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56話 抜き身の刀

「ごるるるるる……」


飛び掛かって来たそれは、人型の何かだった。


獣と言えばそうだし、獣ではないと言われれば納得もできた。


「ぬぅんっ!」


唯一つ、それらに共通するであろうことは、人間に対して激しい殺意を抱いている、という点であろう。


だから、桃吉郎は迷わず拳を振り抜いた。


彼の鉄拳は奇妙な獣の腹部に突き刺さる。


その部分が爆弾か何かで爆ぜたかのような結果を残す。


そのあまりの威力は背後から背骨が砕け飛び散るレベル。


直ちに猛獣は絶命する。


「む……思ったよりも【脆い】な」

「おまえが馬鹿力なだけだ」


凍矢は護身用の短刀を腰から引き抜く。


いわゆるドスである。


それを凍矢に飛び掛かって来た猛獣の首に狙いを定めて一閃する。


目的は首を跳ね飛ばすことではなく、動脈を切断することだ。


おびただしい鮮血を撒き散らす猛獣。


暫くは動けるだろうが、あと数分も経たぬ内に動かなくなるだろう。


彼らを取り囲む猛獣の数は二桁に近い。


「俺たちだけ、ってわけでもなさそうだな?」

「どういうことだ? というか……こいつらはっ!」


凍矢は猛獣を観察して衝撃的な事実に気付いた。


「人間……!?」


それは人間の顔と身体を持っていた。


男女があり、衣服を身に纏っていないせいでそれがハッキリと区別が付く。


しかし、それらには人間ではない部分が備わっていた。


甲殻類のハサミ。


昆虫の複眼。


鳥類の羽。


爬虫類の鱗。


数えきれない異質の特徴がバラバラに備わっていた。


規則性、利便性などは無い。


子供が思い付きで改造したかのようなそんな存在。


それらを言い表すならこうであろうか。


――――――失敗作。


「人間、っていえば人間なのかもな。だが、そんなのは知ったところじゃない」

「僕はそんなに割り切れないさ。でも、やることは理解している」


桃吉郎のメンタルは常人のそれではない。


対して凍矢は割と常人よりだ。


それでも、事実を理解して自己を失う、というやわな精神はしていない。


武器を構えて人間のような何かに備える。


「ひぎぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!」


顔が昆虫の複眼で覆い尽くされた女が飛び掛かって来た。


「破っ!」


その顔面を桃吉郎が拳で砕く。


頭部を破壊された人間モドキは、そのままの勢いで地面に転がって動かなくなった。


「めんどくせぇ……一気にやっちまうか」

「同感だな。時間をかけている暇はなさそうだ」


ここ以外にも人間モドキは多数存在している。


特にドッペルビルの周辺にはおびただしい数の人間モドキの姿があった。


明らかに何かの目的があって人間モドキを送り込んだ存在が居る。


凍矢はそこまで意識を巡らせていた。


対する桃吉郎はこうだ。


全部、ぶっ飛ばせば解決。


う~ん、この。


「吉備津流! 木花・桃吉郎! 参る!」

「やれやれ……吉備津流、東方・凍矢、いざっ」


桃吉郎と凍矢がこの日、初めて【戦闘態勢】に入った。


その圧はドッペルドール操作時の比ではない。


この二人にとって、ドッペルドールとのソウルリンクはいわば、刀を鞘に納めたまま戦っているのも同義。


いま、両者は正しく【刀を抜いた】のだ。


「吉備津流・剛の型!【とどろき】!


桃吉郎が両の手で前方に掌底突きを繰り出す。


それには練り込まれた闘気が練り込まれている。


桃吉郎のオーラは異常だ。


何故なら、それは可視化にまで至るのだから。


突き出された掌底から解き放たれる黄金の輝きは螺旋を描き、それは徐々に広がり伸びてゆく。


それはさながら真横に発生する竜巻だ。


黄金の竜巻は人間モドキたちを飲み込みながら粉々に破壊していった。


一切の慈悲もない、完全破壊だけが目的の殺人技である。


尚、本来の轟はこのような物ではなく。


分かり易く言えば【波動拳】みたいな技で、有効射程距離も短い。


桃吉郎がおかしいだけなのである。


「吉備津流・柔の型……【斬影】」


凍矢もオーラを用いての技を駆使する。


ただし、桃吉郎とは違い、オーラ本来の運用方法を良しとしていた。


即ち、身体強化である。


しかし、長く桃吉郎と過ごしているせいか、彼のオーラもバグっていた。


柔の型【斬影】は、相手の意識外からの斬撃を見舞う、というものでフェイントと無駄のない動きからの急所攻撃が肝となる。


だが、凍矢の【斬影】は無駄に素早過ぎる動きからの急所攻撃となる。


つまり、真っ直ぐ行ってぶん殴る、をスタイリッシュに行っているだけだ。


しかし、これを知覚できないほどの動きで行うとどうなるか。


残るのだ。


残像が。


己の急所を切り裂いた凍矢の幻影が。


それは恐怖だ。


死を告げる者の姿だ。


自分は助からないと理解してしまうのだ。


吹き出す鮮血、痛みが真実味を増す。


ある程度、知性がある者であれば、これが如何に残酷なものであるかを理解して死に至るであろう。


戦いは一瞬で一方的だった。


一般人であれば絶望的な状況下でも、この二人に掛かれば蟻が数匹、足元でわちゃわちゃしている程度に過ぎないのである。


まさに、足で踏み潰した状態。


無茶苦茶である。


「よし、片付いたな」

「あぁ。こいつらを調べるのは後だ。今は……」

「急ごう、ドッペルビルに。輝夜はもう仕込みに来ているはずだ」

「……分かった」


二人の強者は護るべき者の下へと急ぐ。


既にドッペルドールたちが応戦しているが旗色が悪い。


それは、地上と地下を繋ぐ高速エレベーターを人間モドキに抑えられてしまい、増援が期待できない状態だからだ。


現在、地下都市に戦える者は殆どいない。


絶対に安全、という意識の裏を突かれた状態。


果たして、地下すすきのは絶望的な状態から抜け出すことが出来るのであろうか。

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― 新着の感想 ―
[一言] 両手から轟を放つとその黄金の螺旋から生じる圧倒的破壊空間はまさに歯車的砂嵐の小宇宙!になりそう(小並感
[一言] ゴリラやらかす 桃吉郎「かめ○め波!か○はめ波!」 凍矢「そっちは怒られるから辞めろ!」
[一言] 敵兵の正体は・・・ 人間の・・・?
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