありながら、この幻想郷を創ったとされる賢者のうちの一人。
この幻想郷を誰よりも愛し、陰ながら真面目に奮闘している真面目なやつ。……そして何より、私に面倒くさいことを二番目に多く持ってくる厄介者。
「妖怪はいいわよね、そういうこと考えなくていいんだから。ほーんと羨ましいわ」
「あら、私にだってお友達はいるわよ? まぁ最も、あなたが今考えているあの子ほど愚直ではないけれど」
この野郎、偽装のための思考を貫通してきやがった。どこぞのサトリ妖怪じゃあるまいし……私は思わず舌を打ち、箒を乱暴に振るった。
「……そっちこそ、妖怪の賢者としての自覚は無いみたいね。こんな所で油売ってていいのかしら?」
「意味もなく私がここに来ると思うの?」
「意味があるから面倒くさいし、あんたの顔見るの嫌なのよ」
「そう、私はあなたのこと嫌いじゃないし……同じ幻想郷を守るものとして頼りにしてるわ」
言い返す気力も失せ、私は黙る。「要件は?」という沈黙の後に、紫は答えた。
「単刀直入に言うと、幻想郷の危機よ」
「──マジか」
思わず頭を抱えた。そうか、こいつの口からそんなセリフが出てくるとは。
そりゃあ、こいつと協力して異変を解決することは何度かあった。幻想郷の平和と安寧を崩すような度を越した異変に限り、だが。それでもこの妖怪はいつも洒落た言い回しで私に協力を求めてきた、それが……『幻想郷の危機』という力のある言葉で表現した。
並大抵の異変ではない。
この妖怪が、賢者と畏れ敬われる八雲紫にそこまで言わせるのであれば。
「……分かったわ、協力する。それで? 私はどうすればいいの?」
「魔法の森を一緒に調べてほしいの。ほら、私よりもあなたのほうが……というより、あなたのお友達のほうが詳しいだろうし」
分かった上の悪意在りきで言っているのか、それとも単なるお節介なのか……どちらにせよ不愉快で、私は虚空に開いた『スキマ』を睨みつけた。
「なんで魔法の森なのよ、やけに場所を絞るじゃない」
「……あなた、新聞は読んでいるかしら?」
新聞? 私が首を傾げると、紫は一枚の新聞を差し出してきた。それは、ちょっと前にあいつが私の目の前に叩きつけてけてきたのと同じ、射命丸新聞だった。
「……これがどうかしたの?」
「ここよ、ここ。『凶星、魔法の森に落ち来たる』ってところ」
紫の顔は深刻そうだった。とてもとても、誇張に誇張を重ねたデタラメ新聞を見る目では無い。──ああ、やっぱり、と。私は心の中で大きなため息をついた。
「私はこれを、『外』からの侵入者……またはそれに近しいものだと考えているわ」
「博麗大結界を容易く突破するようなやつ、か……なるほどね、そりゃああんたがビビるわけね」
乱暴に落ち葉を吹き飛ばし、箒を社の隅に立てかける。
「分かったわ、行きましょう。個人的にもそろそろ行きたかったし」
「そうね、仲直りはなるべく早いほうがいいものね」
「うっさい」
お祓い棒を握りしめ、私は空を見上げた。
「行くわよ」
「ええ」
ゆったりと、空へと舞い上がる。
魔法の森へ、幻想郷を脅かす不届き者を成敗するために。……そのついでに、あいつの家に立ち寄るために。
紫のキャラを調べながら書くのが楽しかったです
というか専門用語とか多すぎて設定語りのいい練習になるなこれ……やはり東方……東方は全てを解決する……!