「第一話」ただの厄介事
私が前を見ずに空を飛ぶ時は、決まって嫌なことがあった時だ。魔法の実験がうまくいかなかったり、なんとなく気分が優れない時とか……そういう時に思いっきり風を浴びたくて、私は箒にまたがる。
でも、今回は。
「……くそっ」
腹のあたりに渦巻くモヤモヤが晴れない。それどころか、飛べば飛ぶほど増していく……こんなこと、初めてだった。いくら早く飛んでも、どんなに綺麗な景色を眺めたとしても、ずっとあの言葉が頭の中を巡っている。
『あんたなんかいなくても』
あの言葉の後に、霊夢はなんて言おうとしていたんだろう。
それを考えるだけで、私は頭がおかしくなりそうだった。
「……なんでだよ」
天才であり、守護者であり、この幻想郷においての絶対的存在。
私はそんな彼女が認め、頼り、肩を並べて数々の異変を解決してきた存在だった。今までもずっとそうだったし、これからもずっとそうだと思っていた。──なのに。
『あんたなんかいなくても』
あんな一言で、突き放された。
いともたやすく、何の悪びれもせず言ったんだ……必要ないって、お前なんか要らないって。お前の助けなんかなくても私は強いからって!!!
「……は、はは」
空に誰もいなくてよかった、と。止まらない鼻水を啜りながら思った。
あいつは今まで、どんな気持ちで私と話していたのだろう。どんな事を考えながら、何を思いながら……度々神社にやってくる私を見ていたのだろうか。
「一緒に飯食って、風呂も入って、すぐ近くで寝てたのに」
私のこの気持ちを、少しでも彼女が持っていたら。
そう思い、願い、妄想しながら入り浸っていた私。
「お前、私のことどう思ってたんだよ」
そんなもの、もう分かっている。
彼女にとっての私は、ただの厄介事だ。
「……帰ろう」
くるりと右に回り、私は魔法の森を目指す。
もう、この幻想郷を脅かす異変を……あいつに会いに行くための口実を探す気にもなれなかった。
息抜きにまたもや書きました
原稿を書き上げた時間よりもこのシリーズにレイマリタグをつけるかどうか迷った時間のほうが多いってマジ?(大体「1:10」ぐらいの割合)