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67話 極上のラーメンを求めて

すすきの襲撃の傷跡癒えぬ状況。


そうであっても人々の腹は空く。


よって、ドッペルドールたちは食材を求めて危険な地上へと赴いて行くのだ。


その中にトウキたちの姿があった。


あれほどの戦闘能力、そして実績を見せつけておきながら、しかし、桃吉郎は地上への出撃を許可されない。


すすきの襲撃の怪物、その撃破は直ちに東京本部へと伝えられた。


その功労者が桃吉郎であることも伝えた。


しかし、帰ってきた言葉は【木花・桃吉郎の封印】であったのだ。


あくまで戦うのはドッペルドールでなくてはならない、が本部の意向。


末端である札幌支部は本部の意向には逆らえず。


「またトウキちゃんかよ~」


そのような文句を言うむっちむちのバインバイン美少女は本日、何故か危ない黒のボンデージ姿であった。


これは獲物に鞭が加わったので、それならば、とドクター・モモが悪乗りして用意したのだ。


そして、ゴリラは適当なので文句を言わずにそれを着た。


トウキの可愛らしいみためと相まって、極めて背徳的な存在へと進化している。


「もう慣れたものだろ」

「生身で野原を駆け回りたいんだい」

「まったく……」


トウキの中のゴリラはどうやら野生化したいもよう。


そのような文句に呆れるトーヤは、ビームライフルの手入れをしながら溜息を吐く。


本日の彼女は何故か【ミニスカポリス】である。


トーヤのお堅い性格と容姿も相まって非常に相性が良いコスチュームと言えよう。


地味に防御性能も高いのがポイントだ。


彼女は最近は益々、色気が強くなっていた。


それはドッペルドール、そして本体にも精神的な影響が色濃く出ているからだろう。


凍矢の精神汚染は深刻だ。


しかし、それに気付いている者は少ない。


本人ですら、ようやく気付きかけている程度。


「かっかっかっ、ジャックよ、もっとと飛ばせい」

「俺は安全運転派なんだよ」


今回の冒険には例の狂科学者が同行している。


ドクター・モモ、その人だ。


だが、彼はドッペルドールに搭乗していない、という規則違反を犯していた。


彼曰く、ラーメンは生身で食べないとラーメンに失礼、とのこと。


その言葉は、あろうことか外に出てからのものだ。


そうでなければ桃吉郎は「おっそうだな!」とドクター・モモに便乗しただろう。


助手席で焼きそばパンを喰らいつつヤジを飛ばす老科学者は、かなりのスピードジャンキーであるもよう。


いい歳して落ち着け、と言いたいが、それで大人しくなるならドクター・モモではないのだ。


落ち着かないからこその狂科学者であり、ドクター・モモなのである。


「あー! 一人だけ焼きそばパン、狡いぞー! 先生に言いつけてやる!」

「どこに先生がいるのよ」


トウキは目敏く焼きそばパンを発見し騒ぎ始めた。


その様子にデューイが呆れる。


「先生っ! お願いします!」

「ふきゅん」

「なにこれ?」


その生物はトウキの胸の谷間から、にゅるん、と出てきた。


それは野球のボール程度の大きさだ。


黄金の毛並みに、つぶらな青い瞳。


ピンクの鼻。


そして大きなタレ耳。


手足は異常に短く、パッと見は球状の何かとしか言いようのない奇妙な動物。


そして鳴き声が「ふきゅん」というのだから対応に困る。


「なんか、朝起きたらこいつがいた」

「ふっきゅ~ん」


この珍獣は桃吉郎の所持する刀から、どりゅりゅっ、と飛び出てきた。


人間モドキの巨人を切り裂いた翌日の話だ。


恐らくは栄養を溜めた刀が分身を生み出した、というのがドクター・モモの見解である。


ドクター・モモ曰く、刀の食欲が具現化した物、であるらしい。


どんだけ食い意地張ってんだよ、である。


「変な子ね……うっわ、ふかふか、もこもこ、もっちもち」


デューイは珍獣を持ち上げる。


するとこの世の物とは思えない触り心地に驚愕した。


そして、ほんのり温かい事からロボットではない事が理解できる。


珍獣をひっくり返すと恐ろしく短いあんよが確認できた。


