53話 ブレーキ? 知らない子ですね
「――――というわけだ」
「なんだか無茶苦茶ですね」
ジャックよりアイアンゴーレム討伐の顛末を聞かされたトラクマドウジは、感嘆というよりかは呆れに近いため息を吐いた。
もし、自分の仲間がそのような暴挙に走れば、まず確実に止めるからだ。
トウキのチームは良い意味で、また悪い意味でブレーキが利かない。
全員が止めても無駄、という認識でいるから仕方がないだろう。
「俺、凄い?」
「あぁ、色々な意味でな」
トウキは空になったカレーライスの皿を舐めながらドヤ顔を炸裂させた。
お行儀が悪いので、皆様は決して真似される事無きようお願い申し上げます。
「れろれろれろれろれろ」
やめんかっ。
「しかし、ビーム兵器ですか。他国が黙っていないのでは?」
「今更、他国が出しゃばって来ても意味など無いさ。国際法も形骸化して久しい。なんの効力も持たないだろうよ」
トラクマドウジの危惧を、ジャックはさらっと流す。
彼の言う通り、国際連盟は既に形骸化し機能していない。
しかも、猛獣たちによって各国の繋がりは断たれ、今は独自の戦力で自国を護るより他にない状態だ。
ドッペルドールを用いた活動も日本独自の物であり、その技術はネットを通して各国に伝わっている。
そう、インターネットのみ、各国を繋げることが出来たのだ。
ただし、殆どの国はこれをデマ、誇大妄想、プロパガンダと決めつけて信用していない。
実際に見て確かめることが出来ないのだから仕方のない事である。
ただし、この技術を模倣しよう、という動き自体はある。
その実験は基盤というか、土台が無いので、必然的に非人道的なものとなっているようだ。
「作ったのはどなたです?」
「言う必要が?」
トラクマドウジの追及するかのような態度にトーヤが憮然とした態度で対応する。
彼女は彼から嫌な何かを感じ取ったのだ。
「あります。僕はこれでも中央の管理側に立つ人間だ。こういった兵器は……」
「ドクター・モモ製だ」
「……」
トーヤはトラクマドウジの言葉を遮って答えを言った。
トラクマドウジは沈黙した。
それは、ドクター・モモには関わるな、が中央でも成立しているからだ。
中央のトップ連中は口を揃えて言うのだ。
アレに関わって生還できる奴は殆どいない、と。
絶対に関わってはいけない、と。
それでも切り捨てることが出来ないのには訳がある。
ドッペルドールにはブラックボックスが存在する。
それは決して黙視できる物ではなく。
ただ唯一、ドクター・モモだけがそれを開示することが出来たのだ。
だからこそ、ドッペルゲンガー計画を発動することが出来た。
彼こそが間違いなく、日本を救った張本人。
未来を繋げた功労者。
だが――――彼は同時に狂人で、犯罪者だった。
だから、中央には組み込まず、地方に飛ばして存在を有耶無耶にしているのだ。
「ドクター・モモでは相手が悪い。分かりました、この件は秘匿とします」
「理解が早くて助かります」
トーヤは久しぶりにコーヒーを堪能している。
先日、モブチーム【モヒカンズ】が【コーヒーアラ】という腹の袋に極上のコーヒー豆を蓄える茶色のコアラを捕獲したのだ。
その猛獣のDLは0。
ただし、捕獲には苦労を要する。
コーヒーアラは高い樹の上に生息する獣なので、そこまで登らないといけないのだ。
その無防備なところを他の猛獣に狙われる可能性が極めて高く、総合的なDLは12に及ぶ。
しかし、それでも捕獲に臨むのはコーヒーの醸し出すアロマに逆らえないからだろう。
結果、一ヶ月分にも及ぶコーヒー豆が採取できた。
豆を取り出されたコーヒーアラは手厚いブラッシングを成された後に再び放される。
また、コーヒー豆を蓄えてもらうために。
「俺はコーヒー苦手~」
「なら、なんで頼んだ」
「みんな飲んでたから」
トウキの舌はお子ちゃまのようで、本体程、苦さの抵抗力が無かったもよう。
折角のコーヒーに大量の角砂糖とミルクを投入し台無しにしてしまった。
「うまうま」
「それはもうコーヒーじゃないね」
それでも美味しそうにコーヒーだった物を飲むトウキに、トラクマドウジは微笑んで見せた。
「それで、おまえさん方。これからどうするんだい?」
ジャックの質問にトラクマドウジは答えた。
「旭川を攻略します」
「やっぱりな。札幌の面目が潰れるぞ?」
「本部はそのような些末な事を気にしたりはしません。それに、猶予も与えました」
「まぁ、な……反論のしようもねぇわな」
札幌支部の旭川市攻略失敗の報は東京本部を落胆させるには十分だった。
だからこそ、若手の精鋭チームオーガを送り込んできたのである。
僅か四人という人数を送り込んだのには理由がある。
それは、現地で使えそうな人材を発掘させて中央に取り込む、という目的のためだ。
東京本部はあくまで支援するのみ。
これは地方で育った作物を刈り取って本部を豊かにする、という目的があってこそ。
いま、それを実行に移しているのである。
それが嫌なら、支援を断るか、自分たちの力でなんとかしろ、という圧力政策を敷いているのだ。
「……旭川攻略戦に参加しませんか?」
「俺は嫌だね」
ジャックは即座に断った。
彼の事情を知っていれば納得の返答である。
ただ、トラクマドウジは諦めなかった。
なので次のカードを切る。




