73話 それは変態だ
チームオーガが旭川攻略に向かって一週間程。
すすきのドッペルビルに朗報がもたらされた。
「おい、聞いたか?」
「あぁ、聞いた聞いた。あの坊やが旭川を落としたんだってな」
現在、ドッペルドールパイロットたちの話はこれでもちきりだ。
攻略不可能とまで言われた旭川を僅か一週間で攻略した手腕と戦闘能力は本物。
それを疑う者は最早ここにはいないだろう。
ただし、極一部は関心が無いようで。
「なぁ、凍矢」
「なんだ、桃吉郎」
「美味い【ハンバーガー】、食いたくね?」
「急になんだ」
木花・桃吉郎はどうやらハンバーガーを食べたいらしい。
それも生身でだ。
しかし、彼は肉巨人襲撃の際に暴れ過ぎた。
現在、桃吉郎は監視が厳しくなっており、常に何者かに見張られている状態だった。
「じ~」
「ふきゅん」
その何者かが桃吉郎のすぐ後ろで見張っている。
黒髪ベリーショートカットの女性だ。
紺色のスーツに金縁の眼鏡。
起伏が少ない典型的な日本人女性。
彼女の名は【見張・益代】という。
監視に命を懸ける変態だ。
そして、そんな彼女を監視する黄金の毛玉。
その行動に意味を求めてはいけない。
「なんだよ。別に変な事はしないぞ」
「それを見張っているのです」
「あんまり傍でウロチョロしたら怪我するぞ」
「わ、私をどうするというのですかっ!? はっ! まさか……あんなことや、こんな事をっ!? いいですともっ! 覚悟はできております! 凌辱妊娠出産だってこなして見せますとも! 子供は何人が良いですか!? 豚のように産んでみやりますとも!」
見張は紛うこと無き変態であった。
桃吉郎のようなムキムキマッチョマンの変態に滅茶苦茶にされる未来を常に妄想している。
何故、そんな奴を監視に回したのか。
これが分からない。
「おまえ、少し冷静になれ」
「私は冷静ですとも! 公開凌辱ですかっ!? 全裸でわんこのようにお散歩ですかっ!?」
「凍矢、それでこいつを撃て」
「いやだ。銃が穢れる」
流石の桃吉郎も己の貞操の危機を覚えたという。
恐らく協会の上層部は、変態には変態をぶつける、という方針を取ったのだろう。
しかし、見張は戦闘能力は皆無であるが、変態度は桃吉郎を遥かに上回っていた。
仮に見張がムチムチボインであれば桃吉郎も理性を保つことが難しかっただろう。
だが、悲しいかな。
見張は、ぺたーん、だった。
そしておチビだったため、子供が背伸びをしてスーツを着ているようにしか見えないのだ。
加えて、その髪型。
ベリーショートであるため、下手をすると中学生の男の子に見えてしまう。
しかも入学したてのだ。
そんな娘が性欲全開なのだから困惑しか発生しない。
「あーもう。無視だ無視」
「ほ、放置プレイっすね! んふぅ! いぐっ!」
「……」
マジでぶん殴ってやろうか、と思う桃吉郎であった。
ドクター・モモのラボ。
ド変態の見張も、ここには入ってこなかった。
しかし、ドアの前にぴったりと張り付いている。
「じじい、あれ、なんとかならね?」
「ならんのう」
「使えねぇなっ」
「野郎じゃないのだから可愛いもんじゃろうがい」
「可愛くねぇから困ってんだよ」
「かっかっかっ、これも修行だと思え」
現在、ここには桃吉郎、凍矢、衣笠、美保が集っていた。
桃吉郎を除く全員がニヤニヤとほくそ笑んでいる。
「可愛いじゃない。本人もああ言っているんだから一回、滅茶苦茶にしてあげれば?」
「他人事だと思って……それなら美保さんをやっちゃうぞ」
「私は遠慮しとくわ」
つーん、ときっぱり断る美保は、悟られぬよう、ちらり、と衣笠を流し見る。
頬と耳の温度が上昇したのはそういった妄想をしたからだろう。
美保は高確率でむっつりスケベだ。
「そんな事よりもハンバーガーだっ!」
「やはり性欲よりも食欲か」
「当然だっ!」
そんな桃吉郎の様子に呆れるとともに安堵する凍矢。
常に共にいる桃吉郎たちは気付いていないが、凍矢の女体化はかなりの速度で進行中だ。
外見は元々女性寄りだったので気にならないだろうし気付きもしないだろう。
しかし、その内面側は看過できないほどに悪化の一途を辿っている。
もちろん、この症状はドクター・モモに相談しているが、調査中、の一言で片づけられるのが通例となってしまっていた。
特に深刻なのが男性器の縮小である。
かつての凍矢は、みために反してパオーン様が大きい。
まさに美丈夫といえる男だった。
しかし今では股間部にテープでも貼っておけば女性と言われても分からない。
それほどまでの変化が起こっていたのである。
もちろんこんな事は桃吉郎たちに話すことはできない。
もしかしたら、本当に男性器が消失してしまうのではないか、と戦々恐々の日々を過ごしている。
―――が、それならいっそ、という心があるのも事実。
女性の日常はトーヤの肉体である程度理解しているし、ある日突然、完全に女体になったとしても問題無く過ごせる、という自信もあった。
しかし、凍矢は男でありたいという希望の方が六割ほど占めており、女体化は勘弁願いたい方針である。
「(僕の身体はどうなってしまうのだろうか)」
ハンバーガー、ハンバーガー、と喧しい桃吉郎の横顔を眺めながら、ぼんやりとそのような事を考える。
その横顔はまるで恋する乙女のようだ。
「凍矢君……もしかして同性愛者?」
「何故、そのような結論に?」
「いや、桃吉郎君を見る目が完全に女のそれだったから」
「違います」
凍矢は一瞬、心臓が跳ね上がたが、そこは鉄仮面のごとき無表情で誤魔化した。
本当に、ぼ~、っとしていただけで、桃吉郎の事は考えていなかった。
しかし、桃吉郎の名が出て来ると急に体が熱くなることを認識する。
「――――っ!?」
「ん? どうした、凍矢」
「な、なんでもない。少し席を外す」
「ンコか?」
「うるさいっ!」
この時、凍矢は少し油断した。
声を上がげた際に声のトーンが高くなってしまったのだ。
それはトーヤの声とまったく同じ物で。
それに気付いた凍矢は少し慌てた感じでラボを後にする。
「変なやつ」
「おまえはデリカシーが無さ過ぎだがな」
首を傾げる桃吉郎にジャックが常識的な指摘を行った。
ドアの向こうでは見張の悲鳴。
どうやらドアに張り付いていたせいで凍矢がドアを開けた際に吹っ飛んだらしい。
その悲鳴は満場一致で無かったことにされた。




