86話 コンバットスーツ
「待たせた」
「やっぱウンコじゃねぇか! ぶっといのを出してたんだろ!」
「出してない!」
と言いかけたところで凍矢は顔を真っ赤にしてそっぽを向いた。
寧ろ、入れられる妄想をしていたのだから、こうもなろう。
桃吉郎のデリカシーの無さに性的興奮が完全に消失したところで、凍矢は現実と直視することに。
ドクター・モモのラボには既にコンバットスーツが用意されており、テーブルに二着並べて置かれていた。
だが、それは服ではなく正方形の板のようなものであった。
「おいおい、遂にボケたのか? 服じゃなくて板だろこれ」
「せっかちじゃのう。それは胸に当ててボタンを押すんじゃ」
「ボタン? この赤い宝石のような突起か?」
「そうじゃ。全裸になってから胸に張りつけて押すんじゃぞ」
「分かった」
そういうと桃吉郎はその場で服を脱ぎ、全裸になってしまったではないか。
「と、桃吉郎っ!? なんでここで脱ぐんだっ!?」
「なんだよ。男しかいないんだからいいだろ」
「少しは常識を覚えろっ!」
こてん、と首を傾げるgorilla。
よく分かっていないようだが、分からなくて当然である。
変わってしまったのは凍矢だけであり、桃吉郎を強く意識しているのも彼女だけなのだ。
「(あれが、桃吉郎の……想像よりもでかくて長いっ!)」
どうやら、gorillaのパオーンを見てしまったもよう。
想像の中のパオーンは大きくし過ぎた、と反省すらしたが、現実はもっと無骨で、雄大で、巨大過ぎた。
「(あんな物が僕の中に入ったら、どうなってしまうんだっ!?)」
凍矢は頬を抑えながら「うおぉぉぉ……」と唸った。
そんなむっつりさんを無視して桃吉郎はコンバットスーツを胸に張り付けボタンを押す。
すると一瞬にして黒い何かが彼の身体を覆い尽くしたではないか。
桃吉郎はぐるりとコンバットスーツを見渡す。
胸の板以外に付属品は無く、動きに干渉する物は無かった。
「ほー? これがコンバットスーツか。ぺらぺらだな」
「薄いが拳銃の弾丸も通さない頑強さも備えておる」
「良いじゃないか」
桃吉郎はコンバットスーツを伸び縮みさせている。
伸縮性も良好であるもよう。
「おい、凍矢。おまえも着替えちゃえよ。結構良いぞ、これ」
「……はっ!? あ、あぁ、分かった」
桃吉郎に妄想の世界から引き戻された凍矢はコンバットスーツを手にして、服のボタンに手をかける。
「(やばっ!?)」
妄想から現実に引き戻される際の僅かなラグが、凍矢に昔の行動を行わせた。
ボタンが外されさらしが露出してしまっている。
なんという迂闊。
凍矢は己の無意識の行動を叱責した。
「飯は何を持って行くかなー?」
「かさ張らない物がええぞ」
がしかし、桃吉郎の関心は既に飯へと移っている。
「(なんだかなぁ。なんだかなぁっ、もう!)」
これはこれで、ちょっぴり悲しい気持ちになる凍矢は既に心までも浸食されている。
彼女はそそくさと物陰に入り込み、素早く全裸に。
そして、コンバットスーツを起動し、全身を黒く染め上げる。
「(これが……ってうぉいっ!?)」
コンバットスーツはボディラインがまる分かりになる仕様である。
つまり、乳房の先端のぽっちや股間のあれやこれもそのまま。
肌の色が黒くなっただけの強化服。
それがドクター・モモのコンバットスーツなのである。
「着替えたか?」
「きゃぁっ!? み、見るなっ!」
どすっ。
「目がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
凍矢はgorillaの眼球を激しく突いた。
gorillaは1のダメージ。
gorillaは盲目になった(有効期限90秒)。
この隙に凍矢は服を身に付けてゆく。
もちろん、さらしも巻きなおした。
「なにすんだっ!? ビックリしただろ!」
「それはこっちのセリフだ」
凍矢は、つーん、と不機嫌な表情を見せる。
それはどう見ても女のそれであるが、やはり桃吉郎はそれに気付かない。
「何やっとんじゃお前ら」
「凍矢が悪いんだい」
「こいつが悪い」
まるで子供の喧嘩である。
「何はともあれ、ちゃんと機能したようじゃの」
「博士、これはどうにかならなかったんですか? その、姿があんまりにも……」
「なんじゃい、自分の身体に自信がないのか?」
ドクター・モモはニヤニヤしながら凍矢の様子を窺う。
「(わ、分かっててやったのか!? このくそ爺っ!)」
凍矢は、「ぐぬぬ」と呻き声を上げた。
「ま、それは凍矢のように着るのが正解じゃな。もちろん、そのままでもいいぞい」
「じゃ、それはこのままで」
これに凍矢は慌てて止めに入った。
「バカやめろっ。おまえの股間がどうなっているのが分からないのか?」
「分かってるよ。ほーら、象さんタイフーン」
ぶおん、ぶおん。
それは激しく回転している。
「やめないかっ」
凍矢はそれを受け止めた。
「あっ」
「―――――――――――っ!」
迂闊。
余りに迂闊。
「(で、でかすぎるっ! そして、柔らかいっ! これはつまりっ)」
更に長く巨大になる。
凍矢は戦慄した。
それが本当であるなら、絶対に全部飲み込めないであろうことが確定している。
「(死ぬっ! 絶対にこんなの入れられたら死ぬっ!)」
「あのー、凍矢さん? そろそろ放してもらえませんかねぇ?」
「(だ、だがっ! 濡れていたらどうだ!?)」
「おーい、凍矢? 息してる?」
「(はっ!? まて! 実際に大きくして確かめてみてはどうだっ!? 確認が取れれば対策はできる!)」
対策が出来るではない。
さっさと現実に戻りたまえ。
「凍矢、戻ってこんかい」
「はうっ」
ドクター・モモは凍矢の巨大な尻を引っ叩き、彼女を正気に戻すことに成功した。
「すまん、錯乱した」
「マジで心臓に悪いから止めろ」
「うむ……」
そっぽを向いた凍矢の頬は桜色。
もう完全に引き返せない場所にまで彼女は来ていた。
「さて、本題に入ろうかの。東京まではどう行くつもりじゃ?」
ドクター・モモは二人が落ち着いたのを見計らい、本題を切り出した。




