7話 デューイ
「まぁいいわ。あなたたち新人ね? 私は【デューイ】、10期パイロットよ」
赤髪ツインテールのドッペルドールは、自分をそのように紹介した。
装備はコンバットスーツとマシンガン、片手斧を二丁、腰にぶら下げている。
パイロットは今現在、12世代まで活躍中だ。
桃吉郎たちは13期パイロットとなる。
「桃吉郎だ。13期。よろしく」
「凍矢です。同じく13期。よろしく」
「ちょい待ち。もしかしなくても……それ本名?」
デューイは頭を抱えた。
通常、ドッペルドールは混乱を避けるために別名を与えるのが通例である。
本名をドッペルドールに授ける者は皆無といっていい。
「そうだが?」
「あのね、ドッペルドールにはドッペルドールの名前をあげるの。講習で習わなかった?」
「寝てた」
「僕は聞いてましたが、考えるのが億劫なので。それに、こいつとしかコンビは組まないので」
凍矢のスペックを活かす、となれば桃吉郎が最適解である。
それを本人はよく理解していた。
「そっちの美人ちゃんは良いとして、あなたはよく試験に合格できたわね」
「試験? そんなのあったか?」
「いや、受けた覚えがないな」
「え? まさか、特別枠? いやいやでも……」
そんな子が肉盾無しに地上に出て来るのか、とデューイは困惑する。
ドッペルドールとパイロットには時折、特殊個体が発生する。
それはプロジェクト・ドッペルゲンガーにとって貴重且つ有用な存在だ。
彼らは基本的にデータ収集のための活動がメインとなり、それを失わないために肉盾と呼ばれる護衛が付けられる。
なので前線に出るなどもっての外なのだ。
「まぁ、担当がクソ爺だし、それが原因じゃね?」
「クソ爺って?」
「ドクター・モモですよ」
デューイは凍矢の返答に合点がいったもようで、ぽむっ、と手を合わせた。
「あぁ、あの人なら、やりかねないわね」
ドクター・モモはドッペルドールの開発者として優秀であるが、同時に狂人であった。
数々の問題を起こしてるが、それらは全てドッペルドールの発展に繋がっている。
したがって、上層部も彼を無碍に扱うことが出来ないでいるのだ。
「それでも、ドッペルドールにちゃんと名前をあげないと」
「えー」
「面倒臭い」
「その子たちには、あなた方しかいないのよ。意思の無い人形だとしても、最低限の事はしてあげなさいな」
「「むむむ」」
桃吉郎たちは渋々、自分のドッペルドールの名前を考える。
「じゃあ【トウキ】で」
「自分の名前を縮めただけじゃないの」
桃吉郎に名付けのセンスはない。
これでもマシな方である。
「では僕は【トーヤ】で」
「伸ばしただけじゃないのっ!」
凍矢も考える気ゼロであった。
だが、なんにせよドッペルドールに名が与えられたのは確かなことだ。
これにより、魂の繋がりはより強固なことになった。
もっとも、彼らはそれを知る余地もないのだが。
「まったく……それで、今日はどこで活動するのかしら?」
「海まで行く」
「海……ということは石狩海岸かしら?」
デューイは右人差し指の第二間接を下唇に押し当てて考えた。
「(新人が目指すには早過ぎるんじゃないかしら? いくらルートが構築されているとはいえ、DLが二桁越えがうじゃうじゃいるわ)」
「僕らのドッペルドールの性能を確認する兼ね合いで目指すだけで、到達が目的ではありません」
「あら、そうなの?」
「えぇ、無理はしませんよ。僕は」
冷静沈着なトーヤは安心できるとして、デューイはトウキを見た。
彼女は大きな尻をフリフリさせながら武器の展示品を見学している。
「あの子は絶対無理をするタイプね」
「分かりますか? 馬鹿が服を着て特攻する感じだと思ってください」
「最悪じゃない」
デューイは、関わってはいけない連中だ、とようやく理解した。
判断が遅い。
「なんにせよ、先輩が後輩をほったらかしは拙いわね。いいわ、暫く面倒を見てあげる」
「いいのですか? 苦労しますよ?」
「うっ……それでも面子というものがあるのよ」
デューイはまるで死刑宣告されたかのような錯覚に陥ったという。




