81話 下着
ドッペルドールパイロットにも休日はある。
先日、病欠した凍矢だが、本日引き続きの休みであった。
なので、今日こそは女性物の下着を買うために町へと繰り出す。
だが、ここで凍矢は選択を迫られる。
一つは、東方・凍矢として出かけるか。
もう一つは、変装して女性に成りすまして出かけるかだ。
前者の場合、女性下着店で物色しているところを知人に見られでもすれば変態扱いは避けられないだろう。
後者の場合はその心配はない。
ただし、高度な変装技術が要求される。
「一択じゃないか。考えるまでもない」
凍矢は後者を選択。
問題は着て行く服だ。
最近まで男であった凍矢は、当然ながら男性物の衣服しか持っていない。
そこから女性らしさを演出しなくてはならないのだ。
加えて髪型も工夫する必要があるだろう。
バッサリ短く切る、という手段もあるが、それだと昨日の女性はやはり凍矢の変装だった、と勘付かれる可能性もある。
「ふむ……どうすべきか」
凍矢は取り敢えず色々と試してみる事にした。
だが、結局はラフな白シャツとジーンズで落ち着く。
「……胸が盛り上がっているな。まさか、昨日一日で成長を?」
凍矢は自分の胸を触って確認する。
やはり、それは大きく成長していた。
男装するなら確実にさらしが必要なくらいには大きくなっている。
「どうするんだよこれ……いや、不幸中の幸いと捉えるべきか」
これなら自分が東方・凍矢と疑われることもあるまい、とポジティブに捉える。
それならば次は髪型だ。
普段はそのまま流しているので中央で分けるか。
「安直だな。直ぐにバレそうだ」
悪くはない。
しかし、目敏い桃吉郎ならば直ぐに気付かれてしまうだろう。
続いて七三分にして髪の先を紐で束ねる。
「うん、だいぶ印象が変わって来たな。もう一押しか」
今の凍矢は、若奥様、といった雰囲気になっていた。
きっと彼女が結婚したならば、この姿となる事であろう。
「ポニーテール……これならいけるか?」
活発さと知的さが合わさり最強に見える。
しかし、凍矢は思い留まった。
「以前、この髪型は桃吉郎に見せている」
そう、長い髪を束ねて桃吉郎と組み手を行ったばかりなのだ。
即バレ待った無しである。
「少々面倒だが……三つ編みならどうだ」
凍矢は器用に髪を編み込んで三つ編みを作り出す。
少女っぽさと大人っぽさが混淆する不思議な雰囲気の女性へと変貌した。
「うん、いいんじゃないか? 現状ではこれが精いっぱいだな」
どうやら、凍矢はこれで決定としたもよう。
確かにぱっと見では東方・凍矢と分かる者はいないであろう。
しかし指摘したい。
ノーブラはいかがなものかと。
ピンクが透けておりますよお嬢さん。
しかし、凍矢はそれに気付かずに出かけてしまいましたとさ。
場所は移り高級ブティック。
その入り口に凍矢の姿があった。
一般的な衣料品店に向かわなかったのは万が一でも知人に遭遇しないためである。
入り口の前に立ち、ゴゴゴゴゴゴゴゴ! と暗黒オーラを放つ不思議美人。
完全に営業妨害である。
「(落ち着け僕。今は完全に女だ。何を臆する必要がある)」
二日前までは男だった彼女は、こういった店に入るには多くの勇気が必要になるだろう。
しかし、こんなところでまごまごなどしては居られない、と自分に発破をかけいざ来店。
「いらっしゃいま―――」
「頼もうっ!」
「ひゃい?」
バーン、と勇ましくラフな姿の超絶美女が来店。
これには歴戦の童顔ショートカット爆乳店員も固まった。
今はタヌキみたいになっている。
「(な、何この超美人。押し倒したい―――じゃなくて!)」
爆乳店員はパッと見はトウキのように見えるが、やはり圧倒的にトウキの方が美少女である。
しかし、女性としては圧倒的にタヌキ店員の方が上だ。
ただし、こいつもこいつで変態である。
「し、下着を所望するっ!」
凍矢は極度の緊張で脳みそパーン状態だ。
「エロい下着で良いですかっ!?」
そしてタヌキも考える事を放棄して本能を爆裂させた。
「なんでもいい!」
「やったぜ!」
もう滅茶苦茶である。
なんで、このタヌキが高級ブティックであるここに就職できたのか謎だ。
しかし、そのセンスだけは本物であるもよう。
試着室に凍矢を連れ込み、あっという間に彼女を一糸まとわぬ姿に。
普通なら犯罪行為であるが、今の凍矢は極限状態なので気付く事もできず。
「綺麗……今直ぐ犯してぇ、じゃなく。じゅる」
タヌキは極めて危険であるが、同時にプロとしてのプライドも高く。
「そうですね、やはり黒。続いて紫も合うかと」
