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61話 一線を越え始めた者たち

桃吉郎が肉巨人へと吶喊する。


戦い方が特段変化したわけではない。


考え無しの肉弾戦だ。


しかし、その内容は違った。


先ほどまでの桃吉郎はいわゆる【雑】さが目立つ戦い方だった。


しかし、今は違う。


「エルティナっ!」

「ふきゅんっ」


桃吉郎が妖刀を振るう。


しかし、それは先ほどまでの【やんちゃ】さは鳴りを潜めていた。


桃色の輝きを携えて、それは鋭い一振りとなる。


先ほどまでのギザギザの刃とは打って変わり、それは研ぎ澄まされた刃へと変化していたのだ。


これは桃吉郎の心情に変化が生じているため。


護るべき存在が身近にいる事により、野獣もまた人間へと回帰するのである。


サンッ。


その斬撃は目的物のみを斬った。


肉巨人の肉のみを喰らったのだ。


付近の建物、道路にも剣圧は届いている。


しかし、それらは微塵も損壊していない。


「ぎぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!?」


おぞましき巨人が尋常ならざる悲鳴を上げた。


痛いのだ。


先ほどとは比較にならぬほどの苦痛。


自分の大切な部分を食われた、という確信。


それを証明するかのように、ぼろぼろと肉が崩れてゆく。


「おっ? 効いてる、効いてるっ!」

「ふきゅん」


ゴリラは喜び、妖刀はドヤ顔を晒した。


そんな油断しまくりのゴリラに、人間モドキが殺到した。


「やっべっ!?」


流石の桃吉郎も咄嗟に捌けない量だ。


迎撃よりも防御か。


「油断しないのっ! Extraスキル【ハイウォール】!」


だが、ここでデューイのスキルが活きる。


Extraスキル【ハイウォール】は無色透明の壁を生成するスキル。


それは巡航ミサイルの直撃をもってしても砕けないほどの耐久力を誇った。


それで桃吉郎を覆い込んだのだ。


宙に浮かんだかのような人間モドキ。


「くたばれっ!」


それにジャックが桃色のハンドガンを打ち込む。


決して派手さは無い。


しかし、その弾丸は確実に異形に滅びを与えた。


「(……この銃、俺の何かを食っているのか?)」


ジャックはハンドガンを打ち込む度に、自分の中の何かが減っている事に気付いた。


それは何か分からない。


しかし、減少したそれは、すぐさま補填されている事も理解した。


「(なんだっていい。仲間を護れる力だというのならっ!)」


ジャックはハンドガンのカートリッジを素早く交換した。


そこに自分のありったけの気迫を籠める。


撃ち出すのは己の勇気。


そう信じて引き金を引く。






「桃吉郎……そうか。そうなんだな?」


チームとは離れていても心は繋がっているのだろう。


凍矢は確かな繋がりを感じ取っていた。


それは桃吉郎の動きの変化に現れており、それを目の当たりにした凍矢は自分の成すべきことを真に理解した。


「僕の意味……桃吉郎の意味。そして、仲間たちが未来を変える」


再び百式火縄銃を構える。


「ドクター・モモ! あなたの思惑に乗ってやる!」


あれほどの苦痛に苛まれるというのに、凍矢は再び引き金を引いた。


しかし、先ほどとは覚悟の量が違う。


決意の濃さが違う。


そして何よりも、彼は熱く燃え上がっていた。


百式火縄銃ヒノカグツチがそれに呼応した。


資格無き者を拒絶するそれが、今の凍矢を認めたのだ。


ズボウッ!


か細い光線は鳴りを潜め、最初から全力。


業火の龍が銃口より飛び出し肉巨人を捕食せんとす。


その代償は凍矢の炎上。


しかし――――――。


「……」


凍矢は炎に包まれながらも平静でいた。


だが、その体はまるで氷に覆い尽くされているかのようだ。


果たして、身体の熱を全て喰われたのか。


そう、彼は食われたのだ。


だが、動く。


喰われたのは体の熱だけ。


心の熱は微塵も食われていない。


百式火縄銃ヒノカグツチ、もう一発だ」


再び照準を肉巨人に定める。


百式火縄銃ヒノカグツチが喜びの声を上げた。


己の運命の人に出会えた、という喜びの声を。


何度目になるであろう、再会を喜んだ。






「凍矢の野郎、派手にやりやがって! 俺たちも負けてらんねぇ!」

「ふきゅん」

「応! エルティナ! 俺たちもド派手に決めるぜ!」

「ふっきゅ~ん」


「だから! 刀と会話すなっ!」


デューイのツッコミが冴える。


「いいから、こっちを手伝ってくれ」

「ああん! ジャックっ! この異常事態をボイコットしないで!」

「もう諦めろ。桃吉郎だから仕方がない、ってな」


ジャックは桃吉郎に群がる人間モドキを勇気の弾丸で駆逐していた。


それらは一撃で仕留められるが、数が尋常ではない。


彼がもってきたカートリッジも、そろそろ尽きてしまいそうだった。


この人間モドキ、単なるハンドガンや武器で簡単に仕留められる存在ではなく、多くのドッペルドールたちが返り討ちに遭っている。


加えて尋常ではない再生能力も有していた。


決して侮ってはならない存在なのだ。


「もうっ! 私がこんなにもモヤモヤするのは全部あんたたちのせいよっ!」


デューイが慢心の怒りを込めて片手斧を投擲する。


「Extraスキル【ハイチャージ】……ブーメランっ!」


それは緑色の輝きを纏ってデューイの手から離れた。


斧は高速回転しながら人間モドキたちを切り裂いて行く。


その後はExtraスキル【バキューム】で投げた斧を回収する。


そのはずだった。


「あの……私の斧さんがおかしなことになってるんですが?」

「あぁ、ずっと飛び回りながら怪物どもを切り裂いているな」


デューイの斧はまるで意思を持っているかのように縦横無尽に飛び続け、人間モドキたちを切り裂き続ける。


もう物理法則を無視したかのような軌道は笑うしかないだろう。


「なんか、私、越えちゃあいけない一線を越えた気がするわ」

「おめでとう」

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


頭を抱えるデューイ。

淡々と人間モドキたちを処理するジャック。

何故かドラミングをする桃吉郎。


戦場は確実におかしなことになっていた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 無限トマホークブーメラン! 相手は死ぬ。
[一言] 全員一線を超えた デューイ「まだマトモまだマトモ…」(呆然) 凍矢「もう熱いのか寒いのか分からん!!」(混乱) 桃吉郎「ウッホウッホ!!」(通常) 珍獣「ふっきゅーん!!(もっと喰わせろ)」…
[一言] ガチのゴリラがいる!
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