ジタバタと動く四肢が愛らしい。


ひっくり返されるのは好ましくないもようで「ふきゅん、ふきゅん」と苦情を訴えている。


「うん、どう見ても非捕食者ね」

「これをどう見たら捕食者に見えるんだ」


トウキは珍獣をデューイの手から奪い返す、とそれを頭の上に乗せた。


珍獣はまるで彼女の頭に吸い付いているかのような安定感を見せる。


そのほっこりとした表情はちょっぴり腹立たしいだろう。


「……」

「ふきゅん!?」


そんな生物を無言で鷲掴んで観察するのはトーヤである。


「なんだこれは?」

「先生」

「そうじゃなくて」


トウキからまともな答えが返って来ることは期待していない。


トーヤは黄金の獣のピンク色の鼻を指で、ふにふに、と弄繰り回す。


先生と呼ばれた珍獣はトーヤの強者の圧に屈して「ゆるしちくりー」と彼女の手をペロペロ舐めた。


「結論から言えば、知らん、となる」

「おまえに聞いた僕が馬鹿だった」

「ばーか、ばーか」


ずびびゃ~っ!


「ノーモーションでビーム撃ってんじゃねぇっ!」

「ふきゅ~んっ!」

「あ~もう、前髪がチリチリになっちゃったじゃんか」


哀れ、トウキの前髪の一部がチリチリになってしまいましたとさ。


「下の毛の方が良かったんじゃない?」


デューイは下ネタを炸裂させた。


「生えてないもん!」


トウキはツルツルだった。


「マジ?」

「マジ!」


「止めなさい」


「「あっはい」」


そう窘めたトーヤも実は生えていない。


「おまえらなぁ……一応、俺は男なんだが?」

「ジャックは良いの」

「ったく……爺さんが煩いから飛ばすぞ」


デューイはすすきの襲撃の一件から明らかにジャックへの対応に変化があった。


それは恋する乙女のもの。


衣笠に命を救われたことで、それまで抑えていた本心に歯止めが利かなくなってきているのだ。


衣笠もそれを理解しているが、今はまだその時ではないと自重している。


「かっかっかっ、青春じゃのう」

「もうそんな歳じゃねぇよ」

「青春に歳なんぞ関係ないわい」

「うっせぇ……っと、難所が見えて来たぞ」


極上のラーメンが流れるという滝は、かつて【天塩】と呼ばれた土地に突如として生え出てきた。


そこはシジミが有名なくらいで何の特徴もない場所。


そこに突然、地面が隆起して巨大な山が生まれ出たのである。


ラーメンの滝があるのは、その山の中だ。


山の中は巨大な迷宮となっており、そこには凶悪な猛獣たちが住み着いている。


そこを突破しないとラーメンの滝には辿り着くことが出来ないだろう。


ここを突破できたのは僅か一人。


それも運のみで突破した変態。


「ここが天塩山か……既にラーメンの良い匂いがしてんな」

「塩ラーメンの匂いじゃな……懐かしいのう」


トウキは美味そうな匂いに、だらしない顔を晒す。


頭の上の獣もトウキにリンクしているかのように、だなしない顔を見せた。


「昔はどこででも美味しいラーメンが食べられたもんじゃ」

「マジかよ」

「本当だとも。いつか、おまえたちも、そのように食べれるようになればいいんじゃがの」


ここからは車から降りて徒歩での目的地到達を目指す。


ドクターモモは見た目に反して堅牢な足腰をしていた。


寧ろ下手をすると、デューイよりも運動神経が良いのでは、というレベルだ。


「では、極上のラーメンを目指すとしようかの」


ぽっかりと開いた洞窟の入り口。


その周囲には既に人骨が散乱している。


それは、一切の希望を捨てよ、と暗示しているかのようだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] ピンク、まるい、もちもち…カー〇ィだな!ヨシッ!
[一言] なんか・・・ 性別がぶっ壊れてきているような・・・
[一言] 珍獣具現化 トウキ「朝に良い匂いしたから 捕まえて喰ったらソイツだった」 珍獣「ファイヤーボール(✕50)」 トウキ「舌が火傷した」 トーヤ「よくそれで済んだな…」
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