93話 混乱の東京
「何が起こっている!?」
東京本部の司令室では情報が錯綜し混乱状態に陥っていた。
要塞内で突如人型の化物が現れ、駐屯部隊が壊滅状態に陥った。
精鋭を誇る東京のドッペルドール部隊に限ってそのような事などあり得ない。
それに、警官隊だっている。
そのような事は万が一にもあり得ない。
しかし、映像に映り込んだ地獄絵図を見て絶句するに至る。
「どうすれというのだ!?」
「触れれば喰われる! 触れてないのに喰われる!」
「チートだ! ズルをしているに違いない!」
「解析を急げ! トリックがあるはずだ!」
禿げ散らかした高官たちは半ば発狂しつつ事態の収拾を試みる。
薄暗い司令室の大型モニターに映るのは珍刀を持ち佇む大男。
「おのれ……あれのDLは差し詰め80越え、といったところか」
「いや、100は超えているであろうよ。間違いようが無く【支配級】だ」
「なっ!? 貴官はあれがアナザーの支配種とでも!?」
「そうでなくては説明しようがあるまい」
脂汗をダラダラと流す肥満の高官。
彼はそれでもモニターから目を逸らさず事態を見守る。
「根本からドッペルドールを見直す時期に来ているのやもしれん」
「馬鹿な。それは、あの狂人を再び招集するということぞ」
「では、他に解決策はあるのかね? あれは我々の手に負えるものではない!」
「左様! 現にDAの何人かも喰われた! 何もさせられないまま、だ!」
高官の一人が言うように現場に数名の東京所属のDAがいた。
彼らは自身の誇りと意地をかけて桃吉郎に挑むも瞬殺。
珍刀の餌となって消えた。
もうどっちが人類側なのか、わっかんねぇな?
「とにかくっ! ドクター・モモを本部に招集する!」
「それは理解したとしてっ! ここは無事なのだろうなっ!?」
「ここは地下50階でシェルター仕様だ! 核爆弾すら防ぎ切る強固さを誇っている!」
「それと同様の要塞の防御壁がスナック感覚で食われておるのだぞっ!?」
「なんだ!? あの蛇はっ! 黒い空間から次々と出て来る!」
「地獄だ! この世が地獄に飲み込まれている!」
収拾などつけれるはずもなく。
この事態は凍矢が目的を果たすか、桃吉郎が東京要塞の全てを喰らい尽くすまで続くだろう。
ストッパー役がいないのだからこうもなろう、というものである。
一方その頃―――――。
「ここが地下東京か。発展しているな」
混乱に乗じて地下東京に入り込んだ凍矢は、その町の賑わいに感心した。
どうやら混乱を避けるため、地上での出来事は隠蔽されているようで、町は日常を保っている様子だ。
「さて、チームオーガの本体を探さないとな」
であるならドッペルビルを探すのが手っ取り早い。
それも本部の。
凍矢はそう当たりを付ける。
この考えに至ったのは、地下東京には複数のドッペルビルが存在しているからだ。
これだけの規模のドッペルドールを抱える都市なのだから、ドッペルビルが一つというのはあり得ない。
「地図を見れば位置はすぐに分かるだろう。問題はどうやってチームオーガの本体を確認するかだが」
尚、ドクター・モモはチームオーガの本体の情報を持っていなかった。
割と適当、それともか【わざと】なのか。
判断に苦しむ凍矢はしかし、気を取り直してドッペルビル東京本部を目指す。
そして、いよいよそこが見えた時、彼女は再び行く手を遮られた。
「か~のじょっ、今一人ぃ?」
「ひょ~っ、すっげぇ美人。堪んねぇ」
「俺たちと、ズッコンバッコンしない? 俺のおっきいよぉ?」
またしても発情期のチンピラに絡まれたのだ。
だが、今の凍矢は一斉の容赦がない。
ぼっ。
「「「ぽぴぃぃぃぃぃぃぃぃっ!?」」」
残像が残るほどの速度でタマタマを蹴り上げられ三人は同時に去勢された。
今は女の子になっちゃってる。
「急がねば」
凍矢は冷静にドッペルビル内へと歩を進めた。
その後ろをこっそりと付いて来る何者かの影。
果たして見張であろうか。
ビル内部では町とは打って変わり騒然としていた。
要塞の支配級を討伐すべくエース級が招集されているのだ。
だが、彼らはDAが成す術もないままに殺されたことを知ると尻込んだ。
それもそうだろう、ドッペルドールは死亡する度に劣化するのだ。
折角、鍛えに鍛えたドッペルドールをみすみす失う行為に誰が参加を希望するのか。
しかし、戦わなくては地下都市に支配級が侵入してくる可能性もある。
では、誰が市民を護るのか。
誰が脅威と戦うのか。
それはパイロットである自分ではないのか。
だが、名誉を失うのが怖い。
恐怖とプライドに責め立てられ彼らはどちらも選択することが出来ない状況に追いやられていたのだ。
「おまえら! なんのためにパイロットになったんだ!? 市民を護るためだろうが!」
「んなことくらい分かってる! 無駄死にが嫌なだけだ!」
「対策はどうなってる!? あんな化け物、対策無しでどうにかならねぇだろ!」
「早く対策しろ! ハゲ!」
「ハゲは関係ないだろっ! ハゲっ!」
ハゲがハゲを罵り合う状況に凍矢は思った。
髭があるからいいじゃないか、と。
違う、そうじゃない。
ツルツルヘッドさんに謝りたまえ。
「(かなり混乱しているようだな……というか、やり過ぎだ桃吉郎)」
モニターに映りこむ悪鬼羅刹なgorillaを見て凍矢は小さな溜息を吐いた。
しかし、注視を完璧に引き受けてくれている今が好機であることは変わらない。
「(この隙に)」
凍矢は混雑しているエレベーターを避け、階段を駆け上がる。
そんな彼女の姿を見たおっぱい大好きパイロット父山・大輔(36)は思わず「うおデッ」と口走ったという。
その後、彼は尻専に鞍替えし苗字を決肉・大輔と改めたとか。
このように躍動する凍矢のケツはヤヴァかった。




