68話 バターバッタ
薄暗い洞窟を懐中電灯の明かりを頼りに進む。
ポイント・マンはいつものようにトウキ。
バックアップ・マンにデューイといった形だ。
今回はゲストのドクター・モモがいるため彼を中心に据え円陣を展開している。
最後尾は近接、遠距離もこなせるトーヤだ。
「ほれ、【バターバッタ】が来るぞい」
「あ?……うおっ!?」
暗闇から何かが飛び掛かって来た。
それは中型犬ほどのサイズもあるバッタだ。
黄緑色の外骨格と姿は正しくバッタではあるが、そのサイズは規格外。
そして、肉食であるのも変わらない。
それが大量に暗闇から飛び出てくるのだ。
通常のバッタとの大きな違いは翅がバターで出来ているという事。
熱にこそ弱いが、その翅は鋼鉄並みの強度を誇る。
この翅は一度、60℃ほどで湯煎し、再度冷やすと極上のバターに変化する。
通常のバターと違う点は酸化速度が極めて緩やかな点だ。
乳製品であるバターは作った時点で劣化が始まるが、バターバッタのバターは生産から三ヶ月経っても鮮度は保たれたままなのである。
ただし、これを入手するにはDL8のバターバッタを難なく倒せる実力が欲しい。
何故なら――――。
「うおぉぉぉぉぉっ!? 多過ぎるだろっ!?」
ジャックがハンドガンを連発しながら悲鳴を上げた。
「そりゃあ、そうじゃろ。こやつらは群れるからの」
そう、ドクター・モモが言う通り、バターバッタは群れを作るのだ。
個々の戦闘能力は低くとも物量で押し切れば狩りになることを彼らは知っていた。
一つの群れはおよそ20~30匹程度。
そのため、バターバッタの群れの危険度は30~50にも及ぶ。
遭遇した場合は速やかに撤退が推奨される猛獣だ。
「確か翅がバターなんだっけ?」
「そうじゃよ。ラーメンに入れるとコクが出て最高なんじゃ」
「よっしゃ、全部狩るぞ」
だが、食いしん坊たちにDLなど目安にもなりはしない。
彼らにとって重要なのは美味いか不味いか、ただそれのみである。
「ふきゅんっ!」
「おう、先生も食べたいかそうか」
よくよくみると珍獣には短い尻尾もあるもよう。
尻が小刻みに揺れているのは尻尾を振っているからだろう。
「唸れよ、オーラウィップ!」
ヴンッ、と黄金に輝く鞭を振るう。
トウキの姿と相まって如何わしい女王様のようだ。
これでロングヘアーで表情が厳しければ様になっているであろう。
だが、こいつは既にラーメンの事しか頭にないようで、その表情は極めてだらしない。
涎もダバダバ流し放題だ。
バチン、バチンと叩き落とされるバターバッタ。
叩き落とされたバターバッタの頭部はデューイの片手斧で叩き割る。
「ジャック、わしが作った【ヒートナイフ】じゃ」
「おう、気が利くじゃねぇか、爺さん」
ライターでナイフを炙っていたジャックは、ドクター・モモから黄色の刃を受け取った。
それはボタンを押すと刀身が発熱し真っ赤になる、というナイフだ。
鋭い刃で切り裂く、というよりかは焼き切る目的の武器である。
ただし今回はバターバッタの翅を焼き切るのが目的であるので調理道具として扱われるだろう。
ジャックは早速、ヒートナイフを使ってデューイが仕留めたバターバッタの翅を溶断していった。
「おぉ、サクサク切れるな」
「連続使用するんじゃないぞい。熱で手が焦げるからの」
「うわっちっちっ!? そういうのは先に言えっ!」
ジャックは慌ててヒートナイフを手放した。
どうやら冷却機能に問題が残っているらしく、一度に使用できる時間は3分が限界のもよう。
尚、エネルギーはドッペルドールからの供給になっているので、使用し過ぎると腹が減る。
それでも、鉄並みに硬いバターバッタの翅を切断するにはヒートナイフ一択である。
ジャックは熱に気を付けながらバターバッタの翅を回収していった。
「バッタはあまり好きではないな」
一方のトーヤは渋い顔をしながら淡々とバターバッタの眉間を狙撃銃で撃ち抜いている。
ビームライフルでは翅も溶かしかねないので、最初期からの相棒【すずめ・改】を使用していた。
ドクター・モモからの改修を受けたそれは、腹立たしいほどに手に馴染む。
「(こいつを手にすると安心するな)」
心乱れた時はこいつを手にしていよう、そう思うミニスカポリスであった。
やがて、バターバッタの群れは壊滅し、不利を悟ったバッタたちは散り散りに逃走していった。
「そういえば、翅以外は食えないのか?」
「いや食えるぞい。佃煮にすればのう」
「お? お米シャワーの白米が進むな」
ドクター・モモから有益な情報を得たトウキはデューイに転送を依頼した。
きっと現場で受け取った職員はギョッとするであろうことが予測できる。
「オッケー」
しかし、デューイはニッコリしながら転送を開始。
この娘、案外いたずらっ子である。
 




