51話 それは分厚い
ジャックは度重なる激戦にDBCの強化を構想し、それを実行に移していた。
後部可動ユニットに主砲たる【88ミリ砲】を設置したのである。
威力こそ並ではあるが、その分、可動範囲を柔軟な物とし、480度旋回可能。
上部には90度垂直に構える事が可能。
更には自由に動くアームに主砲が取り付けられている。
これにより、ほぼ射角に隙が生じない仕様だ。
逆に言えば、柔軟に対応するためのアームに取り付けたため、これ以上の威力を持つ砲塔を取り付けることが出来なかったのだ。
発射の反動によって、アームが損傷してしまうのは本末転倒である。
これ以上威力を求めるのであれば、DBCではなくDBTが必要になるだろう。
ただ、お値段がとんでもないので、個人での購入は難がある。
DBTは一台約【12億円】もするのだ。
それに個人がDBTを使う場面などそうそう起こり得ない。
それこそ拠点防衛戦の時くらいの出番であろうから。
なので、ジャックのようにDBCをプチ改造する、といった運用方法が主流となっている。
よって、そのための設備も充実していた。
「おらっ! おニューのキャノンを喰らえっ!」
早速、88ミリ砲が火を噴く。
的が大きいので外すことはない。
素直に砲弾はアイアンゴーレムに直撃した。
ジャックが放ったのは一般的な砲弾で、命中すると内部の仕掛けが作動し爆発するタイプだ。
その威力は大抵のDBTを中破~大破まで持ってゆく威力を秘めている。
だが――――アイアンゴーレムの装甲が少し焦げた程度で終わった。
「おいおい、どんだけ分厚いんだよ」
アイアンゴーレムは鉄でできている。
素材の強度からして、そこまで頑強ではないはずだ。
しかし、それは厚みが違った。
外側だけということはなく、中までぎっちりと鉄が詰まっているのだ。
生半可な威力と熱では変形させることすら不可能だろう。
「ちょっと!? 戦車砲よね!? 大きなクラッカーじゃないわよね!?」
「ジョークにしちゃあ笑えんなっ……とぉ!」
ジャックは戦車砲が効かないと理解すると逃げの一手へ方針を変える。
そして、ドリフトさせながらお米シャワーたちの進路を塞いだ。
進路をふさがれたお米シャワーたちは突然の事に固まってしまう。
「それっ!」
「ぴぃっ!?」
その隙を突いてトウキが車から飛び降りてお米シャワーたちを、どんどん後部可動ユニットに放り込んでいった。
その人数、三名。
無論、全員が野生で生きる獣なので全裸。
映像がこわれちゃ~う!
そして、素早くトウキも車に乗り込んで緊急発進。
その間にトーヤとデューイはお米シャワーたちにトウキのビキニを着させていた。
その手際の良さに撮影班たちもにっこりである。
「ぴゅーい」
「ひぃ?」
「ぴゅみ~」
何がなんだかよく分からないが、自分で走るよりも早く何より疲れない。
体力が既に限界だったお米シャワーたちは、特に抵抗するでもなく大人しく座っている。
しかし、アイアンゴーレムはしつこく追いかけて来た。
「まだ追って来てる! 下手したらすすきの要塞まで追ってくるわよっ!?」
「そりゃあ、よろしくねぇな」
ジャックは、一応は逃走しながらも主砲を放つ。
しかし、結果は先ほどと同じく効果無しだ。
「狙い撃ちます」
「人間用の狙撃銃でどうにかなるものじゃないでしょうっ!?」
ずびゅうぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅんっ!
ジュボッ!
