75話 ちょこっと寄り道
そこに着くとトウキは車の後部可動ユニットから飛び降りる。
そこは一面の花畑。
色とりどりの可憐な花が咲き誇る。
が、よくみるとそれらは硬そうだった。
「やっぱりそうだっ!【チョコットフラワー】の群生地だっ!」
トウキは迷うことなく一輪の花を手折る。
すると、ポキッ、という音がして茎が折れた。
「いただきますっ!」
はぁむ、と大きな口を開けて花を食べる。
色は桃色。
「あまぁぁぁぁぁぁぁぁいっ」
味はイチゴ味。
それは、チョコレートの花だ。
茎は緑色。
この部分は抹茶チョコレートとなっている。
「これだけの規模のチョコットフラワーは中々お目に掛れないな」
ジャックもDBCから降りて青い花を口に運ぶ。
あま~いチョコレートの味。
その後から爽やかな風が口内を駆け巡り鼻腔から抜けてゆく。
「爽やかな風味。ミントだな、こりゃ」
ジャックの食べたチョコットフラワーはチョコミント味だった。
「それじゃあ、この黄色い花は……あはっ、ちょこばなな~」
デューイの手折った花は正しくチョコバナナ味だった。
「この紫色はなんだ? ん? んん? 強めの爽やかな酸味……」
トーヤは紫色のチョコットフラワーを食べた。
チョコレートの甘さと、強い酸味が意外と癖になる味だが、酸味のそれが何なのかが分からない。
「れろれろれろれろれろ……ハスカップじゃね?」
「あぁ、それだ。というか、その食べ方はやめろ」
トウキのはしたない食べ方に苦言を呈する眼鏡美人。
本日の彼女は体のラインが浮き彫りになる黒のボディスーツだ。
こうしてみると、しっかりと乳房が存在している事が分かる。
尚、トウキは何故かスクール水着だ。
もう色々とむっちりしているため、見ようによってはボンレスハム状態。
無理をしたらスクール水着が爆ぜてしまうそうなくらいに肉が詰まっている。
まぁ、こいつの場合、全裸になっても戦うだろうが。
寧ろ、野生が解放されてとんでもないことに。
「ふきゅん」
そして、珍獣は黄金に輝くチョコットフラワーを齧っていた。
大抵の獣はチョコレートは劇物になる。
それを理解して進化したのがチョコットフラワーなのだ。
しかし、この黄金の獣には常識が通用しないようで、チョコレートだろうが毒だろうが、口に入れば何でもいいもよう。
「あっ、超レアチョコットフラワーじゃねぇかっ! 少し食わせろっ!」
「ふきゅきゅーんっ!」
ここに弱肉強食の戦いが始まった。
トウキ〇 VS 珍獣● 試合時間2秒【腹だし恥辱固め】
「うまっ、うまっ、ミックスジュース味っ!」
「ふきゅーんっ! ふきゅーんっ!」
なんという食い意地であろうか。
というか戦いにすらなっていなかった。
「ちょっと、先生が可哀想でしょ」
「戦いに情けは不要らっ!」
「まったく……ほら、もう一本あったわよ」
「ふきゅーん♡」
基本的にデューイは小動物が大好きなので珍獣の味方である。
黄金に輝くチョコットフラワーを与えられた珍獣は、その時だけデューイに忠誠を誓う。
しかし、食事が終わればその関係は解消されるだろう。
しょせんは獣なのだ。
実に質が悪い。
しかも、こいつは三歩ほど歩いたら都合の悪い事だけを忘れる。
まさに邪悪。
「茶色の花はビターチョコか。僕はこれが一番好みかな」
「折角のチョコなのに苦いのが好きなのか」
「甘いのばかりだとバランスが悪いだろ」
「ふ~ん」
トーヤはそう言うが、実は体面を取り繕っているだけである。
本当は舌が蕩けるくらいの甘いお菓子が食べたい系インテリ女子であり、人目が無ければもりもりとチョコットフラワーを口に運んでいた事であろう。
「(今度、独りでここまで来ようか)」
なんてことを妄想するくらいにはチョコットフラワーの虜になっていたトーヤであった。
暫しの休憩を挟んだトウキ一行は予定通り幸運山の麓に到着。
ここからは徒歩にてハンバーガーの湧き出る場所に向かう事になる。
既に山からはハンバーガーの芳ばしい匂いが流れ込み、否応なしに胃袋を刺激するだろう。
「美味そうな匂いが麓まで流れて来てやがる」
「そうだな……だが、早速のお出迎えだぜ」
茂みから、ぬらり、と姿を現したのは件の獣たちだった。