「であれば幾つか見繕ってくれないか?」
「畏まりました。少々お待ちを」
鏡の前に立つ凍矢は腕を抱え凛とした佇まいだ。
無駄なぜい肉は一切無く、女性の美が凝縮されているかのような姿にタヌキは女神を想起する。
「(うほほほほほっ! こりゃあ最上級のお客ですよっ! 腕が鳴るぅ!)」
涎を撒き散らしながら店内の下着を搔き集めるタヌキ。
もちろん、値段など度外視。
とにかく凍矢をエロくするためのアイテムを搔き集めた。
「お待たせいたしました! 不肖、田貫・多濡子! お手伝いさせていただきます!」
「よしなに」
そもそも凍矢は女性用の下着、特にブラジャーなどの知識が乏しい。
ここは店員に丸投げさせるに限るとの考えに至った。
それは間違いではないが、最初の前提で間違いだ。
「(んほぉぉぉぉぉぉぉっ! 小ぶりだけどめっちゃ柔らけぇ! だが、これが正解!)」
同性ということで、遠慮なしに凍矢の乳房を揉みまくる。
もちろん、ブラのカップに乳房を収めるという建前でだ。
「(この極上のデカケツ! やっべぇ! 餅か? 餅なんだな!? 肉が手に吸い付いて放さねぇぞ!)」
もちろん、タヌキは尻肉にも手を伸ばす。
人知を超える柔らかさにイキそうになる変態はしかし、なんとか堪えて仕事を進める。
こうして、黒のどちゃくそエロい下着を身に付けた凍矢が完成した。
「いかがでしょう? お値段相当の良い物かと」
「ふむ……いいな。これを貰おう」
「畏まりました(即決―――!?)」
この下着、実はお高い。
そのお値段6桁。
タヌキはしっかりと値段を提示したのだが、凍矢は購入を即決した。
これには薦めた店員もビックリである。
実はというか凍矢は自分の為に金を使わない。
なので金は溜まる一方であった。
彼女はまだ年若いが既に貯金は1千万に迫る勢いだ。
なので、ここで百万円を消費しようとも構わないという覚悟を持っている。
「な、ならばこちらはっ!? えろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉいっ!」
「あぁ、これもいただこう」
次は白のスケスケランジェリー。
これも清楚系である凍矢にはお似合いだ。
タヌキは調子に乗って次々と試着させてゆく。
その度に脳内スクリーンショットに映像を保存させていった。
「あのぉ……やはりお召し物も下着に合わせるべきではないでしょうか?」
「一理あるな。普段使いできる物を幾つか見繕ってくれ」
「お任せをっ!」
タヌキの暴走は続く。
もうこれでもか、と凍矢は着飾られた。
だが、彼女は文句を言わず、言われるがまま、されるがままだ。
この時、凍矢は自分でない自分を見ているかのような感覚だった。
そう、自分の可能性に酔いしれていたのだ。
それは確か可能性であったし、紛うこと無き美女であった。
「……全部貰おう」
「おっふ、マジっすか?」
「あぁ」
会計、全部合わせて247万円。
「一括で」
「ご、剛毅すぎる」
これにはタヌキの笑顔も引き攣る。
会計をクレジットで済ませた凍矢は、白のエロ下着と清楚な淡い水色のワンピース姿で店を後にした。
どこからどう見ても、上品なお嬢様である。
「(これなら桃吉郎にだってバレやしないだろう)」
凍矢は勝利を確信した。
「おっす、凍矢」
―――がしかし、直後にgorilla来襲っ! 即バレす!
「ひ、人違いではありませんか?」
「何言ってんだ? においが凍矢だろ」
桃吉郎は、においで個体を判別する。
人間のやる事ではない。
やはりgorilla。
「ち、違います」
「何やってんだ、おまえ? 女の恰好をして」
「だから……」
「胸パットも入れて本格的だな」
むにゅっ。
gorillaにデリカシーという文字は無い。
あろうことか凍矢のパイパイをごっつい手で摘まんだではないか。
「およ? 柔らかさがリアル」
「死ね」
バチィィィィィィィィィィィン!
轟音。
普通の人間なら頭部ごと爆ぜるであろう平手打ちが炸裂した。
「少しはデリカシーを覚えろ! 馬鹿ゴリラ!」
肩を怒らせながら立ち去る元男。
ゴリラは建物の壁にめり込みつつ、先ほどの違和感を考えた。
「(柔らかかった。ありゃ作りもんじゃねぇ)」
だが、彼はしょせんgorillaである。
「(よし、謎を解くために今日の昼は餅だ!)」
ボコッ、と当然のように無傷で壁から抜け出す桃吉郎はそのままの足で中央レストランへと向かうのであった。
そして、料理を運んできた輝夜の胸を揉んで、先ほどの凍矢と同様に張り倒された。
でも、謎は解けなかったという。
無論、餅を食べてもだ。




