6話 大き過ぎる、修正が必要だ
すすきのレストラン。
札幌市全1500名を余裕で収納できる巨大レストランだ。
最大集客数はその倍となる3000名。
これは、かつての名残。
十年もの間に札幌市の人口は半分にまで減少してしまったのである。
それはプロジェクト・ドッペルゲンガーが発動するまでは、武装した人間が直接、地上へと食料を確保しに行かねばならなかったため。
圧倒的な身体差の猛獣たちには既存の兵器では役に立たず。
かといって新開発した携帯兵器群を用いてもその反動を抑えることが出来ず、まともに扱うことが出来ないという。
その時代の彼らは、草食獣のように息を潜めながら、猛獣に気付かれないよう行動する事しかできなかったのである。
「おはよ~。はい、モーニングAね」
「おう、おはよう、輝夜」
「おはよう」
輝夜が運んできたのはモーニングAセット。
麦飯、豆腐の味噌汁、ほうれん草のおひたし、目玉焼き、焼き鮭、というラインナップだ。
いずれもプロジェクト・ドッペルゲンガーが発動してから再び食べられるようになった食材ばかりである。
「今日はとろろね」
「おぉ、いいね。精が付く」
「僕はネバネバ系は苦手だ」
「いいから食え。この時代に泣き言は許されぬぅ」
「柔の型が嫌だって散々、泣き言を言ってたじゃないか」
「それはそれ! これはこれ!」
「仲良いわね、あなたたち」
二人はギャーギャーと喚きながらも朝食を完食。
しっかりと食に感謝を捧げた後にドッペルビルへと向かった。
ドッペルビル・32F、ドッペルドール研究所。
そこでは多くの科学者たちがドッペルドールの調整、開発に明け暮れる。
ドクター・モモは今日もそこに籠っていた。
目の前のカプセルには桃吉郎と凍矢のドッペルドールの姿。
「……ふむ」
老博士は液晶画面に表示されるパラメーターに目を細める。
そのいずれもが想定外の結果となっているからだ。
「(成長が早い。たった一度のリンクでこうもなるものなのか?)」
二体のドッペルドールは特別製とはいえ、こうも過度な成長を見せるとは予想していなかったのである。
ドクター・モモはカプセルに手を置き、休眠状態の少女の顔を見詰める。
「(もしかすると、もしかするかもしれん……この異常な【MP】上昇率)」
ふっ、と小さく息を吐き出す。
それは自身の迷いを吐き出す行為と同義だ。
「急がねば……【MPW】の開発を」
珍しくシリアスな表情の老博士だったが、それは喧しく入室してきたゴリラに阻害される。
「おい、クソ爺! 仕事しに来たぞ!」
「喧しいわい、ゴリラ。わかっとるから上でまっとれい」
「おっ、こっちの子は乳首黒いな」
「こりゃっ、よそ様のドッペルドールじゃぞっ。じろじろ見るでないわい」
基本的にドッペルドールは全裸で調整される。
異常な個所を発見するには仕方のない処置と言えよう。
コントロールセンターのコクピットシートにて待機していた桃吉郎たちの下に、ドクター・モモがやって来た。
彼が手にしたリモコンのボタンを押す、と床が開き、そこからカプセルがせり出してくる。
この下はドッペルドール研究所と繋がっており、そこで調整したドッペルドールを移動させることが可能だ。
逆もしかりである。
「準備は良いかの?」
「こっちは問題ねぇ」
「僕もです」
「よろしい、ではドッペルドールを起動したまえ」
「「ソウルリンク・スタート!」」
桃吉郎たちの二日目となる活動が開始された。
まずはすすきの要塞へと移動。
そこでクエストを受ける。
クエストは昨日と同じ物を選択。
ただし、本日は少し遠くまで探索する、といった内容だ。
「う~んっ、胸が重いっ!」
「文句を言うな。女性は大なり小なり、そういう苦労があるんだ、と思っておけ」
「輝夜もか?」
「ふむ……そうじゃないか? あの見た目だと結構大きいはず」
「そうだな。こいつの3分の2くらいか?」
「かもしれないな」
桃吉郎は、ふにふにと乳房を揉む。
柔らかな感触が手に伝わってくるが思う所はない。
それは自分の乳房だからだ。
「そうなると、凍矢はずるいな。一人だけ身軽だ」
だからこそ、こういった発言が出て来るのだろう。
「その代わりに尻が大きいんだ、それで勘弁してくれ」
「女の尻がデカいのは当たり前だろ? こいつもデカいし」
「それとは比べ物にならんだろ」
「むーん?」
桃吉郎はしゃがみ込み、凍矢のドッペルドールの尻を撫でまわした。
柔らかな感触が手に伝わってくる。
「んひぃっ!? 馬鹿ッ!? やめろっ!」
「うむ、確かに大きい気がする」
しかし、桃吉郎のドッペルドールも尻が大きいのでいまいち違いが判らなかったという。
「それっ」
「ふぎゃぁぁぁぁぁぁっ!? ちょっ!? 何すんのよっ!?」
なので、身も知らずのドッペルドールの尻を鷲掴むという暴挙に出た。
赤髪のほっそり系少女は悲鳴を上げ、反撃しようと手を振り上げる。
「ふむ、なるほど。これが普通の尻というものか」
が犯人を見て振り上げた手を止めることになる。
「このへんた……って女の子っ?」
「うむ」
続いて桃吉郎は自分の尻を揉む。
そうして、ようやく納得がいったようだ。
「やっぱ尻デカいわ、こいつ。削って欲しいよな」
「ドッペルドールは一度生成したら変更が効かない」
「だって、これをデザインしたのは、あのクソ爺だぞ? 責任取らせろ」
ぶーぶー、と文句をのたまうむっちり美少女に違和感を覚える性被害の少女は、思い切って桃吉郎たちに問うた。
「ひょっとして……あんたら中身、男?」
「あぁ、そうだが?」
「げっ」
そう聞かされた赤髪の少女は、振り上げた手をどうしようかと迷う。
中身は男だが、ドッペルドールは女。
しかも、ぷにぷにむっちむちの美少女だ。
加えて自分好みである。
男は誅すべき。
しかし、それは女だ。
赤髪の少女はパニックに陥る。
その末に出した答えがこれだ。
「仕方がないっ! おりゃぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「うおぉぉぉっ!?」
赤毛の少女は桃吉郎の爆乳をテクニカルに揉んだ。
彼女は、その蠱惑的な感触に100点を超える114514点を授与する。
「ふぅ……いきなり尻揉みの罪は、これで帳消しにしてあげる」
「ありがとう、っていえばいいのか? 凍矢」
「僕に聞くな」
桃吉郎は他人に乳房を触れられる感触は初めての事だ。
自分とは違うそれに、なんとも言えない感情が湧いてくるのを感じ取る。
「あれだな、いきなり他人に触れるのはダメだな。心がヒュンとなる」
「今更? 本体の時はどうなのよ?」
「俺の本体は鋼の肉体だから平気なんだ」
「どんだけよ……」
赤毛の少女は呆れた。
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きっと納豆菌がやる気を出しますぞ。
 