「むぅ……貫通しただけか。これだからエネルギー兵器は」
「ちょーっ!? 今の何っ!? なんかピンクの線が、ずびびゃあっ、て伸びたんですけどっ!?」
トーヤのビームライフルでもアイアンゴーレムを撃ち貫く事は出来たが、仕留めるには至らない。
鉄の巨人に痛覚などあるはずもなく。
ただひたすらに命令に従う鉄の塊に過ぎないのだ。
倒すのであれば、バラバラにして行動不能にするより他にない。
「よーし、首を刎ねようぜ」
「とうきちゃん、正気っ!? 絶対に無理!」
しかし、トウキは頭お花畑。
失敗した時の事など考えているはずもなく。
「大丈夫だ! 俺には新兵器のこいつがある!」
「それって鞭よねぇ!? 鞭じゃ鉄を切り裂く事なんてできないわよっ!」
「やる前から諦めたら、そこで試合終了だぞ!」
「なんか良い事言った風になってるけど、この場合、そのセリフは死に直結するからねっ!?」
「いくぞー!」
「誰か止めてーっ!」
トウキはデューイの制止を振り切って車から飛び降りた。
一度やると言ったら聞かない火の玉娘に明日はあるのか。
答えから言えば、あるんだなぁ、これがっ。
「おっしゃ! 新兵器で戦力二倍! そして、ずっと使ってる刀を合わせれば百倍だぁぁぁぁぁぁぁっ!」
そんなわけない。
どこの理論だ、いい加減にしろ。
しかし、思い込んだらとことん突っ走る。
それが脳内マッスルの厄介、且つ凄いところ。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
本人的には勇ましい場面尚だろうが、トウキの声が可愛い系なので、いまいち迫力がない。
しかも姿が黒ビキニ。
何の冗談か、と言いたくもなる。
果たして巨大な鉄巨人にトウキの攻撃が通用するのか。
ぺちっ。
かちんっ。
「やんっ、かたぁい♡」
トウキの渾身の攻撃は1ミリもアイアンゴーレムに通用しなかった。
寧ろ、通用すると本気で思っていたのが凄い。
攻撃が通用しなかったトウキは慌てて車まで猛ダッシュ。
静止してくれたデューイにジャンピング土下座を敢行する。
「まったく成果を出せませんでしたぁぁぁぁぁっ!」
「アホかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
流石のトウキでも、これには手も足も出ないようで。
しかし、彼女は諦めが悪い事でも突き抜けている。
「にゃろう……俺を本気で怒らせたな?」
「まだやる気なの?」
「当たり前! 当たり前! 当たり前ぇぇぇぇぇっ! 俺は吉備津流武術の継承者……あ、吉備津流使ってなかったわ」
ぶにっ。
デューイの怒りのほっぺた伸ばしが炸裂。
トウキはぶちゃいくな顔に変化した。
本当にこんな事でアイアンゴーレムを仕留めることが出来たのであろうか。
「ジャック! 何かいい方法は無いのっ!?」
「そんなのがあったら、とっくに使ってる!」
ジャックの運転テクニックは更に磨きがかかっていた。
車を踏み潰そうとしてくるアイアンゴーレムに対して速度の増減を巧みに利用して回避行動を行っているのだ。
そして遂にはわざと急ブレーキを踏んで停止、からのバック走行でアイアンゴーレムの背後を取る。
「背後を取った!」
「もう一撃!」
88ミリ砲の代わりにトーヤのビームスナイパーライフルが火を噴く。
その桃色の一撃は、やはり鉄の巨人を貫く。
しかし、それだけだ。
仕留めるには至らない。
「くそっ、どこを狙えばいいんだ」
「首だ、首っ、喉仏の辺りっ!」
迷うトーヤにトウキが口出しをしてきた。
「何か策があるのか?」
「ちょっと、昔を思い出した」
トウキはデューイによるほっぺの刺激によって昔の事を思い出したもよう。
それは、幼き日の稽古の風景。
祖父による厳しい組手は桃吉郎に恐怖と知識、そして技術を植え付けた。
「傷が少しでもあれば十分っ。やれるよな?」
「誰に言っている?」
挑発されたトーヤはビームスナイパーライフルを構え、スッと息を吸い込む。
「―――っ!」
そして、引き金を引く。
桃色の光線はアイアンゴーレムの背中を貫通し見事、喉仏を貫通していった。
「言われたとおりにやったぞ。で、どうするんだ?」
「まぁ、見てなって」
トウキは立ち上がり、スッと息を吸うと、それをゆっくりと吐き出した。
身体中の力を抜いて自然体へと調整する。
「じゃ行ってくる」
再びトウキが車から飛び出した。




