82話 旧旭川へ
旧旭川攻略から一週間が過ぎた。
現在、トラクマドウジはそこを要塞化すべく先頭に立って活動中だ。
そんな彼の下に本部からの通達。
それは信じ難い内容だった。
旧旭川からの帰還命令である。
「馬鹿な。今、ここを離れれば取り返されるのは明白だというのに」
彼は本部の意図が分からなかった。
当然ながら、ここまで共に戦ってきた仲間や部下たちからも不満の声が溢れる。
「期限は三日……いったいどういうことだ」
トラクマドウジは直ちに本部に掛け合ってみるも、直ちに帰還せよ、の一点張りで話にならない。
彼は自分の権限を用いて総帥との直接会話を試みる。
トラクマドウジの権限は一介の職員ではどうにもできないほど強いものだが、それをもってしても拒否の意思を告げてきたではないか。
「(本部で何かがあったな……今帰れば、僕らは確実に拘束されるか)」
トラクマドウジは、話にならない、と通話を切ろうとした。
その時の事だ。
「命令に従わなければ後悔することになるぞ。おまえたちの本体はこちらの手の中なのだから」
「……」
そういうことか、とトラクマドウジは通信を切る。
「これは厄介なことになったな」
「どうしたの? トラ」
「ホシクマ、皆を集めてほしい」
その日、トラクマドウジは自分たちの置かれている状況を説明し、後をすすきののパイロットたちに任せて本部へ帰還することを選択した。
もちろん、これにすすきののパイロットたちは難色を示すも、本体を人質に取られてはどうしようもない、ということで渋々、納得を示した。
だが、彼らでは圧倒的に戦力が足りない。
今まではトラクマドウジ率いるチームオーガの力で難敵を撃破してきたのだ。
彼らが抜けてしまえば旧旭川の防衛はままならない。
そこで、彼らはすすきのに援軍を要請した。
野原を駆けるDBC。
向かう先は旧旭川。
それを運転するのは、いつも通りジャックだ。
「ジャックさん、旭川って何があるんだ?」
「たしか、ホルモンの生る樹が発見されたって話だ」
「臭そう」
「俺もそう思う。だが、まったく臭くないらしい」
この樹を発見したのはチームオーガのキンドウジだ。
そのあまりの不気味さに苛立った彼女は、あろうことかその樹の一本をもやしてしまったのである。
だが、その炎に焼かれたホルモンが香ばしい匂いを放ったことで評価は一変。
そして、良い具合に焼けたホルモンを口にして更に評価が上がる。
今となっては、旧旭川を攻略できたのはホルモンの樹があったから、とまで言われていた。
「楽しみな~」
「ふきゅんっ」
今回、トウキたちが援軍に参加したのは報酬が良かったという点もあるが、旭川で珍しい食材が見つかった、という話が持ち上がったからである。
また、チームオーガが緊急帰還したという情報も決め手となった。
「しかし、本部が本体を人質にとるだなんて」
「それよね。怖い話だし、それって規約違反じゃないの?」
「違反です。しかも最上級の。信頼を失うのは確実でしょうね」
本日のトーヤは何故かセーラー服姿だった。
その出で立ちは確実にクラス委員長を想起させるであろう。
そして、トウキもセーラー服である。
こちらは顔の幼さと行動から中学に上がりたてのクソガキ感が半端ではない。
しかし、胸部とケツがそれらを否定。
おまえのような中学生がいるか、と納得を示させる。
デューイはいつも服と装備で安心感があった。
「ところで凍矢君?」
「トーヤです」
「あなた……妙に色っぽくなってない?」
「気のせいです」
デューイはじ~っとトーヤの顔を見詰めてきた。
トーヤは、ふいっ、と視線を逸らす。
桃吉郎と衣笠は気付いていないが、どうやら美保は凍矢の変化に気付きかけているらしく。
「そうかな~? なんだか、完全に男のにおいがしなくなってるのよねぇ?」
「(ぎくっ)」
凍矢は自分の失態に今更気付いた。
彼女は男であった時から香水を付けていた。
だがそれは、極々少量。
香水を付けているかどうか判別できるかどうかというもの。
しかし、今回は違った。
結構、がっつりと香水を付けてしまっていたのだ。
といっても、むせ返るほどのものではない。
しっかりと加減は出来ている。
というかし過ぎた。
彼女が通り過ぎれば、そこは蠱惑的な空間に早変わりする、といった程度である。
思わずその原因たる彼女に振り向く事しかできなくなるであろう。
まぁ、ぶっちゃけた話、やり過ぎ、である。自重しろ。
「もうね、腰の辺りが女、なのよ。あと歩き方。完全に女」
「(ぎくぎくっ)」
トーヤは脂汗をダラダラ流しながら全力でそっぽを向いている。
最早、隠し通すことはできないか。
しかし、自分が女であることを、女になってしまったことをどう打ち明けるか悩んでいたことも事実。
ここはデューイの疑いの目を利用しカミングアウトするべきだろう、そう思った矢先の事。
「あ? 凍矢が女なわけないだろ。ガキの頃、あいつのパオーンを……」
「あるの!?」
「……そういや、見た事ないわ」
「なによそれっ!? 私の期待を返してっ!」
「やだぷーん」
「むかつくっ」
デューイはトウキのほっぺを伸び縮みさせた。
効果は、ばつぎゅんだ!
「……」
トーヤは出掛かった言葉を飲み込み、なんともいえない表情を見せるより他になかったという。
そんなやり取りの後、彼女たちは旧旭川要塞建設地へと到着した。
 




